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虹色のパズルと不死鳥の羽

「ジャム入りの紅茶です」
「ありがとう サム」

「お体が冷えます。さあ ショールを・・」
「ありがとう マリア」

ピョンタのお葬式が終わってからしばらくが過ぎたわ。
研究のために街に持ち込まれていた魔物が逃げ出して人に危害を加えようとしたらしいの。
人助けをするなんて 誇らしい事だけど、、私はあなたにずっと そばにいて欲しかったわ。。
でも 強力な魔法を放ったらしくて、、 形見すら残ってくれなかったのね。

今は 毎日、後悔をすることしか頭に浮かばない。
サムが入れてくれた ジャム入りの紅茶以外は何も食べてないの。
みんな心配してくれるけど 今食べたいのはピョンタの笑顔と彼のハンバーグ。
私が料理を覚える10歳くらいまではピョンタが食事を作ってくれていたのよね。 
もう 食べられないけど・・涙が止まらないわ・・。

そんなある日 スパイダー銀行からヤギールという魔族がやってきたの。
ニヒルなヤギっぽい顔に 胸には一輪の花を刺したいかにもオシャレな執事といった感じだったわ。

「私はスパイダー銀行から雇われた 執事のヤギールと申します。
銀行より トモ・アグネスショコラ様のお手伝いをするようにと言われてやってまいりました」

銀行は 私たちの身の回りの整理が終わるまでのしばらくの間、ヤギールという執事をつけてくれたのね。
そして ピョンタが以前スパイダー銀行の貸金庫に預けていた物を持ってきたの。

一つ目は 精霊の農園の契約書。
二つ目は キューブのパズル

精霊の農園の契約書は サインをすることでポックルとの契約を結ぶことになるわ。
そして二つ目のキューブのパズルはおそらく あの日の夕飯のときに話していた私へのプレゼントね。
虹色のキューブで まるで宝石箱みたい。
宝石箱ならパズルを解いたら箱が開くのかしら? 試しに解いてみようとしたけど全然ダメ。
ピョンタはどうして私にキューブのパズルを残したのかしら?

さらに 話は続いたわ

ヤギール「こちらが精霊の農園の契約書です。ですがこちらは精霊ポックルとの契約を結ぶものでもありますので 「不死鳥の羽ペン」というアイテムでサインをする必要がありますがいかがいたしましょうか?」

不死鳥の羽はとても貴重なものだけど 稀に街や都に持ち込まれるらしくお金さえ用意しておけば手に入るものらしい。
でも 私が迷っているのはサインをした後に精霊の農園のオーナーになることなの。 
農園と一言で言ってもお店やバザーが開かれているし、小さな町の所有者になると言うことなのよね。
ピョンタは私に何も教えてくれなかったから いきなり農園のオーナーなんてできる気がしないのよ。。。
そう困っているとヤギールが親切そうに提案してくれた。

ヤギール「いっそのこと スパイダー銀行に契約書をお預けになられませんか?責任をもって農園を管理させていただきます。それにトモ・アグネスショコラ様はこれより多忙となると思われますので農園の管理までは手が回らないかと思われます」

どうして私が多忙になるのかわからないけど
契約書にサインをするまではヤギールが農園を管理してくれるらしいからお願いすることにしたの。
実際に 数日間はヤギールの仕事ぶりを見せてもらったけど完璧だったわ。

「リストを渡すから 壊れた農具や必要な農具を書くんだメェー」
「今までは ピョンタ様が回ってきたときにお願いをしていたのですが、ピョンタ様がいなくなって私たちは捨てられてしまったかと不安でした。ヤギールさんありがとうございます。」

農園の人族の人たちからも 信頼を集めていたし、ヤギールが管理をしてくれるならスパイダー銀行に農園を預けてもいいかもしれない。
でもある日のこと

ヤギール「トモ・アグネスショコラ様は これを ご存じですか?」

ヤギールは いつも胸に刺してある一輪の花を私に手渡してきたわ
何かしら? 普通の奇麗なお花にしか見えないけど。

ヤギール「この国では男性が女性に 求婚を申し込むときに初めに花を贈ることが仕来りとなっております。
どうか トモ・アグネスショコラ様への私の想いを受け取って頂きたいのです」

突然 求婚されたわ。なに?なに? どうしてこうなったの?
ヤギールは ニヒルな笑顔を浮かべたわ

ヤギール「やはりご存じありませんでしたか。はぁ~仕方がありませんね。これから貴族たちがあなたに求婚を迫るでしょう。それは 農園を我がものとするための者や あなたの美しさを求める者。様々な理由であなたには価値があるのです。」

トモちゃん「あら? じゃぁ あなたは銀行に雇われているから私に求婚したのかしら?」

ヤギール「銀行側の思惑はそうでしょう。ですが 私はあなたになら身も心も雇われてもいいと思っております」

数日後 本当に貴族がやってきたわ
それも 沢山の馬!馬!馬! 貴族はモルモットなんて使わないのよね。
そして 馬には花!花!花!が 荷台いっぱいに積まれていたわ。

オメロ12世「私の家は名門です。このお花を見てください あなたのために用意しました。どうか受け取ってください」と言ってきた。
お金と権力は持っていそうだったけど

「この農園をどうしたいと思っているのかしら?」
「私は金も権力もある。私が欲しいのは美しい妻だけなのだ。だからこの農園には興味はない。がははは」

「そうなの、そうねぇ でも お花は受け取れないわ。だって 私の家には入りきらないですもの。お引き取り下さい」

花を受け取るのを断ると オメロ12世は去っていった。

ヤギール「よろしかったのですか? あのオメロ12世からの求婚ですよ」

違うのよ。 素敵な人だと思うけど違うの。でもね 食欲は少し戻ったけとまだ 少し辛いのよ。

私は もう求婚は受けない。花束は受け取らないと宣言したわ。


食事が食べられるようになった、とある日

ヤギール「トモ・アグネスショコラ様 お荷物が届いております」
トモちゃん「あら? 大きな箱ね、何かしら?」

箱を開けてみると バラの花びらがいっぱいに入っていたの
いい香りね。お風呂に入れようかしら?と思ったら花びらが飛び出してきたの

ドバーー!!

そして中から 「花びら男」たちが出てきたわ

「モグモグ ぶっはぁ~ 私は貴族のスペーン。お花を受け取って頂いてありがとうございます。私の求婚を受けてください!!」

まだ 配達に来た人が帰っていなかったから「花びら男」たちはすごく怒られて連れていかれたわ。
一体何だったのかしら?

ヤギール「おそらく カトクが継げなかった貴族の者たちかと思われます。オメロ12世の求婚を断ったということで トモ・アグネスショコラ様の価値はますます高まってしまったようです。 やれやれ。。」


ドーナツが食べられるようになった、とある日

町の道を歩いていたら 面白い魔術ショーをしている魔術師がいたの。
珍しいわね。
面白そうだから 見ていると魔術師が声をかけてきたわ。
「手を こういう形に組んでください」
「ええ? こうかしら?」

「はい それでは呪文を唱えます」

煙と共に ドン!!と音がして手にはお花を握っていたの。

「お花?」

「二週間・・二週間この通りで魔術ショーをやってきたお腹ペコペコの魔術師の正体は 北の国より来た貴族 高貴な貴族、アスベンス5世とは私のことだ!がはは さあ 私の求婚を受けてください。私ならトモ・アグネスショコラと 素早く3回唱えることも可能です!すごいでしょ?」

唐揚げが美味しかった、とある日

散歩をしていると ちょっと高台になっているガケのような場所に女の子がいたのね。
「こんなところで どうしたの?」
「お姉ちゃん 私のお母さん病気なの。薬を買いたいけどお金が足りなくてね。高台に咲いているお花がほしいの」
「そうなんだぁ わかったわ お姉ちゃんがとってきてあげる」

高台といっても 大人の私なら手を伸ばせば簡単に手に入れられそうだった。

よし!っとスパ!! 「お花 取れたわよ」

ん??

ズンチャッチャ♪ ズンチャッチャ♪

アコーディオンの音楽が流れだして歌が始まったわ

「よくやった~子供ぉ♪ はい。これが薬代だよぉ♪」
「ありがとぉ~♪」 子供は嬉しそうにかけていった。

「お~お♪ 心優しき~トモ・アグネスショコラ~♪ 私の求婚受けてください~♪」


断っているのに 色々な方法で求婚されたの
料理を作ろうと思って包丁を棚から引き抜いたら 花束だったこともあったわ。
どうして 私なのかしら? 
でも 私は紅茶しか飲めなかったあのときとは違って 料理も出来るようになったし
食べれるようになったわ。
むしろ 食べることで不安な気持ちが消えるって気が付いたの。
そうよ もっと早くから食べるように努力すればよかったわ。

サム「さあ 紅茶入りのジャムが入りましたよ」

トモちゃん「最近紅茶は必要ない気がしてきたわ」

サム「農園のこともありますがお嬢様の魅力なら当然だと思います」

サムにはそう言われたけど 私は少し疲れてしまって、モコちゃんに乗って農園を駆け回っていたころを思い出したの。
サム「でしたら ピョンタ様が釣りをするために建てられた泉にある別荘へ移られてはいかがでしょうか?」

そう言えば 管理用にいくつかそういった建物があったわね。
精霊たちが住んでいる農園は広いから別荘が建てられているの。
私は ヤギールにお願いをしてしばらく屋敷を空けて泉の別荘に移ったわ。

ヤギール「そうですね 以前の様に紅茶しか口にできない様子でしたら御止めしますが今は運動をなされたほうがいいかもしれません」

「キュ・・グルルルル」
トモちゃん「モコちゃん 頑張って!別荘はあと少しよ・・」
しばらく乗ってなかったからモコちゃんも疲れやすくなっていた。
私はモコちゃんに乗ってサムと別荘にやってきたの

サム「お荷物はここに置いておきます。あとで ジャム(紅茶)もお入れいたしますので泉でも散歩なされてください」

湖の周りを歩くのは気分がいいけど汗が出てくるわ。
「はぁはぁ 歩くって辛いのね」

私は ビスケットをバケットいっぱいに入れて散歩に繰り出したわ。
でも 勢いに任せてビスケットを持ってきちゃったから 歩くには重いのよね。 
モグモグ モグモグ
これで少し軽くなったわ。

でも 湖を半分くらい進んだところで 疲れたしお腹もすいてしまったの
少し休もうと思って石の上に座ったら そしたら 何やら話し声が聞こえてきたのよね。

リフト「だから 昨日の民家で食料を貰っておけばよかったのです」
バール「うっせー そこらへんのネズミでも食べればいいだろ?」
リフト「私はキツネではありません!! あなたこそ お腹を空かせて人を食べたりしないでくださいね」
バール「はぁ 鬼じゃ ねえから!魔族だから!!」

なにお~ なんだと~ はぁ・・ですから

二人は 見た目は美しい人族だけどよく見ると 角があったりキツネのシッポがあったりするのね。
まあ ずっと ケンカをしているようだけど私ならこのケンカを辞めさせることは簡単よ。
だって 私のバスケットには クッキーがいっぱい入っているから。

トモちゃん「あの 私は湖の別荘に住むものですが よかったらこのビスケットを食べませんか?」

バール「がははあ お嬢さん オレは悪い鬼だぞ! 男に気安く話しかけるようなお嬢さんは食べちゃうぞ」
リフト「バールは 素直じゃありませんね。お嬢さんの心配もいいですが せっかくの好意をいただきましょう。私はあなたが現れることを心待ちにしておりました。」

ちょっと変わってたけど 旅人の冒険者のようで面白い人たちだった。
「旅かぁ~ いいな。 私も何かしてみたいな」って思えた。
私にとっていい気分転換になったみたい。
だけど。。。 クッキーがな~い!!
全部食べられちゃったわ。
別荘まで 歩いて帰る前に 私が倒れちゃったりしないかしら?

でも人って いい事をすると力が湧いてくるものなのね
くたくた 汗だくになって別荘に着いたわ。

サムも 驚いたようでイスを持ってきてくれたの。
ふぁ~ ああ。 眠くなっちゃった・・・。

しばらく経って 紅茶とジャムのいい香りがしたから目を覚ましたのね。
そしたら 体が動かないじゃない?
よくみたら イスごと 私の体は縛られていたの。一体なにがあったの?

サム「お目覚めですか?大切なお話をするために縛らせていただきました。
 実は私はあなたをお慕いしておりました。私の求婚を受けてください」

トモちゃん「あら お花も用意できない人の求婚は受けられないわ。笑っちゃうわ」

サム「それには及びません。この紅茶のジャムは何で出来ているのかご存じですか?」

トモちゃん「もしかして・・・・お花?」

サム「そう ピョンタ様・・いいや ピョンタと一緒にいたときから 私は毎日 求婚をしてきたのですよ。あなたも毎日受け取ってくれていたではありませんか?それを・・それを ヤギールやバカな貴族どもが邪魔をするから!あなたはぽっちゃりになってしまったのです」

「私が ぽっちゃりですって?」

バリン!!

ガラスの破れる音がした。 
そして 黒い影はそのままサムを突き飛ばした。
黒い影 私の目に移ったヒーローは 「モコちゃん!!」
「プイプイ!」

「助けに来てくれたのね」

「グルルルル くぅーい くぅーい・・・」
どうしたのモコちゃん??
モコちゃんは イスごと私を引っ張って外へ連れ出そうとしてくれたけど
イスが重かったみたいで 動かせなかったわ。

サム「驚かせてくれたな。だけど求婚を断られて、群れで行動するのが好きなモルモットに嫌われてしまうとは・・もう この辛い恋は終わらせた方がいいと思います。」

サムは にっこりと微笑むと 諦めたようにナイフを取り出した。
もう ダメ・・。


ドス!! うっ・・!

目を開けると サムは気絶して倒れていた。

バール「悪い鬼が クッキーの借りを返しに来たぜ」
リフト「ガラスの割れる音がしたものですから 駆け付けたのです」
 
私は助かった。
そして 今までのことを話した。
バール「なあ トモちゃんが精霊の農園のオーナーになるわけにはいかないのか?」

トモちゃん「でも 私はピョンタから何も教わっていないの。勇気がないのよ」

リフト「勇気ですかぁ・・ 前のオーナーの彼も初めて町のオーナーになったときがあったはずです。自信が付けばいいのですが・・。そうだ これなんでどうですか? 」

トモちゃん「それは何?」

リフトの懐に一枚の紙が入っていた。
リフト「ああ 魔導都市メキストで配っていたビラですよ」
バール「なんでお前はそんなものを持っていたんだ?」
リフト「まあ いいじゃないですか」

そのビラには 「10周年記念モルモットレース 優勝者には不死鳥の羽が贈られます」と書かれていた。

「プイプイ!」

モコちゃん。 モコちゃんもレースに書かれている絵を見てちょっと興奮しちゃったみたいね。
そうよね。 誰だって初めてはあるのよ。

トモちゃん「私 魔導都市メキストで優勝して 手に入れた羽で契約書にサインをするわ!!ありがとう二人とも」

バサ!!

私は二人に抱き着いた。

バール・リフト「てっ照れるじゃねぇか・トモちゃんは大胆ですね」

パズルの方はまだだけど 私は一歩を踏み出すことにしたの。

しおり