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「さぁさぁみんな大好きドンタ……」「エイト商会でございま~す!」 その3

 酒飲み勝負の翌日。
 ドンタコスゥコはコンビニおもてなしでいつものように仕入を行っていました。
「ふっふっふ、新たなステージに到達したこのドンタコスゥコ、なめてもらっては困るのですねぇ」
 そう言いながら気合い満々のドンタコスゥコだったんですが、

 1時間後……

 コンビニおもてなしの仕入・卸売り部門担当のファラさんの前で、ぐったりし、椅子に座っているドンタコスゥコの姿がありました。
「燃えたですねぇ……燃え尽きたです、真っ白な灰ですねぇ……ガク」
 ファラさんの「これ以上はビタ一文まかりませんねぇ」攻撃の前に完敗を喫したドンタコスゥコは、椅子に座ったままガックリと首を垂れています。
 で、そんなドンタコスゥコの前で、ファラさんは、
「あなたとは、レヴェルが違うんです。そこ、もう少しご自覚していただきたいですわね」
 そう言いながら、そろばんをバチバチ叩いています。
 ……とまぁ、結局、今月も毎度お馴染みの光景が展開されたわけです、はい。

 ちなみに、昨日ドンタコスゥコの策にはまり完敗を喫したエイト商会のイエトですが、あの後おもてなし酒場の宿に泊まったらしいのですが、朝になるとドンタコスゥコと一緒に仲良く朝ご飯を食べていました。
「いえねぇ……昨日は負けた悔しさもあって取り乱しましたけどぉ。この私をここまで完璧に出し抜く人なんて久しぶりだったものですから」
「そうでありましょう、そうでありましょう! このドンタコスゥコ、隠しきれない才能があふれ出してますからねぇ」
 ついさっきまでファラさんに完敗を喫して真っ白な灰になっていたドンタコスゥコですが、イエトによいしょされて、早くも完全復活といいますか前以上に鼻たーかだかになってる感じです、はい。
 ただ……そんなドンタコスゥコを見つめているイエトの目がですね……なんといいますか、恋する乙女? 的な瞳になってまして、見てると

 トゥンク

 って、鼓動が聞こえて来そうな感じがします。
 そんな恋する乙女だからですかね……イエトってば、なんか朝からすっごい気合いの入った服装をしているんですよね……で、盛んにドンタコスゥコを褒めちぎっているわけでして……しかし、僕は見逃しませんでした、その顎の裏に残っている髭のそり残しを……あの辺、剃り難いんですよねぇ……

 そんなわけで、すっかり意気投合したドンタコスゥコとイエトはその場で業務提携を結び、今後コンビニおもてなしからの仕入をドンタコスゥコ・エイト商会合同で行うことを決めました。
 最初はドンタコスゥコがイエトにうまく丸め込まれた気がしていたのですが……
「ドンちゃん、今朝の敵はこのイエトが取って上げる!」
 そう言いながらファラさんに向かっていき、ドンタコスゥコの六分の一にも満たない8分弱で真っ白な灰と化している姿を見ると、ただ単に似たもの同士で波長がシンクロしやすかったんだろうな……と、いったあたりで納得したわけです、はい。
「だから言ったでしょ? あなた方とはレヴェルが違う、と」
 眼鏡を押し上げながら静かに微笑んでいるファラさん。
 その眼前で、真っ白な灰になって倒れ込んでいるイエトを介抱しているドンタコスゥコは
「こ、この敵は次回絶対! なんですねぇ!」
 そんな捨て台詞を残し仕入れた品物を馬車に詰め込んでガタコンベを後にしていきました。
 で、その馬車に便乗したイエトもですね、
「覚えてなさいよ~!」
 そう言いながら中指を立てつつファラさんを睨み付け、僕にはスマイル120%の営業スマイルを浮かべていました。

 ……なんか、月末がさらに賑やかになっていきそうですね、こりゃ。

◇◇

 そんなドンタコスゥコが、酒をかっくらい過ぎて意識不明に陥っていた昨日なんですが、我が家ではちょっとしたおひな祭りを行いました。
 いえね……先日店の倉庫を片付けていたらですね、なんかでっかい木箱が出て来たもんですからその中身を確認したところ、豪華7段飾りのおひな様が出て来たわけです、はい。
 木箱についていた仕入タグからして、爺ちゃんの代に仕入れた物のようですが、これ、100万円くらいで売らないと赤字になっちゃうというとんでもない代物でして、しかもこれを商品として仕入ているんですからねぇ……いくら宝くじの当選金があったとはいえ、当時の店長だった爺ちゃんがいかに放蕩経営をしていたのかがわかって頂けましたでしょうか?

 で、それを説明書を見ながら巨木の家のリビングに飾っていたのですが、
「……旦那様、それカガク? 動く? 使い魔?」
 スアが目を輝かせながら僕の側にやってきました。
「あぁ、これはひな人形といってね、3月……この世界のマーの月の3日が、僕が元いた世界ではひな祭りって女の子のお祭りの日でね、その日にこれを飾って、女の子の成長や幸せを祈るんだ」
 僕の言葉を聞いたスア。
 カガクでないとわかってガッカリしちゃうかな、と思っていたのですが……人形を手にとり、その出来映えをマジマジと見つめ続けています。
「……カガクじゃないけど……この細工、すごい……」 
 どうやらひな人形はスアの別の感覚を刺激したらしく、この後、スアは僕と一緒になってひな人形を飾りながら、その人形の出来映えに感動仕切りだったわけです。
 そう言えば……このひな人形って、確か母方の祖父母から贈られた品を飾るんじゃなったかな……
 僕がそんなことを思い出していると、
「そうなのですね~婿様。わかりました、すべてこのリテールにおまかせですわぁ」
「うわぁ!? お義母さん!? いつの間に!?」
 僕がびっくりする程、唐突に登場したリテールさんは、そう言って胸をドンと叩くと、飾り付け途中のひな人形達を自分の魔法袋から取り出した記録水晶を使用して記憶容量ギリギリまで目一杯撮影してから転移ドアでどこかへ向かっていきました。

 そして1時間後

「婿様! ステルちゃん、それに可愛い孫のみんなぁ! おまたせなのよぉ!」
 転移ドアで戻って来たリテールさんは、その顔に満面の笑みを浮かべながら巨木の家に戻ってきました。
 我が家では、飾り付けが終わったひな人形の前にみんなが集まって、僕が即興で作成したひなあられをみんなで食べていたのですが、そこに歩み寄って来たリテールさんは、飾り終わっているひな人形の横に新たな雛飾りを並べていきました。
 リテールさんの魔法袋から出現したそのひな人形は、これはこれでなかなかに豪勢な作りになっているのですが……

 男雛と女雛がエルフです。
 三人官女もエルフです。
 五人囃子もエルフです。
 で、女雛も弓を持っていたり、五人囃子が持ってる楽器がオカリナだったりハープだったりと……まぁ、全体的に、この世界風に見事にアレンジされていたんです。

「……ひな人形とは趣が違うけど……これはこれでなかなか」
 僕は、かなり精巧に作り込まれているそのパルマ版ひな人形をマジマジと見つめていました。
 そんな僕の横でリテールさんは胸を張っています。
「魔女魔法出版?(わが社)のおまけ用フィギュア作成職人達を総動員して作成させましたの」
 そう言って、嬉しそうに微笑むリテールさんですが、その視線は2つの雛飾りに群がっているパラナミオ・リョータ・アルト達に注がれています。
「うわぁ……どっちのお人形さんもすごいですねぇ」
 目を輝かせながら人形を見つめているみんな。
 そんなみんなを、リテールさんは嬉しそうに見つめています。

 なんのかんの言っても、リテールさんもお婆さんなわけだし、孫が可愛くて仕方ないんだろうなぁ……そんなに思ってもらえて、パラナミオ達も幸せだなぁ……そう、僕が思っているとですね、リテールさんは
「ねぇ、婿様ぁ、やっぱり子供っていいですよねぇ。ステルちゃんってば一人っ子ですしね、今からでも弟か妹を欲しいと思うんですよね。というわけで、私の子作りの手伝いをしていただけませんか? いえ、してもらいますわ!」
 頬を上気させ、はぁはぁと荒い息を吐きながら僕ににじり寄ってくるリテールさん。
 
 で

 次の瞬間、リテールさんの姿が僕の横から消え、同時に家の外を流れている川の中に何か大きな物が落下する音が聞こえて来ました。
 で、そんな僕の横にはスアが立っています。
「……ママってば……旦那様は私の、なのに」
 頬を膨らませているスアは、そう言いながら僕に抱きついてきまして、その手を……って、スア、子供達もいるから、そこはダメだって!?

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