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第一話 かわいそうにね、芽衣子ちゃん。

 私は水戸芽衣子。二十五歳。埼玉県出身。東京都在住。蟹座。O型。OL。使ってるシャンプーはボタニストの黒。
 私が小学三年生だったころ、はなちゃんという大人しい同級生がいた。ある日、はなちゃんはかわいらしいサクランボの髪留めをして学校に来ていた。それを見ていたクラスの中心人物であるアヤミちゃんと、アヤミちゃんのことが好きだったタクヤくんが、はなちゃんの髪留めを盗んだ。その現場は、私しか見ていなかった。
 そのことを母に相談すると、母は
「はなちゃんを助けてあげなさい。あなたならできるわ。」
とほほ笑んだ。
 次の日私は、髪留めを返すよう、二人のところへ赴いた。
 私は水戸芽衣子。二十五歳。今は仕事中だ。
 




 時計を見ると、十二時二十五分。この時間になると、そろそろ豊島部長の、怒鳴り声が聞こえる。私は仕事に集中しているふりをして、耳をそばだてる。
「安住さん、まだ終わってないわけ?」
「はい、すみません……。」
 主にパソコンと人しかないこのオフィスの、オアシス的な存在であるコーヒーメーカーと、その横にある申し訳程度の観葉植物が揺れる。たしか、パキラとかいう品種。
 安住さんは仕事ができない。芋っぽくて、不器用で、ダサいキャラ。でも、私は安住さんが好き。
「すみませんじゃなくてさ、いつ終わるかって聞いてるんですよ。」
「あの、お昼のあいだもがんばりますので」
 安住さんとは、入社時、いちばん仲が良かった。最近しゃべっていないが、私は今でも安住さんとしゃべる時だけ、素を出せる。と、思う。
「当たり前だろそんなの?君は人一倍とろくて何もできないんだから、休みなんてあるわけないだろ!?」
「はい……。」
 バタン! とアルミのデスクを蹴る音が聞こえた。でも私は、そっちを見ない。いつものことだ。
 その時、昼休憩を知らせる、ぎこちなく陽気で無機質なメロディーが会社を包んだ。蹴られたデスクはまだ震えている。嫌な余韻をフロアに残す。



 私は昼休憩のチャイムが鳴ると、笑顔を作り、愛子ちゃんの席に向かう。
「愛子ちゃん! おつかれ! 今日のランチどうする?」
「食堂かな。」
 愛子ちゃんはこちらを見ることもなく、さらりと答えた。愛子ちゃんはかわいい。仕事もできる。休日はルブタンのピンヒールなんか履いちゃうタイプ。全体的に、なんかこう、ピンクと黄色のキラキラで、包まれている。実家もお金持ちらしく、いつも周りに誰かいて、いつも誰かに褒められて。多分、人生において、挫折とか、なかったんだろうなと、思う。社内の人気者の愛子ちゃん。そんな愛子ちゃんのことを、私も好きにならなければならない。
「わかった!」
 私たちの部署から食堂はまあまあ遠い。二人で歩いていると、だんだん気まずくなってくる。一歩一歩歩くたび、何か話さなければ、という焦りが、私の胸を締め上げる。
「あ、あの、そういえばさっきまた安住さんが部長に怒られててさぁ。」
「いつものことじゃない。あの子、会社辞めちゃえばいいのにね。」
「まあそうだよねぇ~。私だったら耐えられないなぁ~。」
 言ってから、廊下の窓に映る自分の顔を見て、はっとした。またやってしまった。胸のあたりにモヤがかかり、空っぽになった胃が、不安げに捻じれた。安住さんが今日も怒られている。それを話題にしてしまった私は、なんて卑怯で最悪な人間なんだ。という念が、一気に胃の奥底から、酸っぱい液体と共に押しあがってきた。でも、今はダメだ。そんな感情一つ表に出してしまえば、これまで私がとても大切にしてきた何かが、一気に崩れ去り、その破片をみんなに拾い上げられ、笑われる。軽蔑される。幸い、愛子ちゃんは気づいていない。ああ、やっぱりその横顔は、憎らしいほどとても綺麗だ。
 食堂につくと、愛子ちゃんに次ぎ二番目のキラキラガールである同期の美沙ちゃんと、社内で一番かわいいと噂の後輩、茉莉ちゃんがいた。いつものメンバーだ。毎年、その三人が企画する箱根旅行があるのだが、そのメンバーに選ばれるかどうかで、社内の女子連中はざわつき、見下しあう。去年は私と、同期のなつきが選ばれた。……楽しくなかった。
「そういえば今日もアズミン、怒られてたらしいじゃないですか~。」
 茉莉ちゃんが口を開く。茉莉ちゃんは安住さんのことをアズミンと呼ぶ。後輩なのに。
「芽衣子さんって、アズミンと仲良し、じゃないですか~。助けてあげたりしないんですか~?」
「え? ま、まあ仲良しってほどでもないけど……。」
 必死に笑顔を作った。胸が苦しみ悲鳴を上げる。昔の私はそんな人間じゃなかった。親からも、優しい子だねって、いつも言われてた。私はただ、みんなと円滑に会話したかっただけ、できることなら私は、安住さんとも、愛子ちゃんたちとも、仲良くしたいと、間違いなく思っている。
 でも、女の世界でみんな仲良しなんて、不可能な幻想だ。それに気づいたのは中学の頃だった。私は、クラスで覇権を握っていたマサモトくんの彼女、エリカにいじめられ、「これ以上いじめられたくなかったら、」と、ある女の子への嫌がらせに加わるよう言われた。その女の子は学年で一番かわいい子で、誰かが困っていたら率先して助けるような、とてもやさしい女の子だった。みんなから好かれていた。それは、マサモトくんも例外ではなかった。私はそれを二つ返事で引き受け、それ以降、“優しい私”から遠ざかっていった。それに反比例して、優しいね、とか、かわいいねと、言われることが増えるようになった。スクールカーストの順位は上がっていった。人は、周りの評価で、意見も態度も変えてしまう。やらなきゃ、やられるのだ。
 食堂から帰ってくると、一生懸命書類を直している安住さんと目が合った。安住さんは一瞬戸惑い、恥ずかしそうに、自虐するように、にこ、と笑った。その笑顔は、今にも飛ばされそうなタンポポのようで、私はすぐに視線を逸らした。
 


 午後五時をすぎ、そろそろ掃除と片付けの時間に差し掛かっても、今日は安住さんのことで、頭がいっぱいだった。自己否定と虚勢の海に、おぼれてしまいそうだった。
「はじめまして。安住たまきです。芽衣子さん、これからよろしくね。」
 安住さんは、最初私にそう言った。お互い初々しい新卒のスーツに身を包み、今日見せたそれとは違う、子供みたいな顔で笑った。
「はい! あ、うん! よろしく安住さん。」
 私たちはそのあと、一緒にお昼ご飯を食べた気がする。そうだ、その時はじめて豊島課長に「もう友達ができたんですか?」と声をかけられたんだっけ。そうだ。あの時は、不安だらけだったけど、同期もみんな仲良くて、とても楽しかった。
「……とさん! 水戸さん!」
「は! はい!」
 聞きなれた鋭い声。急に豊島課長に呼ばれた。コーヒーメーカーが、不穏な耳鳴りにも似た音を出す。
「水戸さん、これどういうこと?」
「え?」
 嫌な予感がする。豊島課長の左口角が上がっているのは、これからお前を痛めつけてやるぞ、という合図なのを、知っている。
「えじゃないだろ! こんなミスして! お前のせいでみんなの頑張りが台無しなんだよ!」
 それは、私が他社に出した新しい企画書だった。血の気が引いた。と同時に、みんなの視線が一気に、私に突き刺さるのがわかった。胃が逆流する感覚。それと、静まり返ったオフィスに響く、コーヒーメーカーの呻き声が、やけに大きく聞こえる。私は今オフィスで、素っ裸になった気分だ。全裸に剥かれて突っ立って、みんなに囲まれ見られている。今にも叫びたい。死にたい。逃げたい。突発的な拒否反応と、脂汗が、頭からじわじわと垂れてくる。てか、どこを間違えた? 取り返しはつくのか? 私だけで済むミスなのか? ああ、みんなからバカにされる。みんなから嫌われる。もう嫌だ。限界だ。逃げたい。死にたい。どこか遠いところに行きたい。恥ずかしさと罪悪感と情けなさで、今にも泣きそうになった。でも、私は大人で、社内でもそれなりなわけで、愛子ちゃんたちも今私を見ていて、安住さんも、今の私の姿を……。
 気が付くと、自分のデスクで涙をかみ殺していた。頭は真っ白で、「ごめんなさい」という言葉を、頭の中で反芻していた。少しでも気を緩めると、泣いてしまう。でも、そういう感情になっているときは、大概すでに泣いている。
 愛子ちゃんたちが話しかけてきた。
「芽衣子ちゃん、大丈夫?」
「う、うん。ごめんね。私のせいで、企画書作り直しになっちゃって。」
 私はできるだけ気丈にふるまいつつ、甘えるようにそう言った。
「別に大丈夫よ。」
 愛子ちゃんは、意外とさらりとしていた。少し、安心した。
「ほんとにごめんね、次は絶対ないようにするから、」
 私がそう言い終わる間もなく、愛子ちゃんが口を開いた。
「あ、そういえば芽衣子ちゃん、今年の箱根旅行、なつきちゃんとめるちゃんと行くから、芽衣子ちゃんはお休みしてもらえる? ごめんね。」
 え? 息が詰まった。コンマ一秒、呆気にとられ、目の前が真っ暗になった。たちまち愛子ちゃんたちに責められている気分になった。同期に責められるのが一番、何よりきつい。心臓が雑巾のように搾り上げられる。私の顔は捻じり切られる。いや、だめだ。顔に出すな。顔に出すな。
「え、あ、うん! 全然大丈夫だよ!」
「ごめんね。じゃあおつかれさま~。」
 一秒で会社を出て、今日は珍しく、知る範囲で会社から一番遠いコンビニで、タバコを買った。大学生ぶりに、どうしても吸いたくなった。メビウスの8ミリ。その時の元カレが吸っていたタバコだった。コンビニの前の喫煙所で火をつけると、懐かしい香りが私を包んだ。
その途端、私は泣き崩れてしまった。限界だった。今にも消えてしまいたかった。この涙は、安住さんへの謝罪の涙ではなく、愛子ちゃんたちに選ばれなかった辛さから来ていることが分かると、みんなに泣いて謝りたくなった。ごめんなさい、私はほんとはこんな人間じゃないの、わかって、でも、ごめんなさい、本当にごめんなさい。と、今にも叫びだしたかった。どこか遠く、今すぐに、誰も知らない、誰にも知られない場所に行きたかった。安住さんと、今すぐしゃべりたかった。
 こんなにもダサく、最悪な私に、元カレと、当時の私は優しく微笑みかけてくれているような気がして、私はそのまま、近くのバーに向かった。



 暗い路地を一本入ると、思いのほかおしゃれなバーにたどり着いた。『シュリンプクラブ』という名のその店は、ちょうどいい狭さで、薄暗い雰囲気だったので、その店に決めた。
 カウンター席の一番奥に座ると、店員さんが薄茶色のおしゃれなおしぼりを待ってきた。
「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりですか?」
 私は早く飲みたかったのもあり、適当に赤ワインのデキャンタと、いろいろピクルス、赤えびのアヒージョ、灰皿を頼んだ。
「おタバコ吸われるんですね、僕もです。」
 さらりと笑った青年は、緩いマッシュを揺らして厨房に戻っていった。彼は、こんな涙を流したことがあるのだろうか。泣けども泣けどもすっきりしない、自分のためだけの涙を。それは透明ではなく、くすんだ灰色の涙。
 しばらくすると、ワイン、料理、灰皿が運ばれてきた。
「ごゆっくりどうぞ。」
 やはり彼は、笑いなれていた。あまりにも自然に、きれいな笑顔を作った。それは安住さんのそれとも、私のそれとも違った。
 ワインをデキャンタからグラスに、勢いよく注ぐと、少しこぼれた。が、それを一息で飲み干した。少し無理したか、と思う間もなく、メビウスに火をつける。深く、きつく吸い込むと、大きなため息をつく。気持ちがよかった。まるで私は、悲劇のヒロイン。その所作の美しさに、きっとこの店の誰もが、息をのむ。私のうしろ姿に、リップのついたフィルターに、息をのむ。たぶん。
 ピクルスも、アヒージョも、最高にうまい。と同時に、「お前にうまいものを食う資格があるのか?」という気持ちが、心の奥底から、せり上がってくる。ワインを飲む。「思い出せ、昼、お前は愛子ちゃんに、どんな話題を振った?」タバコを吸って、「お前は最低の人間だ。なのになんでこんなところで、うまい飯を食っている?」「お前は優しい安住さんを切って、お前のことなんかみじんも大切に思っていない愛子たちを選んだんだ。」
 気が付くと、また、泣いていた。この一本を吸い終わったら、すぐ店を出よう。ごめんなさい。私なんか幸せになっちゃダメなのに、本当にごめんなさい。
 その時、隣に気配を感じた。
「あなた、大丈夫?」
 はっとした。見ると、ペールイエローのワンピースに、きらりと光る大きなフープピアス、綺麗なピンクのリップに、これまたイエローのヘアターバンをした、二十代後半くらいの美しい女性が、こちらに微笑みかけていた。
「あ、だ、大丈夫です。すみません。」
「そう? でも、とても疲れてるみたい。」
 疲れてる? 私、疲れていたの? 知らない人のその言葉が、なぜか胸に深く染み込んだ。少しだけ何かから許されたような気持になり、また涙が出そうになる。
彼女は、ディオールの黒いハンドバックから、平たいピンク色の箱を取り出し、中から出てきた淡く黄色いタバコをくわえた。
「これ? 変わったタバコでしょ。ソブラニー・カクテルっていうの。吸ってみる?」
一口もらうと、やわらかい風味が口に広がる。吸ったあと、甘くさわやかな香りがほのかにした。
「ごめんね、少し香水のにおいがしたでしょ。箱にふってるの。」
彼女はそう言ったあと、にこっと笑った。映画の登場人物と話しているようで、少しめまいを覚えるほど美しかった。
「あなた、名前は?」
「水戸、芽衣子です……。」
「かわいい名前ね。」
 この人になら、すべてを打ち明けてもいいんじゃないか思った。いや、打ち明けたいと思った。私の醜さ、私のすべてを、この人に理解されたいと思った。
「私は……、卑怯者なんです。」



 私は、安住さんや愛子たちのこと、今日あったことを、洗いざらいすべて話した。すると彼女は、褪せた向日葵のような笑みを浮かべ、
「芽衣子さん、人間関係において、一番大切なモノって、なにかわかる?」
 と、私に聞いた。彼女の長いまつげが、ぼんやりとした暖色の光の中に溶けていく。
「誰にでも好かれること……? 素敵な笑顔とか、面白い話ができる、とかですか?」
 私がそう言い終わると、彼女はこちらへ向き直り、にこやかにこう言った。
「違うわ。 王子さま。 あなたを助けてくれる王子さまを、自分自身で作り出すことよ。」
「王子様?」
「たとえあなたがみんなから非難されても、たとえあなたがみんなから笑われても、あなたの心の王子さまだけは、決してあなたを否定しない。そんな存在を作っておく。そうすれば、心に余裕も生まれて、素敵な笑顔も、困っている誰かを助けることもできるようになるのよ。」
 そういうと彼女はきらりと笑った。その笑顔はとても華やかで、酸いも甘いも経験してきた人にしか出せないような影を残した。私もそんな笑顔ができるようになりたい、と思った。
「王子様……、私のことを、私自身で肯定してもいいんですかね……?」
 私は甘えるように、恐る恐る聞いた。
「不安?」
「いや、まあ、今の私を肯定してしまったら、ずっとクズのままなんじゃないかって……。」
 このまま成長せず年を取った私を想像すると、震える。今でも十分一人さみしく生活しているのに、このままだと本当に孤独になってしまうんじゃないだろうか。昔大学で、孤独死やホームレスについて勉強したが、私もそうなってしまうんじゃないだろうか。と、時々考えてしまう。
 彼女はそんな私を優しく見つめ、「じゃあ、運命を変える魔法を教えてあげる。」とつぶやいた。運命って、変えられないから運命なんじゃないのか。
「私、心の持ち方が変われば、運命が変わると思ってるの。例えば恋愛だって、誰かを好きになったら、その人のことをずっと考えてしまうでしょ? それが意識的にも無意識的にも、行動に出てしまう。例えば、用事がないのにラインを送ってしまったり、その人のインスタには必ずハートマークを押したり。そう言った行動が二人を引き寄せて、最終的に二人は恋に落ちる。結ばれる運命ではなかったはずなのに。」
 たしかに、私は元カレのことが、最初あまり好きではなかった。彼から三回目の告白を受けた時、果たして、ここまで私のことを愛してくれる人が、この先現れるだろうか、と、その告白を受け入れた。私が私を許してあげることこそが、安住さんを助けられたり、自分自身素敵な人間になるための第一歩なのか。
 彼女は最後にバニラアイスを注文したので、私も同じものを頼んだ。今日はかなり酔っ払った。ふと、厨房に目をやると、マッシュの彼と目が合った。彼はまた、さらりと笑った。私も負けじと、さらり、のつもりで笑い返した。
 やはり、酔っぱらった後のバニラアイスは格別で、今日は大泣きしたのもあって、バニラの甘みが体に染み入る感覚が分かるほどおいしかった。店に来た時より、私は少し前向きになっているのか。少なくとも、バニラアイスを素直においしいと思えた。
「じゃあね芽衣子さん。楽しかったわ。またどこかで会いましょ。」
 彼女はそう言うと席を立ち、店の前まで歩いた。
「あ、あの、そういえばお名前は……」
「名前? そうね、キャサリンよ。」
 キャサリンさんは首を傾げてにこっと笑った。その横顔は、店のライトのオレンジと、夜の黒色のコントラストに照らされて、とても美しく、初恋を思い出すほど、かっこよかった。
私もあんな人になりたい。いや、なる。なって、愛子ちゃんたちに負けない、かっこよくて聡明で、美しい人間になってやる。安住さんを助けるんだ。と、強く思った。
 そうだ、来週もバーに行こう。私も、“キャサリン”のようになるんだ。





 アヤミちゃんとタクヤくんは、髪留めをまったく返してくれなかった。頭にきた私は、アヤミちゃんに掴みかかってしまった。
 二人で殴り合い、といっても小学生同士のけんかだから、髪を引っ張る、相手を投げ飛ばす、とかだったけど、それが先生にばれた。先生は、
「喧嘩両成敗です。」
と、私たち二人とタクヤ君は、こっぴどく叱られた。でも、サクランボの髪留めは、ハナちゃんに返すことができた。とてもうれしかったのを、今でも覚えている。
 私は水戸芽衣子。二十五歳。また来週。

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