おもてなし診療所 その2
薬のことなら、やはりスアとブリリアンだよな。
そう思った僕は、コンビニおもてなしの営業が終わると2人に店の応接室に来てもらいました。
「……というわけで、最近問い合わせの多いスアの薬に関して何か手を打った方がいいかなと思うのだけど、2人はどう思う?」
僕がそう切り出すと、ブリリアンがいきなり立ち上がりました。
「店長殿、それは仕方がありません。何しろスア様がお作りになったお薬なのですよ?放っておいてもその素晴らしさは皆に知れ渡っていくものです。そんじょそこらに出回っている並以下の粗悪品とは雲泥の差の品質ですもの。そんな粗悪品と区別がつかない愚か者がこの世界に存在するはずがありません!」
ブリリアンはひとしきりスアのことを賞賛し終えると、ドヤ顔をしながら胸を張っています。
ふんぞり返りすぎて、そのまま後ろにぶっ倒れてしまうんじゃないのか? ってくらいふんぞり返っています。
いや、だからスアの薬がすごいのはわかってるって。
その薬を求めてやってくる人が多いからどうかしたいんだけど、って話をしてるんだけど……っていうかさ、スアを賞賛しまくってるブリリアンだけどさ、彼女がウチの店に始めてやって来た時って
「偽薬を売ってるのはこの店か!」
とか言って殴り込んで……
「わぁわぁわぁわぁわぁわぁわぁわぁな、な、な、何を言っておられる店長殿、そ、そ、そ、そんな粗相をこの私がするわけがないではありませんか、かか、か……可及的速やかにそのことはお忘れいただきたい」
僕がスアとヒソヒソ話しをしているとその内容がブリリアンにも漏れ聞こえたらしく~まぁ聞こえるように言ったんですけどね~ブリリアンは顔を真っ赤にして両手を振り回しています。
そんなブリリアンを、僕とスアはジト目で見つめていたわけで……
……とまぁ、ブリリアンに突っ込みをするのはここまでにして、改めて本題に戻ろうと思います。
「とにかくだ、店だけで品物を売りさばき続けるのはちょっと限界がきていると思うんだ。でね、これは僕個人の考えなんだけど、ブリリアンが前にやっていたような診療所を開設してみたらどうかと思うんだけど」
僕が意見を述べると、スアとブリリアンも頷いてくれています。
「そうですね……薬に特化した診療所があれば、少なくとも店舗の中に薬目当てのお客様の行列が出来てしまうこともなくなりますし……」
ブリリアンが腕組みしながら頷いています。
「うん、確かにそれもあるんだけど……もうひとつ思っていることがあってね」
「「もうひとつ?」」
僕の言葉に、スアとブリリアンは同時に声を発しながら僕の顔をのぞき込んできました。
「これはあくまでも僕の経験なんだけどさ。体の調子が悪い人って、きちんと説明を聞きたいって人が多いと思うんだ。スアの薬は即効性があって、その上効果が幅広いから基本の治癒薬を飲むだけでたいていのことが治っちゃうんだけどさ、中には今の自分が何が原因でこうなっているのか説明を聞きたいって思う人もいると思うんだよ。そういう人達を一人ずつ診断して、症状を説明したうえで薬を渡していけば、薬を買いに来てくれている皆さんも納得出来て喜んでくれるんじゃないかと思ってさ」
僕がそう言うと、ブリリアンは思い当たる節があったらしくウンウンと頷いています。
「言われてみればそうですね。私が診療所をしていた頃にもそんな方が結構いらしたような気がします」
ただ、診療所を開いた経験のないスアは、あまりピンときていないらしく眉をしかめながら首をひねっています。
まぁ、とにもかくにも、今のままほったらかしておいたら店の中が薬を求める人の列でさらに埋まってしまうのは火を見るよりも明らかなわけです。
とにかく、この診療所計画をやってみようということになりました。
◇◇
診療所は、向かいにあるスア工房のとなりの店がちょうど空店舗になっているのでそこを買い取るとして、あとは診療する医師というか薬の説明が出来る人をどうするかです。
スアの薬をほぼ把握しているブリリアンが適任だとは思いますが、彼女1人では無理でしょう。
何しろ、すでにコンビニおもてなし本店の薬目当てのお客さんを裁き切れていないのですから。
最低でもあと1人……出来れば2人くらいなんとかならないかな……
そう考えた僕は、3号店のある魔法使い集落に求人を出すことを考えたのですが、そんな僕の耳に、
「店長、誰かお忘れじゃないかしらぁ?」
なんか、そんな声が店の方から聞こえて来ました。
僕・スア・ブリリアンは応接室を出て、すでに閉店している店内を確認していきました。
「……誰もいないな」
「……気のせい、ね」
「うむ、そのようですね」
僕達はそう言い合い、頷き合っていると
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってぇ!」
そんな言葉を発しながら、レジ奥に置いている巨大な黒招き猫の置物が、なんかゴトゴト動き出しました。
……あぁ、いたね、君
……そう、この黒招き猫の置物なのですが……この中にはある人物がスアによって封印されているんです。
暗黒大魔道士ダマリナッセ・ザ・テリブルアです。
暗黒魔法を極めた人らしいです……僕にはその暗黒魔法っていうのがよくわかりませんが……
で、この暗黒魔法を極めた人はみんな「ダマリナッセ」を名乗るんだそうです。で、その名前の後に自分の名前をくっつけるんだとか。
僕はよく知らないのですが、なんかクライなんとかって世界に出現したダマリナッセはダマリナッセ・ザ・アプリコットって言うそうで、この世界にもう1人いるらしい暗黒大魔道士は、ダマリナッセ・ザ・フラブランカって言うそうです……ややこしいですねぇ、ホント。
で、そのテリブルアが声を発しているわけです。
「話は聞いたわぁ、私にもその診療所を手伝わせてくださらないかしらぁ?」
そう言うテリブルアですが……僕達3人はそんな黒招き猫のテリブルアをジト目で見つめていきました。
そりゃそうでしょう?
こいつ、この世界を滅ぼしてやるとか言いながら大暴れしたんですよ?
僕をスアの横でNTRしようとしたヤツですし、その時僕に大怪我を負わせた女です。
そんな女が、こんな殊勝なことを言い出したとなると、なんか裏があると思うのは当然じゃないですかね?
そんなことを僕が思っていると、テリブルアはなんか自嘲気味に笑い出しました。
「あ~……警戒されるのはよくわかってるわ……でもね、これも心境の変化だと思ってよ。
私さ、たまにパラナミオちゃんに持ってもらって彼女の学校に行ってるじゃない? そこでさ、私の知っている昔の物語なんかを聞かせてあげたりしているんだけどね、みんなとっても良い子なのよ……そんな子供達をね、滅ぼそうと思ってたっていうのが、なんかさ……もう、あとは察してよ!」
なんか終盤にいきなりツンデレたテリブルアですが……
「……スア、どう思う?」
僕がスアにそう聞くと、スアも判断に困っているらしく首をひねっています。
ブリリアンは
「そんな言葉信じられるか! この外道が!」
と、終始喧嘩ごしなのですが……
確かに、テリブルアが逃げ出すチャンスとして狙っている可能性はあります。
ですが、その言葉が本当だという可能性も無きにしも非ずです。
「……どうかなスア。君の魔法の監視下に置いておいて、その上でお試しで手伝ってもらってみたら?」
僕がそう言うと、スアは腕組みして考え始めました。
「スア様! そんな事を悩む必要はありません! 却下です!今すぐ却下です!」
相変わらずブリリアンはギャアギャアわめきちらしていますが……
「……ん、わかった、わ」
スアはそう言うと、腰の魔法袋から水晶樹の杖を取り出し、黒招き猫の頭の上の乗せました。
すると、黒招き猫が光ったと思うと、その光の中から女……いや、女の子が出現しました。
それは、妖艶な姿をしていたあのテリブルアを幼女にしたような、そんな感じの女の子です。