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第3話(1)つまりは表に出ろと

「隼子! 無事か!」

 大洋が医務室に駆け込むと、ベッドに横たわっていた隼子は右手を軽く挙げて応えた。

「おお、いや大丈夫、大丈夫。大したことあらへんがな」

「そうか……」

「複数箇所に軽い打撲よ。骨には異常ないわ」

 白衣姿の女性が長い黒髪をかき上げながら近づいてきた。

「えっと……」

「そういえばこうして挨拶するのは初めてかしら? この会社の勤務医兼カウンセラーの真賀琴美(まがことみ)よ。君が墜落してきた日も会っているんだけど……お変わりないかしら?」

「ああ、はい、その節は大変お世話になりました。俺は特に大丈夫です」

「そう、なら良いけど」

 そう言って、真賀は飴を舐め始めた。大洋の視線に気づき、説明する。

「これはシガレットキャンディーよ。私、自分で言うのもなんだけど、大のニコチン依存なの。とはいえ勤務中にタバコを吸うわけにはいかないからこれで我慢してるの」

「それを我慢してるって言わないでしょ……」

 隼子がゆっくりと体を起こした。

「平気なのか?」

「もう一時間もここで横になっていたからな、大丈夫や」

「無理しない方が良いわよ?」

「いえ、まだ色々と仕事が残っていますので」

「パイロットさんはタフね~私なら今日はサボっちゃうわ」

「本当に平気か?」

「くどいな、ホンマに大丈夫やって」

「それなら良いが……」

「……着替えたいんやけど」

「ああ、スマン」

 大洋は医務室から出て、廊下で待った。

「お世話になりました……ん? 何や、わざわざ待っといてくれたんか?」

 制服に着替えた隼子が医務室から出てきた。

「……」

「大洋?」

「美人だな、あの先生。今まで気が付かなかった……」

 思わぬ言葉に隼子は軽く空を仰いだ。

「真賀先生はアンタよりもちょっと前にこの会社に来たんや。前の勤務医が随分とおじいさんでな、年齢的にそろそろ辞めたいって言うて。そしたら知り合いの知り合いとかであの先生が来たんや。それから大したことも無い癖に、ちょっと調子が悪い言うたら、医務室に行く男性社員が増えたで、全く男っちゅうもんは……」

 隼子は窓の外を見つめながらブツブツと文句を言う。

「カウンセラーと言っていたが?」

「ああ、なんかそういう資格も持っているらしいで、アンタも相談してみたら?」

「何を相談するんだ?」

「何ってそらアンタの記憶喪失に関してやろ。詳しいことは分からんやろうけど、もしかしたら専門医とか紹介してくれるかもしれないで」

「そうか、まあ後で機会があればな」

「今はアカンの?」

「今は別の用事がある。それにお前に伝言があるからな」

「伝言?」

「おお、なんだ、飛燕。もう退院か?」

 見るからに軽薄そうな茶髪の男が声を掛けてきた。隼子が苦々しく呟く。

「佐藤さん……」

「折角見舞いに来てやったのに。まあ、真賀ちゃんに会うついでだけどな」

 軽薄そうな男の隣に立つ、チャラそうな金髪の男がニヤニヤと語る。

「鈴木さん……」

「……この人たちは?」

「ウチの会社の正規パイロットのお二人や……」

「とりあえず大したことないみたいで良かったぜ。あれ位で大怪我されちゃ、おちおち模擬戦も出来ねえからな」

「怪獣を二体も撃破したって言うから少しは期待したのによ。あの体たらくじゃ俺らの練習にもならないぜ」

「そうそう、折角ロボチャンの県大会を勝ち抜いて、九州大会進出を決めたってのによ。かえって腕が鈍っちまうぜ」

「これで調子崩したらどうしてくれるんだよ?」

「……まさか二対一とは聞いていませんでした! それが分かっていればもう少し対処の仕様がありました……」

「言い訳すんなって」

軽薄な茶髪の言葉にチャらい金髪が同調する。

「そうだよ、実戦で相手の数を必ず把握出来るとは限らないんだぜ?」

「すみません……精進します」

 隼子は俯きながら答えた。茶髪が頭を掻きながら答える。

「いや、もういいぜ、お前」

「え?」

「入社して三年目だろ? それで俺たちにまともに攻撃を当てられないんじゃマジで才能無えって、いい加減辞めとけよ」

「そうそう、マジで大怪我する前にさっさと実家に帰った方が良いぜ」

「それは……」

「あ、事情あって帰れねえんだっけ、お前?」

「くっ……」

 隼子が拳を握りしめる。

「え、事情って何よ?」

「あれ、知らねえのお前? コイツさ……」

「先輩方」

 大洋が話を遮る。

「なんだよ、お前?」

「自分もパイロット志望なんです。お疲れの所申し訳ありませんが、自分とも模擬戦をやってくれませんか?」

「あ、お前確かエンジニアだろ? なんでお前とやらなきゃいけない訳?」

「そこをなんとか。是非ともご指導ご鞭撻を賜りたいのです。勝つためなら手段を選ばない、卑劣な戦い方の」

「ああ?」

「何? もしかして喧嘩売ってる?」

 金髪の問いに大洋はにこやかな笑顔で返答する。

「言葉の意味が分かりませんか? 表に出ろってことです」

「……! この野郎!」

「上等じゃねえか……十分後、演習場に来いや」

 そう言って、茶髪と金髪は踵を返し、格納庫の方に向かっていった。

「大洋、喧嘩はアカンって!」

「喧嘩じゃない、模擬戦をするだけだ」

「まさか、光で出るんか?」

「光はここ数日会社を離れていた人たちにも秘密にするという考えなんだろう? お前のFS改を借りるぞ」

「だ、だけど……!」

「それより閃から伝言があったのを思い出した。第二格納庫の裏に来いだと」

「は⁉ 何それ、呼び出し⁉ ひょっとしてボコられるんか、うち⁉」

「とにかく伝えたからな」

「ああ、ちょっと待ってよ!」

 隼子の叫びも空しく、大洋も格納庫へと向かってしまった。

「なんやねん……まあ、とにかく行くか」

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