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1話

「ここが、新しい世界?」

たどり着いたのは、少し狭い路地裏のような所。
人々の喧騒は大通りでもあるのだろうか、そちらへと足を運ぶ
少し歩けば、人々の行き交う通りへ辿り着いた


街並みは日本に似ている。
和風という訳ではない。現代日本の、都心から離れた郊外が1番近いだろうか。

見慣れた高層ビルは一切見当たらない。
高くてせいぜい4階まであるぐらいだろうか。空が広い。

目線を下げて遠くまで見てみると、森や山が見える。青々と茂っている。春から夏に移る頃だろうか。

近くを見てみる。ここが地球とは違うという事が、一目瞭然だった。
まず車は走っていない。主に人々が行き交い、チラホラと馬に乗った人が隙間を縫って移動している。

そして時折、動物の耳を頭に着けた人が通り過ぎる。
恐らく普通のことなのだろう。驚きはしたが、変に騒ぎ立てて目立つのを避けるため、声を出すのを耐える。

一先ず移動しようと大通りへ足を踏み入れると、視界の端で文字を捉えた。

「え?」

何だろうとその文字をよく見ようと視線を動かすが、何故かその文字も一緒に動く。
思わず体も動かしてしまい、そのまま後ろ向いてしまった。

「うわっ!?」
「わっ、ご、ごめんなさい!」

後ろに来ていた人とぶつかってしまう。
勢いはあまり付いていなかったので、どちらも転ぶことは無かった。

「いえいえ。こちらもよそ見をしていたから。所で、急に振り向いたようだけれど、どうかしたのかい?」

柔らかい声は少し高めだが、男性のようだ。少し深めに帽子を被っているので、表情は見えない
男性の質問に、そう言えばと先程見えた文字を探す。
先程と同じく視線の端、左上辺りに文字を捉えた。

「イースト、シードリー?」

見知ったアルファベットは、そう読めた。
小声で呟いたそれを、目の前にいる男性は拾ったのか、帽子を軽く持ち上げた

「ん?それはこの街の名前だけど、お嬢さんもしかして…」
「そうなんですか?今目の端に見えてって、うひゃ!?」

驚いて変な声が出た。
何かに気がついた様子の男性が、慌てて自ら被っていた帽子をココロへ被せたのだ。
ココロの驚いた声に、周りがザワついているとが気配で分かる。

「着いてきて」
「え?え!?」

そう小さな声で囁かれて、手を引かれる。
抵抗する間もなく、と言ったところか。手を引かれたまま、早足で歩き出した。

「ちょ、ちょっと!一体どこに!!」
「大丈夫!悪いようにはしないから!」
「そ、そんな事言われても…!」

スピードは抑えてくれているのか、足が縺れることは無い。が、帽子を深く被っているので、前が見えず不安になる。
空いている手を使って帽子を取ろうと手を伸ばす

「取らないで」
「え?」
「もう少しだから」
「……」

不安なのは、前が見えないから。恐怖はない。
ココロは、男性の言葉に従った。



しばらくしてから、不意に歩みが止まった。
そっと離された手に戸惑うも、バタンとドアか何かが閉まる音と共に聞こえた「取っていいよ」の声に、そっと帽子を外す
同時に明かりが付いたので、どこに連れてこられたのかと、辺りを見回す。
テーブルが数台。1台につき、椅子が2脚か4脚。
反対側にはカウンター席。その奥にも何か空間がある
ココロを連れてきた男性以外は誰も居ないが、おそらくカフェかそれに近い店だろうと想像がついた。

「突然ごめんね。街中で気づかれるとあまり良くないから、ここまで連れてきちゃったんだけど」

男性に声をかけられて振り向く。
お互いに帽子を被らず顔を見るのはこの時が初めてだ
声に比べると顔立ちは男性の物。優しげな目をしている。
髪は金に近い茶髪だが、チャラい印象は無い。けれど、ある一点に視線が釘付けになった

「俺はハロルド。差し支えなければ、名前を聞いても?」
「…あ、っと。私はココロです。澤村ココロ……」
「気になる?」

彼、ハロルドの質問に答えながらも視線を外せずにいると、それに気がついたハロルドがそれ…頭にあるウサミミを持ち上げた

「ご、ごめんなさい。嫌でしたか?」
「いいや。君…ココロのような反応には慣れてるから。それと、この後、ココロがとるだろう反応にもね」

なんの事だろうと首を傾げるココロに、ハロルドは少し大きめな手鏡を渡してくる。
思わず受け取り、覗くように促されるので、恐る恐る覗く

「え、ええええぇぇぇぇ!?」

確実に近所迷惑になる程の大声を上げてしまう。
その横で、ハロルドは「やっぱり」と言いながらクツクツ笑っていた

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