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第4話「ねじれたモノ③」

 次の日から、早速、夜の見回りを行うことにした。
 行くのは、俺とスハラ、そしてスイとテン。
 2人と2匹で、真夜中の人気のない大通りや商店街を歩く。
 スイとテンは散歩気分のようで、うきうきとした足取りはとても軽い。
 あちこち見て回りながら、2匹でああだこうだ言っている様子は、人の言葉じゃなかったら、きっとただの犬にしか見えない。
 いつの間にか、俺たちを置いて先にいく2匹は、夜の見回りの目的を忘れているのではないだろうか。
「スイ、テン、あまり離れるなよ」
 夜は、辺りが静まり返っているからか、あまり大きな声でなくてもよく響く。
 俺の声に振り向いて、走って帰ってくる2匹は、戻ってくるなり、口々に言う。
「あっちから変なにおいがするよ」
「人じゃないにおいがする」
 人じゃないとは、付喪神の誰かだろうか。スハラが聞くと、2匹は首を横に振る。
「ヒトでもないよ。もっと何かわからないもの」
 俺とスハラは、嫌なにおいがするという2匹に案内されて、総合博物館の駐車場まで来た。
 街灯に照らされた駐車場は、当たり前だけど、車は一台も止まっていない。
 静けさに支配されたような空間に、俺たちの歩く音だけが響いている。テンは、もう帰りたいと泣きそうだ。
「スハラ、変なにおいはあっちからするよ」
 スイが視線を向けた先には、手宮洞窟保存館があった。
 手宮洞窟保存館は、1866年にその壁画が発見され、平成7年に保存館として整備されたところだ。
 続縄文時代中~後半のもので、本州の弥生時代に相当し、国内には、この手宮のほかには一つしかないとても貴重なものらしい。
 その保存館は、暗闇の中なのに照らされてるかのように浮かび上がって見える扉は、幽世と現世をつなぐもののように見える。
 遠くから見ている分には、特に何かがあるような異変は感じない。
 だけど、近づくにつれ、ぎぎぎっ…と何かをひっかくような異様な音が聞こえてきた。
「何の音だ…?」 
 石やコンクリートを固いもので削るような、何とも形容しがたい音は、人が発する音なのだろうか。
「尊、あれ見て」
 スハラが小声で言って、指を差した先には、黒い影の塊。
「うわっ」
 異様な影に驚いて、俺は思わず声を上げてしまう。
 その声に、俺たちの存在に気づいたその黒い塊は、身体を起こしてこちらを見た。

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