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1話

「さてっと」

朝食の片付けとニコのお披露目が済んだところで。
今日はニコの物を買いに行く必要がある。
着の身着のままなのは、転移者特有なのだそうだが、通常は自分の事は自分で出来るような人しかやって来ない。
ニコは例外中の例外だった。

「買うもののリストは作っといた方が良いかな。えっと確か…」

それが出来る便利な機能がタブレットにはあったはずだ。
久々に使うけど、どれだったか忘れてしまった。

「んー?あ、コレだ」

ようやく見つけだした。
スケジュールの、今日の予定に目標として記入すれば、達成(今回であれば購入予定の物を購入)したらリストから消えていくという優れものだ。

「靴は最優先だよね。あ、でも靴下無いや。サンダルも一緒に買おう。今日暑くなりそうだし」

買う順番は、店の並びにもよるだろうが、必要な物から入れていった方がいい。
ニコは靴を履いていなかった。脱ぎ捨てたのか最初から無かったのかは不明だが、これでは不便すぎる。
保護した時に、なんとか足を拭くことが出来たそう。怪我などはしていなかった。

リックの家では素足で過ごしていた。
ここへ連れてくる時は、ココロがずっと抱き上げていた。
小さな体は軽いけれど、やはりずっと抱いているのは大変だ。

「後は衣類全般と…あ、ニコ用のタンスも買ってこようかな。それから、子供用の食器は必要だよね。持ちにくいとちゃんとした持ち方覚えれないし」

チラリと、ニコ達はどうしているかと目を向ける。
妖精達が動かすオモチャに向かって飛び上がるユキを見て驚いた所だった。目がキラキラしている。

「そっか。オモチャとかもあった方が良いよね。知育玩具とかあるかな。あ、子育ての本も欲しいかな」

ママになると決めたはいいが、ココロには子育て経験はない。
が、子供の扱いはそれなりに慣れている。
ココロには、従兄弟が多い。
年上もいれば同年代もいるし、年上もいる。
ココロたちの親は、親戚一同集まった時(お盆や正月、その他にも)に、酒盛りをするのが恒例だった。
なので自然と子供は子供で集まって遊ぶのだが、義務教育を終えた従兄弟がいた場合、外へ出てもいい事になっていた。
酒を飲まない大学生がいれば少しなら遠出も可能。車に乗れるから。

勿論、ココロは連れていってもらったし、連れていった。
高校を卒業した頃には、上の従兄弟にも子供がいて、長期休みの帰省時にはバイトでベビーシッターモドキな事もしていた経験がある。

「うん、これぐらいかな。後は思いついたものはその場でいいかな」

リストを見返して、必要な物に不備がないか確認する。
今思いつかなくても、見てからでも十分間に合うだろう。

「よし。ニコー」
「!!」

ユキに注目していたニコだが、呼ぶと笑顔で駆け寄ってくる。
足にギューっと抱きついたニコの脇に手を入れて抱き上げると、嬉しそうに頬を擦り寄せてきた。

「一緒にお買い物行こうね。って、痛い痛い」
「ンミー!」

足に痛みを感じて見下ろせば、まるで「私も!」と言うようにユキにがよじ登って来ていた。ズボンで良かった。
首の後ろを摘んで持ち上げて、ニコの腕の中に下ろす。
それで満足したのか、その場で丸くなって寝始めた。

「って、寝るの!?」

まさかの行動に笑いが込み上げる。
先程まで飛び回っていたから、電池が切れたのだろうか。
起こさないように掬いあげて猫ベッドに下ろす。
1度モゾモゾしたので起きてしまうかと思ったが、体勢を変えただけだった。

「あ、お昼過ぎまで帰れないだろうから、ユキのご飯用意しとかなきゃ」

出かける前に気がついて良かった。でなきゃ可哀想だ。
成長具合は都度リアラに報告している。1度のご飯の量を少しずつ増やしつつあるので、2回分でいいだろう。

「じゃあ、この戸棚に入れてあるから、起きたらあげてね」
「はーい!」
「そしたらまたあそぶ!」
「うん、お願いね」

食べて遊んで寝て、起きたらまた遊んで。これがユキのルーティーンとなりつつある。
妖精達も、ユキの扱いにはすっかり慣れたようだ。

「じゃ、改めて買い物に行こうか」
「!」

はーいという声が、聞こえるように手を挙げたニコの頭を撫で、外に向かう。
クッキーには昨日既に会っているので、傍に行っても警戒することは無い。
馬車に乗り、リックの家へ。
誰も居ないが、許可を得ているので裏の戸口を通って、中央の国に向かう。

「んー。こっち来るのは久々かも」

前回は直接王城(オフィス?)へ向かったので、この街中の喧騒は久しぶりだ。
けれど、人の多さに恐怖を覚えたのか、ニコは腕の中で体勢を変え、ココロの胸に顔を押し付ける。プルプルと震えているのが伝わってきた。

「うん、初めての所は、怖いよね。でも、ずっと一緒にいるから、大丈夫だよ」

小さな身体をさらに小さくしている。
宥めるように、触り心地のいい髪の毛を撫でる。
少しずつだが、震えは治まってきた。

その状態のまま、ショッピングモールへ向かう。
中に入ってもそこそこに賑わっているが、このフロアの四隅はあまり人は居ない。
中央の受付と、階を行き来する部分に人は集まりやすい。
その部分を避けるように、四隅には休憩用のソファが設置されている。

「ちょっと待っててねー。えっと、子供用品は…」

以前来た時に、衣類は衣類用の複数のフロアが上下に集まっているのは知ったが、改めて確認すると、子供用品はそれで集まっていた。
その中で衣類、食器、日用品、と分けられている。
靴は衣類に含まれていた。

「じゃあまずはそこからだね。おいで」

ソファに座らせていた(服の裾はギュッと握っていた)ニコを抱き上げて、靴の売っているフロアへ飛んだ。

「おぉーこれはまた…」

そこは、子供を連れている事を前提として作られていた。
まず、色合いがカラフル。子供の目を飽きさせない為なのだろう。
そしてソファの設置数。と言うより、位置。
他のフロアは吹き抜けになっている部分のガラス張りの壁に、転々と置かれているが、このフロアはグルっと一周ソファで囲まれていた。
当然子連れの人ばかりなので、子供が疲れた時にいつでも休めるように配慮されているようだ。

「あ、靴はあそこかな」

靴売場を探しつつ、外に並べられている服も注視して行く。
中々に可愛い物が多い。女の子用のフロアなのかもしれない。

ようやく靴売場を見つけて、そこへ足を向けた。

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