未知との遭遇 ~春の訪れは今度こそドゴログマで その5
どうやら、どうにかなったようです、はい。
僕は周囲を見回しながらため息を漏らしていました。
フリオさん達も、安堵した様子で何やら話をしているようです。
で、僕達の方でも、スアがウキウキした様子で薬草採取に行く準備をしています。
……ですが、そうですね……このままにしておいてはいけませんね。
僕がそんなことを考えながらスアに歩み寄って行くと、その思考を読み取ったスアがですね、先ほどまでのウキウキした様子とは一変し、その顔を真っ青にしながら僕を見つめています。
「……あの……だ、旦那様……そ、その……」
スアは、真っ青になったまま僕を見つめています。
うん、そりゃそうでしょうね。
僕は脳内に怒りの感情を爆発させていましたから。
子供達の前ですし、それを言動に出すわけにはいきません。
なので、顔には笑顔を浮かべています。
そんな僕の感情を理解しているスアは、あたふたし、真っ青になりながら必死に言葉を探しているようです。
僕は、そんなスアの肩をゆっくりと掴みました。
スアは、ビクッと体を震わせました。
そんなスアに僕は、ゆっくり語りかけていきました。
「スア……君がこのドゴログマでの薬草採取を楽しみにしていたのはわかってる……でもね、だからといって宝箱の検査をおろそかにしちゃ、ダメだよね?」
僕がそう言うと、スアはコクコクと必死に頷いています。
笑顔で語りかけてはいますけど、僕が心の底から怒っているのがスアには伝わっていますからね。
そんなスアに、僕は言葉を続けました。
「いいかい? 2度とこんなことはしないと約束してくれ。君のうっかりミスのせいで世界が1つ無くなったりしたら、君の夫として僕も辛い」
僕がそう言うと、スアは何度も頷きながら、いきなり泣き出しました。
まるで漫画のように両目からダーッと涙をこぼしていくスア。
そんなスアの前に、僕は右手の小指を差し出していきました。
「指切りしよう……僕が元いた世界では、こうやって約束を守ることを誓いあうんだ」
僕は、そう言いながらスアの右手の小指を僕の小指に絡めました。
「ゆ~びき~りげんまん、嘘ついたら……針千本……」
手を振りながら、僕はここで少し考え、そしてこう続けました。
「……一緒に飲む……きった」
そう言って小指を離そうとした僕。
ですが、その手をスアが慌てて掴みました。
「……な、なんで? わ、悪いのは私、なのに……」
そう言うスアに、僕はニカッと笑いました。
「何言ってんだ。僕とスアは夫婦だろ? 奥さんがしでかしたことは僕のせいでもある。君だけのせいじゃないさ」
実際、僕は本気でそう思っています。
スアが浮かれていたのには気がついていました。
そういうときに、スアがうっかりをすることがあることも知っていました。
なのに、僕はそこで一言「大丈夫?」って、スアに声をかけることをしませんでした。
それは、夫である僕の失敗だと思っているわけです、うん。
すると、スアは、さらに涙を倍増させ、
「……もう、しない……絶対しない……私、絶対しないから……」
何度も何度もそう言いながら僕に抱きついて嗚咽を漏らしていました。
で、その光景に子供達も心配そうな表情をうかべていました。
そんなみんなに、僕は
「もう大丈夫、悪いことをしちゃったママも、こうして反省してくれたから、ね。パパももうこれ以上は怒らないよ」
そう言い、ニカッと笑いました。
その笑顔を見たパラナミオ達は、ようやく安堵の表情をその顔に浮かべていきました。
さて、もう一箇所、謝罪しにいかないとなぁ。
僕は、会話をかわしているフリオさんとリースさんの横へ歩み寄りました。
スアも嗚咽を漏らしながらついて来ています。
僕の意図を悟っているのでしょう。
僕は、そんなスアの手をそっと握り、改めてフリオさん達へ視線を向けました。
「あの、こちらの皆様……なんといいますか、今回はうちの奥さんのせいで皆さんを危険な目に遭わせてしまいまして、ほんっとすいませんでした」
僕はそう言って深々と頭をさげました。
スアも一緒になって頭を下げています。
「ウチの奥さんが、あの宝箱の素性をしっかり確認しておけば、もっと別の対処が出来てたはずなんですよ。そもそもあの宝箱は、この世界に封印していい代物じゃなかったみたいなんで……」
僕はそう言うと、何度も頭を下げていきました。
スアも体を折り曲げたままぴくりともしていません。
長い髪が地面に垂れ、涙がボロボロこぼれ落ち続けています……少し可愛そうにも思いますが、これはけじめですしね。
とにかく、フリオさん達に許してもらうためなら、何でもさせてもらわないと……なんせ、僕達のせいで危ないことに巻き込んじゃったわけなんだから……
僕は、そんなことを考えていたのですが、
「まぁ、こうして無事解決したんだし……もう良いじゃないですか」
フリオさんは爽やかな笑顔でそう言いました。
「え?……い、いいんです? その……皆さんをこんな危険な目に遭わせたっていうのに……そもそも、もし10人揃わなかったら……」
「いえいえ、これくらいのことでしたら今までにも経験していますし、それに10人に足りないようでしたら魔人形を生成しようと思っていましたので」
そう言うと、フリオさんは僕の肩をポンと叩きました。
「ですから、もう奥さんを許してあげて……」
新たに現れた人達と話をしているフリオさんを見つめながら、僕は思わず苦笑していました。
なんていうか、気持ちのいい人です、はい。
そんなことを考えている僕の手を、スアがギュッと握っています。
僕は、その手を握り返していきました。
◇◇
「僕はリョウイチ、タクラリョウイチ。ガタコンベって街でコンビニおもてなしって店を営業してます。もしこっちの世界にこられることがありましたら、ぜひお寄りください」
「僕はフリオ。ホウタウの街でウーゴ商会の会長をしながらあれこれやっています。もしそちらに行くことがありましたら、ぜひ」
僕は、フリオさんとそんな言葉を交わすと、ガッチリ握手を交わしてから別れていきました。
「ご主人殿、では魔獣の討伐に行くのでゴザルか?」
「気合い入れてるキ」
イエロとセーテンが腕を回しているのですが、
「……ごめん、2人とも。今回は自粛しよう」
そう声をかけました。
……なんせ、今回はスアの……いえ、僕達夫婦のせいで色んな人に迷惑をかけてしまったわけですからね。
すると、イエロとセーテンは、
「ふむ、ご主人殿がそう言われるなら、また次回ということでゴザルな」
「了解したキ」
あっさり僕の言葉を受け入れ、笑顔で頷いてくれました。
「……スアもさ、せっかく楽しみにしていた薬草採取だけど……」
僕がそう言いかけると、スアは
「……わかっていま、す……今回はなし、で」
そう言い、頷きました。
スアは、そう言いながら僕の腕にしっかりと抱きついていました。
伝説の魔法使いであるスア。
でも、僕にとってのスアは、奥さんのスアなんですよね。
今回の事を、スアがしっかりわかってくれて、二度と繰り返さないのであればそれでいいと思いますし、スアはきっとそれを守ってくれると思っています。
「みんな、ドゴログマを満喫出来なかったお詫びに、家に帰ったら僕が何か美味しいものでも作るよ」
僕がそう言うと、皆は嬉しそうに歓声をあげました。
そして、僕達は、スアが作った転移ドアを使い、コンビニおもてなしへと戻っていったわけです、はい。
え?オチがない?
まぁいいじゃないですか、たまにはこんな終わりもね。
「パパ、誰とお話しているのですか?」
「あぁ、パラナミオ、何でもないんだよ、うん」