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【半獣人の首都・アバウ】

【半獣人の首都・アバウ】

 アバウの街の中に入ると、半獣のツークンフトばかりが街の中を歩いていた。パパゴロドンと同じ半獣と思われる黄金の獣だったり、黒くて細い9つの尻尾を持つ半獣だったり、多種多様な半獣の姿に、レイフは目を奪われた。



「オレ、こんな半獣ばっかり見たの初めてっす」

「そうなのかー?まぁここは、元々は地球人の植民惑星だったからなー」



 この惑星ニューカルーでも、地球戦争の終結記念日を祝う催しがあったのだろう。半獣達が露店や、装飾などの後片付けをしていた。地面にパレードの名残で、装飾がたくさん落ちている。



(···地球の植民惑星だったから、半獣が多い···?)



 違和感がある言葉だった。コナツも惑星ニューカルーを説明する時、同じことを言っていたが、パパゴロドンの言葉には含みがあった。



「それって、どういう···」

「お、パパゴロドン」



 レイフの言葉は、前方から歩いてきた黒い獣の半獣によってかき消された。自然とパパゴロドンは前に出て、レイフを後ろに隠す。



「おー、バルナベー、どうしたんだー?」



 パパゴロドンは黒い半獣のことを、バルナベと呼んだ。彼は全身が黒い毛でおおわれた獣で、まるで一角獣のような角が額から生えていた。尻尾は2つに分かれ、ゆらゆらと両方が揺れている。



「星境局の奴らは忙しそうなのに、お前は非番かー?子供連れてー」



 バルナベはパパゴロドンと同様に、のんびりとした口調だ。暑い惑星ニューカルーのツークンフトの独特の口調なのかもしれない。



「一応仕事中な感じだー。これは親戚の子供だぞー」

「親戚ー?実は隠し子じゃないかー?」



 のんびりと2人は会話をする。間延びをした口調で、緊張感は全くない。

 バルナベの黒い瞳が自分を映し、にやにやと彼は笑う。気持ちの良い笑い方ではないため、レイフは自然と苦笑いをした。



「随分若いなー、これじゃ地球戦争も知らないんじゃないかー?」

「あー、オレ15歳なんで···」

「15歳!?良い時代に産まれたなー!地球に徴兵されなくて済むんだからなー」



 そう言ったバルナベの瞳には、黒い感情が含まれているようだった。

 今まで惑星トナパに住んでいたレイフも、見たことがない感情の色だ。



(地球に···あまり良い感情を持っていない···?)



 鈍感なレイフにも、そのくらいわかる。惑星トナパに、そんな感情を持つ者はいなかった。惑星トナパでは、自分達ツークンフトを作った地球人をひたすら崇拝する人々しかいない。



「若いやつに変なこと教えるなよー」



 パパゴロドンが簡単に諭す。バルナベは軽く笑う。



「つい若いやつを見るとなー、地球戦争時代の話をしたくなっちまう」

「気持ちはわからんでもないがなー。夜にでも、また聞いてやるよー」

「おうー、定時後に一杯やろうぜー。その坊主も連れて来いよー」



 バルナベは無遠慮に自分の頭に手を置いた。牙を見せて笑い、去っていく。



「惑星ニューカルー軍の知り合いだー、悪い奴らじゃない感じだ」



 そっとパパゴロドンが告げ、自分の背中を押してくる。促されるまま、パパゴロドンの後についていく。



「地球戦争時代って···あの人は、地球に徴兵されてたんすね」

「この惑星にはそんな奴らばっかりだー、オレもそうだしなー」

「えっ?パパゴロドンさんも?」

「半獣だからなー、地球人は半獣を好んで徴兵してたんだぞー」



 半獣を――レイフは自らの尻尾と耳を、つい触りそうになってしまった。



「俺たちは地球人に作られたんだからなー、ま、当然な話だなー」



 その時のパパゴロドンの顔が、見えなかった。彼の大きな背中超しに、レイフは今のパパゴロドンが、先ほどのバルナベと同じ目をしているのではないかと思った。



(パパゴロドンさん、ノホァト教じゃないのか···?)



 地球人を崇拝するノホァト教信者が、地球のことを悪く言うはずがない。



(いや、この宇宙にノホァト教じゃない奴なんているもんか)



 この宇宙で、ノホァト教じゃないツークンフトなど存在しない。自分達を作ったのは、神ではなく地球人である。地球こそ敬う対象なのだ。



 もしノホァト教じゃないとしたら、それはただ1つ、異教であるアクマ信仰。



 惑星ニューカルーの人々や、ましてパパゴロドンがアクマ信仰のはずがない。



「フードを深く被れよー」



 パパゴロドンが念のためレイフのフードを深くかぶらせて来る。強引な手つきだったが、前方を見れば納得ができた。



(アシスの···っ!)



 半獣の人々の中で、とりわけ目立つ黒い軍服。人型の男性のツークンフトが、厳しい目つきで周りを警戒していた。 



「おいっ!そこの星境局員!」



 黒い軍服を着た、褐色の中年男がパパゴロドンを横柄に指さす。パパゴロドンはのんびりと首をかしげつつ、中年男に向かって歩いて行った。



 レイフはフードを深く被ったまま、人混みの中で立ち竦む。



(アシスの···)



 周りを見れば、彼1人しかアシスの軍人はいないようだ。パパゴロドンとアシスの軍人は何かを話し合っている。レイフの獣耳に、2人の会話は聞こえてきた。



「いたか?例の···」

「いや、いない感じだなー。他の星境局員も探してるけど、見つからないなー」

「妙だな···この惑星に落ちたのは確実なんだ。大きいゴーモだから気づかないはずがないのに」



 男の軍人は悔しそうに顔を歪める。



(パパゴロドンさんは、本当にオレ達を庇ってくれてるんだな)



 会話の内容から、自分達を捜しているのは明白だった。パパゴロドンは自分達を庇い、コナツの機体を隠してくれているのだ。



(父さんの知り合いに見つかって、本当に幸運だったんだ)



 私設軍アシスの目を今のところは、かいくぐれているのだ。一時のことであっても、感謝しなくてはならない。



「引き続き捜索するんだなー」

「アシスからも増援がくる。セプティミア・バーン様の勅命だからな、早く見つけろと」



 バーン家のテゾーロが急かしているからか、アシスの軍人の顔色に焦りがあった。

 レイフは、増援が来る前にガリーナを見つけなくてはならないと思った。捜索する人が多くなれば、こちらが不利である。



(ガリーナちゃん···一体どこに···)



 初めて来た惑星だ。ガリーナだって、惑星ニューカルーは初めてだろう。知り合いもいない土地で、どこに行くというのか。



「そういや、この惑星に来てない父親の方は見つかった感じなのかー?」

「ああ···アシスの他部隊が捜しているようだが、まだのようだ」



 軍人が声を出した時、レイフはホッとした。



 父のイリスも捜索されているが、見つかっていないのだ。



(上手く逃げられてるんだな)



 イリスのことだから、アシスの軍人になど負けはしないだろう。彼ならば、きっとフィトやシャワナにも負けはしない。



(父さんなら···)



 自分と同じ半獣である父のイリス。武器はレーザー銃。反射神経が良く、即座の判断力に長けている軍人。



(父さんなら···?)



 レイフと同じ半獣である父のイリスは、長年の下積みと軍人としての実務のおかげで、強い。



(父さんなら、当然エミュルブトーを倒せる···はず)



 ペスジェーナの倒し方を教えてくれた父のイリス。父のイリスも、きっとエミュルブトーは倒せただろう。



(同じ半獣にできるなら、不可能ってことは···ない)



 エミュルブトーを倒すことは、絶対不可能ではない。

 魔法がなければ不可能ということは――ないのだ。



(パパゴロドンさんは、水をバズーカで弾いて···)



 レイフはエミュルブトーの倒し方を考える。どうしたら彼らを倒せるものなのか。父のイリスだったら、どうやって敵を倒そうとしていたか。



 単純にできないなどと甘えるのではなく、レイフがエミュルブトーのことを考えている時、ふらりとおぼつかない足取りで歩いている人影を見つけた。



 多くの半獣が行き交う中、レイフの目に、明らかにそれは――探していたその人の姿が飛

び込んできたのだ。



 大きく目を見開き、レイフはふらふらとおぼつかない足取りの人影に駆け寄った。


(ガリーナちゃん···っ!!)


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