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第4話「ねじれたモノ⑤」

「いてて…」
「起きた?」
 俺を制して、スハラが先に翔に声をかける。翔は俺たちを見上げて、口元を歪めた。
「まさか、お前に見られるとはな。それにお前、旧寿原邸だろう」
 痛む肩をさする翔は、すぐに目をそらしてしまう。
「翔、何でこんなことしたんだよ」
 翔は口を閉ざしてしまうが、俺たちも引くわけにはいかない。
 しばしの沈黙の後、その場の雰囲気に耐えかねた翔は、しぶしぶ理由を語り出した。
「…はじめは、ただのストレス発散だったんだ。道にあった植木鉢を蹴飛ばしたら、異様に心が晴れる気がした。…それからやめられなくなった。」
「…人の物壊して、何が発散なの?」
 スハラが怒りを抑えた口調で問う。
「…あんたたちには関係ないだろ。こっちにはいろいろあるんだ」
 付喪神であるお前たちとは違うと、暗に言う翔に、俺は違和感を覚える。翔は、こんな考え方をするやつだっただろうか。
「畑を荒らしたり、二段公園をやったのもお前かよ」
 俺は、たまらず口を開くが、翔の返事は予想とは少し違っていた。
「なんのことだ。植木鉢はいくつも壊したが、それ以外は、今日だけだ」
 それは、犯人による自白と、ほかにも犯人がいることを示す言葉。
「…本当に、ほかのことはしてないのか?」
 スハラの問い詰めるような口調にも、翔は動じない。それどころか、どこか投げやりな言葉を吐く。
「現場を押さえられて、これ以上隠すも何もないだろ」
 自嘲気味に口元を歪めた翔は、俺もこれまでかとつぶやいて、立ち上がると、そのまま目を閉じて、天を仰ぐ。
 沈黙する翔は、今、何を考えているんだろうか。
 自分の犯した事の重大さは、わかっているはずだ。
「翔、悪いことしたってわかってるなら、ちゃんと自首しろよ。迷惑かけた人にも謝れよ」
 返事すらしない翔に、俺は、聞いてるのかと声を荒げてしまう。その瞬間、翔は冷たい、血走った目をこっちへ向けた。
「うるせーよっ!」
 翔は、そう大声で吐き捨てると、ものすごい勢いで走って、暗闇に消えていってしまった。
 突然のことに驚いた俺たちは、どうすることもできず、その背が闇に消えるのも一瞬のことで、ただ立ち尽くすことしかできなかった。

 次の日の昼、スハラの声かけで水天宮の境内に、俺とスハラ、サワさん、オルガ、そしてミズハとスイ・テンが集まった。
 寿原邸を使わなかったのは、ミズハが水天宮の留守番のため、離れることができなかったからだ。
「昨日の夜、犯人の一人がわかったよ」
 少し暗い声で話を切り出したスハラの次の言葉を、全員が待つ。
「尊の高校時代の同級生だった。手宮洞窟を壊そうとしてた」
 スハラは、昨夜の詳細を淀みなく説明していき、説明の最後に、翔の自白によって犯人がほかにもいるだろうと推測できることを伝えた。
「じゃあ、まだ犯行が続く可能性があるんだな」
 サワさんが、怖い顔で言う。だけど、きっとみんな同じことを考えているはずだ。
「日中の見回りも増やしましょう?」
 オルガの提案に、ミズハがうなずく。
「本当はもっと見回れるヒトがいたらいいんだけど、スハラ、誰かいないの?」
「何人かに声をかけたけど、だめだった。…今は私たちでやるしかないよ」
 真っ直ぐ前を向くスハラ。昨夜も見せた強い意志を宿した眼。
「だけど、みんな気を付けて。昨日もそうだったけど、前にサワも言ってたように、また襲ってくるようなことがあるかもしれない」
 スイとテンが感じた、“変なにおい”のこともある。見回りと言っても、注意するにこしたことはない。
「じゃあ、さっそく見回りに行こうかな」
 オルガが立ち上がったことで、情報共有の会はそれで解散となった。
 サワさんは、終始怖い顔をしていて、歩き出したオルガについていった。

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