5 ひと夏の思い出
「楽しい夏の日の思い出・・・」
岩に座ったぼくは、ぼくの膝に座ったユウを抱きしめ、海を見つめてそうつぶやいた。
ぼくの腕の中でユウがささやき返す。
「楽しいひと夏・・・」
「このあとは、ひと秋の思い出・・・。
それから、ひと冬の思い出・・・、ひと春の思い出・・・。
そして、また、ひと夏の思い出・・・」
「ねえ、レイ・・・」
ユウがぼくを見あげている。ぼくはユウを見つめた。
「なに?」
「あたしたち、いつまで、ひと夏の思い出をくりかえすの?」
「そうだね・・・。ぼくらが見つかるまでだと思う・・・」
ぼくはユウから海へ視線を移し、目を細めた。
「見つかるかしら・・・」
ユウも目を細め、柱状節理の断崖の上から、日本海に沈む夕陽を眺めている。
ここは柱状節理で有名な、日本海の名勝だ。
いつだったか、ユウとぼくは、楽しい夏の日をすごし、そのあと、海に沈んだ。
そして、そのまま、今もって見つかっていない・・・。
ぼくとユウは断崖の柱状節理に座り、今日も、過ぎゆく夏の海を見つめている・・・。
(了)