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YA・SU・ME! その2

 朝、倒れてしまった僕ですが、そんな僕の元に本店の店長補佐をしてくれているブリリアンがやってきました。
「あ、ブリリアン申し訳ない、今日は迷惑をかけてしまって……」
 僕は上半身を起こしてそう言うと頭を下げようとしたのですが、そんな僕のもとに駆け寄ってきたブリリアンは
「とんでもない、むしろ謝罪するのは私の方です」
 そう言いながら、僕の肩に手をあて、自らの頭を下げていきました。
「何事も店長に任せておけば大丈夫……そう思ってしまい、私は店長補佐という大役を仰せつかっておきながらその任務を全くまっとう出来ていませんでした。そのせいで店長殿が疲労で倒れてしまい、本当に申し訳ない」
「いやいや、ブリリアンはいつもしっかりやってくれているよ、悪いのは体調管理が出来ていなかった僕であってだね……」
「いえいえ、そんなことはありません。やはり私がですね、もっと頑張っていれば……」
「いやいや、それは僕の責任であってだね……」
「いえいえ……」
「いやいや……」
「いえいえ……」
「いやいや……」

 ……とまぁ、なんかベッドの上と下で壮絶な謝罪合戦を繰り広げ始めた僕とブリリアンはお互いにこれでもかってぐらい頭を下げ合っていたんですけど、そこに戻ってきたパラナミオがですね、
「あの、パパもブリリアンさんも何をしているのですか?」
 って言いながら不思議そうな顔をしていたわけです、はい。

 で、その後、ブリリアンから店の話を聞いたのですが……
 朝一の弁当・惣菜作成作業は魔王ビナスさんが中心になって乗り切ってくれたそうです。
 さすがに1人で全てをこなすのは難しかったとのことで、急遽勇者ライアナを連れてきて手伝ってもらったことでどうにかなったそうです。
 しかし、勇者ライアナってブツブツ文句ばかり言っているイメージが強かったのですが、その気になれば接客もしっかり出来るし、こうして料理も出来るという、なかなか有能な人材だったんだっていうことを実感している今日この頃なわけです、はい。

 接客も、魔王ビナスさんが勇者ライアナに引き続きやらせようとしてくれたそうなんですけど、なんでも、
「もう無理! 今日はマイラバーを1日追いかけるつもりだったんだからこれ以上は勘弁して」
 って言いながら逃げるようにして帰って行ってしまったそうなんです。
 その代わりに頑張ってくれたのがルービアスだったそうです。
 いつもは、店内商品の補充や試食品の配布作業をメインに頑張ってくれているルービアスなんですけど、急遽僕のかわりにレジや接客作業に従事してくれたんだとか。
「まだまだ拙いものの、一生懸命頑張ってくれました。おかげで今日を無事乗り切ることが出来た次第です」
 と、いつもは辛口な発言が多いブリリアンが、とても褒めていたんです。
 以前のルービアスでしたら、ウルムナギ……僕の元いた世界でいうところの鰻がですね長年生きて尻尾が割れて人になれたという彼女はですね、緊張したらその手にぬるぬるした汗をかきまくってしまいレジ作業なんて出来っこなかったんですけど、しっかり成長してくれてたんだなぁ、と感心といいますか感動しきりだったわけです、はい。
 
 で、店はすでに閉店しているそうです。
 っていうか、そんな時間まで僕は寝ていたんだなぁ、と、改めて認識した次第です。

 で、いつも僕がやっている各支店の売り上げの集計作業なんですが、商店街組合のエレエがわざわざ来てくれてやってくれているそうです。
「え? エレエが?」
 それを聞いた僕は思わずびっくりしてしまいました。
 エレエはあくまでの商店街組合の職員です。
 経理事務にめっぽう強いエレエは、商店街に店をだしている人達の経理に関する相談にのることはあるものの、その手伝いをすることはまずありません。
 といいますのも、手伝い作業を行っていくと、我も我もと希望者が殺到するのが目に見えているため公正を期すためにあえてやっていないんだと聞いたことがあります。
 僕がブリリアンにびっくりしたような声をあげていると、そんな部屋の中にそのエレエが入って来ました。
「あ、店長さん、少しはよくなられましたですです?」
 そう言うと、エレエは笑顔を浮かべながらベッドの側へとやってきました。
「すまないねエレエ。なんかこんなことまでしてもらっちゃって」
 僕は頭を下げながらそう言ったのですが、そんな僕に向かってエレエは深々と頭を下げました。
「何を仰いますですです。私達商店街組合が、店長さんにこのガタコンベの領主をお願いしてですね、余計な仕事を増やしてしまったことも原因の1つだと思うのですです」
 そう言い、何度も頭を下げるエレエなんですが、正直その影響は小さいと思っています。
 何しろ、王都から届いてくる書類はすべてエレエが内容を確認してくれていますし。、面倒くさい作業なんかもすべてエレエがしてくれていますからね。
 正直、僕よりもエレエの方が疲れていないとおかしいと常日頃から思っているほどなんです。
 ですが、そんな僕の目の前にいるエレエは、その顔に疲れのつの字も浮かんでいるようには見えません。
「私達は四六時中働いていないと落ち着かない種族ですです。なので何の問題もないのですです」
 エレエは、そう言うと後頭部をかきながら笑っていました。
 で、エレエは
「店長さんがよくなるまでお手伝いさせていただきますので、しっかりお休みくださいですです」
 笑顔でそう言ってくれました。
 確かに、今朝のあれはホントにひどい状態でした。
 エレエが言うように、良い機会なので一度しっかり休むのもいいかもしれません。
「じゃあ悪いけどエレエ、しばらくよろしく頼むね」
「はいですです!」
 僕の言葉に、エレエは笑顔でそう答えてくれました。

◇◇

 エレエとブリリアンが帰っていくと、一度スアのお手伝いのために部屋の外へ行っていたパラナミオが戻って来ました。
「パパ、何かしてほしいことはありますか? 何でもしますよ」
 パラナミオは笑顔を浮かべながらそう言ってくれました。
 すると、その後方からリョータ・アルト・ムツキも駆け寄ってきました。
 3人も、パラナミオ同様に、
「パパ、僕も何でもしますよ!」
『私もです』
「ムツキもにゃしぃ!」
 そう僕に声をかけてくれました。
 アルトは思念波でそう話しかけてくれたんですけどね。
 そんな皆に、僕は笑顔でお礼を言いました。

◇◇

 この日の夕食は、ヤルメキスが作ってくれました。
 いつもなら、店が終わると向かいのルア工房に勤めている旦那のパラランサくんと一緒に家に帰っているヤルメキスですが、
「て、て、て、店長様が大変な時ですから、こ、こ、こ。これくらいは喜んでさせていただくでごじゃりまする」
 そう言いながら、僕の家族のみならず、おもてなし寮に住んでいるみんなの分まで夕食を作ってくれました。
 以前はお菓子以外ほとんど作れなかったヤルメキスですが、最近はオルモーリのおばちゃまに色々料理を教わっているそうで、煮物や炒め物も上手に作ってくれていた次第です、はい。

 ベッドで夕飯を済ませた僕はお風呂に入ろうとしたのですが、そこにスアが歩み寄って来ました。
「……旦那様、疲れをとりましょう、ね」
 そう言ってスアが連れてきてくれたのは、ララコンベの温泉でした。
 転移ドアをくぐってララコンベへとやって来た僕達家族一同は、そのまま温泉旅館へと入っていきました。
 スアが予約を入れてくれていたらしく、僕達は宿の中の一番良い部屋に案内されました。
 ベランダに部屋湯がある部屋です。
 そこで、僕は、家族みんなと一緒にのんびり温泉につかりました。
 いつもの家の湯にも温泉の湯を引いてはいますが、こうして露天風呂に入りながらのんびりしていると、身も心も安まるような気がしないでもありません。
 で、お湯につかっている僕の右腕をパラナミオが、左腕をリョータが、アルトとムツキは後方から肩を、それぞれ揉んでくれています。
 正直、少しこれはやり過ぎじゃないかと思ったんですけど、でもまぁ、たまにはこういうのも良いかなと思い直した僕は、みんなにされるがままになっていた次第です、はい。

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