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新たな装い

 巨大建造物の最上階。そこでれいは装いを新たにしたので、取り出した大きな鏡の前に立って自分の姿を確認する。
 その装いを一言で表現すれば、積雪だろうか。光が当たると銀色に反射するので、真っ白というわけではない白色。それを表すのであれば、白というよりも白銀と表現した方が適切かもしれない。
 上下ともにスーツのようにかっちりとした服装で、奇麗というよりもかっこいいという言葉が似合いそうな服装。しかし、れいがそれを纏うと、かっこいいから美しいに変わるのだから不思議なものだ。前回の服装よりも神聖さがグッと増したので、見た目だけでも思わず祈ってしまいそうになるほど。
 れいは手足を動かして動きを再確認する。それで動きを阻害されるような感覚はなかったので、れいは大鏡を仕舞って、いつも通りに椅子に腰掛けた。
「………………スカートよりもズボンの方が動きやすいですね」
 もっとも、それだけ神秘的な装いになろうとも、れいの服装を変えた感想はそれだけだった。
 それからは、普段通りにハードゥスの管理について思案を始める。
 黙ってジッと座っているその姿は、傍から見れば出来が良すぎる人形のようにも思えてくる。しかし、現在最上階にはれいしか居ないので、残念ながらその姿を見られる者は存在しない。
 最近はれいを主神もしくは唯一神と崇める宗教も拡がりをみせ始めているが、最上階はまさにそんな宗教の聖域というのに相応しいほどに神秘的な場所であった。れいがそこに居る。ただそれだけで全てが浄化されているような気配さえ漂っていた。
「………………そういえば、帰還の門を長いこと確認してませんでしたね」
 ふとそんなことを思い出したれいは、ついでに大迷宮の存在も思い出す。いや、別に存在を忘れていたわけではないが。中まで確認に出向くのを忘れていただけで、監視だけは今でもしている。
「………………近いうちに一度確認に向かうとしますか。あのダンジョンマスターの様子もついでに直接確認しておきましょう」
 ハードゥスに漂着した最初のダンジョンクリエーターにして、帰還の門を護る門番。それが大迷宮のダンジョンマスターであった。しかし、大迷宮に挑戦する者は少なく、中に入ってもごく浅い階層を探索して戻るだけなので、出番は全く無いのだが。
 もっとも、それは門番としては優秀と言えるだろう。元々実際に在った地下迷宮を基にして地下迷宮を創っているだけに、他の迷宮とは少々異なる存在でもあるわけだし。
「………………さて、あれ以上迷宮をあまり成長させないように言ってはいますが、最下層に着くまで時間が掛かりそうですね」
 れいは地下迷宮を見て回る際、迷宮の機能であるポータルや自前の空間移動系の力は使用しない。見回りが目的なので、各階層を見回りながら最下層を目指す。
 そういうわけで、時間がある時ぐらいしか隅々までとはいかないが、各階層の入り口から出口を繋ぐ道ぐらいは確実に見て回っていた。
 地下大迷宮は、その名の通りにかなり広い。一切の寄り道をせずに入り口から出口まで一直線に進んだとしても、最初の階層から最下層に辿り着くまではかなりの時間を要する。
 れいが足早に移動したとしても、最下層までは十日ほどは掛かるだろう。管理の片手間での見回りなのでそれでも問題はないのだが、結構時間が掛かるのは間違いない。かといって、ポータルなどを使うつもりはないのだが。
「………………まぁ迷宮を見て回るのも楽しいので問題ありませんが」
 今後の予定を頭に思い浮かべたれいは、それだけの拘束期間があっても何の問題もないことを確認すると、次は久しぶりに大迷宮へと赴く予定を組んでいくのだった。

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