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12話

家に帰ってきて、クッキーに感謝のブラッシングをしたあと、買ってきた苗を植えた。
田んぼは真ん中で区切ってあるので、うるち米と餅米とで分けて植える。
その隣には小麦と、一角だけ大麦を植えた。
カボチャを植えたその隣には、スイカとメロン。カボチャ同様、他の野菜より間隔を大きくとって。
マップを確認すると、すべての畝に野菜の種や苗が埋まっている事が分かる。

続いて、プランターを取り出す。
イチゴはプラスチック製より素焼きの方が良いので、落として割らないようにそっと地面へ降ろした。

「イチゴ育てるのも、久しぶりだなー」

件の農家さんに、育て方のコツを聞いていた。
最初は失敗ばかりだったが、コツを掴んだあとはみのりは少ないながらも自家栽培を成功させていた。
まぁ、ここではその知識は不要になったのだけれども。

もちろん自力で育てる事も可能だ。イチゴだけ、自動農園から外す事もできる。けれど、それだと自動採種も適応されなくなってしまうことを、帰りの馬車で知った。
自分で育てたいという気持ちと、いつでもイチゴを食べたいという思い。当然、後者の方が強かった。

「えーっと土は…メロンの所から貰おうかな」

とは言え、自分農園のスキルを使うには土が必要だ。プランターだけでは反応しないが、土を入れる事で、植える場所の選択肢が増えた。
2つのプランターに、イチゴの苗を3つずつ植える。

「これは玄関横に置こうかな。確認しやすいし」

プランターの1つは、ココロが玄関先まで運ぶ。
もう1つは、妖精達が力を合わせて運んでくれた。小さい体をしているが、それなりに力持ちのようだ。

「ありがとう。じゃあ、ここに置いて」
「はーい」
「おくよー。せーの」

タイミングを合わせながら、静かに地面へ下ろす。
最後に場所の微調整をして、満足したココロは妖精達と家へ入った。

「よーし、じゃあクッキーを焼いちゃおう!」
「おー!」
「わーい!」

もちろん馬のクッキーでは無い。当然だ。
オーブンを予熱している間に、クッキーの生地を取り出す。
クッキー型は買ってきたが、既に形は整えてあるので今日は使わない。
オーブン付属の鉄板にクッキングシートを敷き、5mm幅に切ったクッキー生地を等間隔に置いていく。
全ての生地をのせ終えた頃には予熱も終わったので、中へ入れて焼き始める。

焼いてる間に後片付けと、買ってきた食材や道具を取り出して、それぞれ仕舞った。
途中、クッキーが焼き上がったが、まだ熱すぎて触れないので、扉を開けて熱を逃しやすくする。
最後にコーヒーを淹れる。その頃にはクッキーの粗熱も取れていたので、お皿へ移す。
コーヒーとクッキーをテーブルへ運ぶ。
その時、妖精達の様子が、いつもと違う事に気が付いた。

(うん?)

昨日の夕食の時や今日の朝は、ココロの周りにいて眺めているだけだった。
けれど今は、クッキーを乗せたお皿の周りに集まっており、目をキラキラとさせている。
…食べたいのだろうか。

「みんなも一緒に食べる?」

そう思って声をかけると、一斉にこちらを向いた。キラキラさせた目が眩しい。

「いいの!?」
「ほしいー!」
「ココロのつくったクッキー!」
「たべたい!」

三日前。ココロがここへ移り住んだ日には、食べる事すら知らなかった妖精達。その時は食べる事は不要で、能力を使うときはココロの『FP』が妖精たちの力になるのかと考えたが、違ったのだろうか。
けれど、食事の時には興味なさそうにココロが食べ終えるのを待っていたという所も考えると、どちらが正しいのか分からなくなる。
けどまぁ、今は食べたいと言っているのだから、今の気持ちを優先する事にした。

「いいよー。いつも手伝ってくれてるし。味はどれも同じだから、すきなの選んで」
「わーい!」
「これにする!」
「こっちがいいー」

ワイワイと、これがいいあれがいいと、見繕い始める。
取り合いも無く、皆それぞれ手に持った。
直径にして4cmぐらいの大きさのクッキー。ココロなら2本の指で掴めるが、小さな妖精達だと、丁度両手で持てるぐらいの大きさだ。

「じゃあ、いただきます」
「「いただきまーす」」

パクリとクッキーに齧りつく。程よい甘さが丁度いい。
満足行く出来に頷いていると、一口齧りついてまだ咀嚼している妖精達の目が先程よりも輝き出した。
飲み込んでからも夢中で食べ続ける妖精達を微笑ましく思いながら、一口コーヒーを啜る。
妖精達にあげて、それでも残ったクッキーも残り少なくなったところで、妖精達も食べ終え始めた。

(しまった!気にせず食べてたけど、まだ欲しい子いたかも…)

おいしかった!またたべたい!と、ニコニコしている妖精達。
けれど誰も、まだたべたいとは言わなかった。

「気に入った?」
「うん。またつくろー」
「そうだね。クッキーもいいけど、ケーキとかも作ろうね」
「けーき?」
「それなぁに?」

嬉しそうにしながらも、初めて聞く単語にコテンと首をかしげる。
なんとなく。本当になんとなくだが、彼らも食事しないと言う訳では無い気がする。
食べられる、もしくは食べたいと思うものはごく一部。そしてそれは、クッキー等のお菓子系…ではないのかと、ご飯とクッキーを見る目が違う事から憶測を建てる。

「ケーキはねー、食べてからのお楽しみかな」
「えー!」
「おしえてー」

キャイキャイと周りを飛び回る妖精達。
教えてもらえないと分かっても、不貞腐れることはなく、食べるのを楽しみにしているのが分かる。
夕食の時に食べようと思って買ってきたイチゴだけど、せっかくならケーキに使おうと、そのまま冷蔵庫に仕舞った。

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