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九 遺伝子組み換え

 未来にやって来るであろう食糧難に備え、植物学者たちは作物の遺伝子組み換えを行い、一個の受精卵が細胞分裂する際に、何個にも分割する特殊な配偶子を作りだした。

 これによって作物は大量の種子や、大量の果実を実らせた。
 いうなれば、植物が、種子や果実の双子や三つ子、そして多数子を実らせるのである。
 これは画期的な遺伝子組み換えだった。


 食糧増産がはじまり、人類はこれらの豊富な食物を食べた。

 すると世界各地で双子や三つ子、多数子が生まれた。
 世界中でいっきに人口が増え、各国が食糧難におちいった。

 多数子が生まれたのは、作物の特殊配偶子を構成する遺伝子の分子構造が、分解されぬまま人に吸収されていためだった。
 植物学者は、食物分子がどの段階まで分解されて人に吸収されるか考えていなかった。


 遺伝子組み換えは、本来あるべき進化の過程、適者生存を早めたに過ぎなかった。

 本来自然淘汰されるであろう進化を人為的に操作したため、人類は、淘汰されるはずの植物を温存させて、みずからを自然淘汰しつつあった。

 ああ、何という皮肉だ・・・。
 草場の陰で、故ダーウインはそう嘆いた。

(了)

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