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【自分の弱さのせい】

【自分の弱さのせい】


 目覚めた時、身体の重みにレイフは愕然とした。


「いっ···!!」



 全身が痺れていて、思うように動かすことができない。半身を起き上がらせようとしたのだが、レイフはそれすらもできずに視線だけを動かす。



「レイフきゅんっ!」



 ユキが横になっているレイフの顔を覗き込む。彼女は憔悴の表情を浮かべており、潤んだ瞳でレイフを見つめていた。レイフが目覚めたことにより興奮しているのか、力強く抱き着いてくる。身体を密着させてくると、余計に身体の痛みが強くなった。



「ユキ···いてぇ···!」

「レイフきゅんっ!レイフきゅん~っ!」



 ユキはレイフの静止を無視し、抱き着いてくる。柔らかな彼女の胸が嬉しそうに弾んでいたが、レイフは痛みに呻くしかない。



「起きた感じかー」



 レイフが目を動かすと、自分の隣にはパパゴロドンが横たわっていた。彼の尻尾が揺らめき、物を叩く音を出す。



「パパゴロドンさん···!」



 レイフはギョッとした。彼の上半身は半裸で、背中に生々しい大きな傷を受けていたからだ。無数の殴打の痕も目立つ。



「それ、もしかしてアシスの軍人達に···!?」

「おお、ちょっとやられた感じなんだなー」



 本人は元気そうにいつもの間延びした口調で言うが、彼のやられてしまった姿は「ちょっと」どころではない。



「やっと起きたのねぇ!」



 コナツが、宙に現れた。彼女は自分の顔を覗き込み、じっと見つめてくる。



「か、母さん···ここは」

「あたしの機体の中よ。···うん、脈拍も正常。問題なさそうねぇ」



 自分たちがいる部屋は、寝具が構築されており、レイフとパパゴロドンが横になっていた。先程はコナツの部屋の中にも入れてもらてなかったが、怪我をしてさすがに部屋に運び込まれたのか。



「オレ···どうして」

「俺が回収したんだなー。お前はMAに負けて、嬢ちゃんを奪われたからなー」



 パパゴロドンの間延びした口調が、レイフにとってはショックだった。

 その事実は重々しくレイフにのしかかる。



「お前が倒れていた場所に、お前のラルが落ちてたぞー。指にはめといてやったからなー」



 レイフは自らの指に、視線をやる。自分の指にラルがはめ込まれていた。



(クォデネンツを渡すようにフィトに言われて、ガリーナちゃんはオレのラルを抜き取るフリをしてた···)



 ガリーナがレイフの指からラルを抜き、砂の上に落としていたことを思い出す。

 彼女は、クォデネンツをアシスに渡さなかったのだ。



(···オレがガリーナちゃんに守られて、どうすんだよ···っ!!)



 レイフは自身のやるせなさに、憤りを感じた。

 自分は、ガリーナを守ることができなかったのだ。



「れ、レイフきゅん···!仕方ないよ、MAだよ!?あいつらは魔法を使うみたいに戦うんだよ!?」



 ユキはレイフの顔を見て、手をぎゅっと握りしめてくる。



「嬢ちゃん奪われちゃうのは駄目な感じだろー?」

「それは···まぁそうだけれど···!」



 ユキは、レイフとパパゴロドンを交互に見る。彼女は努めて明るく振る舞おうとする。



「父さんと連絡が取れれば、父さんなら助けてくれるかも···っ!」



 父のイリスならば、ガリーナを助けることができるだろう。あの強い父イリスならばーーー。



「でも、連絡取れない感じなんだろー?未だに」

「それは···そうですけど!···もしもの時は、私がガリちゃんを助けます···!」



 レイフは体を動かそうとした。強く抱きしめてくるユキを振り払おうとするが、ユキは自分から手を離さない。体を動かそうとするだけで体が痛み、レイフは痛みに目を細める。



「レイフきゅん···!」

「とめんなよユキ···っ!ガリーナちゃんが···!」

「私に任せてよっ!レイフきゅんは、もう何もしなくてもいいよ···っ!」



 何もしなくてもいい?



 レイフは敏感に、ユキを鋭く睨む。ユキはびくりとしていた。



「何もしなくてもいいって、何だよ···!ガリーナちゃんが危ないんだぞ···!」

「れ、レイフきゅんは怪我してるんだよ〜!?それにアシスの軍人達は強いし···」



 ユキは言いづらそうにしつつ、視界を迷わせる。レイフは、そんなユキの態度に激しい苛立ちを覚えた。



 言葉を迷わせている理由が、ただ1つしか思いつかなかったのだ。



「それは···オレが弱いって言ってるのか」

「そ、そんなこと言ってないよ!!」

「言ってるだろ!!」



 レイフの感情は激しく乱れていた。



 ガリーナを守れなかったことへの負い目、アシスの軍人達にまるで歯が立たなかったことに対し、レイフは強く打ちのめされていた。



「良いよな、ユキは強くて!!才能に恵まれてて、父さんの銃も受け継いでて!!」

「レイフきゅん···?」

「才能に恵まれてたら、オレのことだって、そりゃ弱いって馬鹿にするよな!そうだよ、オレは···ガリーナちゃんを守れないくらい、弱っちいよ···!」



 レイフの口は止まらなかった。自責の念が次々とレイフの心中を満たしていき、言葉を吐き出さなければレイフは泣き出してしまいそうだった。



(ガリーナちゃんを、オレは守れなかった。オレが弱かったから) 



 どんなに嘆こうと、ガリーナがこの惑星にはいない事実は変わらない。

 ユキの体を振り払うようにしても、ユキはレイフの体に縋ろうとする。



「わ、私、そんな風に思ってないよ!?」



 ユキは憔悴の顔で、レイフの顔を真摯に見つめる。彼女の顔にウソはないはずなのに、レイフの疑念は変わらない。



「怪我人を、興奮させないで頂戴」



 2人の間に、ずっと沈黙していたコナツが割って入った。

 コナツは2人の間で、重たいため息を吐く。



「レイフは、もう少し寝てなさいよぉ。パパゴロドン、ユキ、これからのことを話しましょう」

「···待ってくれ、母さん。オレだって···!」

「寝てなさい。ガリーナを捕獲されたけど、すぐにどうこうされるわけはないわ。絶対に殺されることなんてない」



 コナツはパパゴロドンが寝ている寝具を押し、部屋から出たがらないユキの背を押す。



「でも、アクマの子だからってひどい扱いを受けてるかも···!さっきだって、この星の奴らに··!」


 ガリーナは果物や石を投げつけられていた。その話を、パパゴロドンが話したのか、ユキもコナツも聞いているらしい。レイフの怒鳴り声にユキはハッとしていたが、コナツは顔を顰めるだけだった。


「寝てなさい」

「母さん!」


 コナツは顔を顰めたまま、パパゴロドンの寝具を押し、ユキを引き連れて出て行ってしまった。身体をまともに動かせないレイフは、扉に向かって叫ぶしかなかった。

 しかし皆、戻ってこない。レイフが痛みを我慢して動こうとしても、部屋から出ることすらできそうになかった。


「くそっ···!」


 レイフは部屋の中で1人項垂れるしかない。彼等は戻ってこない。1人でレイフは寝具に横たわり、両手で目を抑えた。



「くそぅ···」


 瞳からは、涙が出てくる。


(ガリーナちゃんを守れなかった···!)


 何度も何度も反芻し、自罰する。ガリーナを守れなかったことは、自分が弱いから悪いのだ。


(ガリーナちゃんを取り返すために、オレは何もできない···)


 自分の能力のなさに、自身に対して辟易する。

 自分は、ユキのように銃の才能はない。父イリスに剣の腕があると言われたわけではない。クォデネンツを持っていたところで、ガリーナを守ることはできなかった。


「オレには、何も力がない···」 



 ただの、半獣の子供である。

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