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新たな仲間

なんでこう、俺の家……いや、ラザトのギルドには風変わりなやつしか訪ねてこないんだか。

「わ、わわ私、タージアと、申します……」ジールの後ろに身体を半分隠したまま、ぺこりと軽く会釈する小柄な人間の女。年齢的にはアスティと同じくらいかな。

見るからに普通の人間……とはちょっと言い難い。何より服装だ。よれよれの緑色のロングコートの下には絵描きのように色とりどりに汚れたエプロン。足元は……というと、店のおばちゃんが履いてそうなサンダルだし。しかも左右の色もカタチも違うし。裸足にこれで寒くねえのか?

とにかく、お世辞にもいい身だしなみとはいえない格好。薄めの茶色の髪はばさばさだし、それにトガリが愛用してるのと同じような、メガネってものを顔にかけていて、表情もいまいちわかりづらいし。

「と、ゆーことであたしからの一生のお願い。彼女をしばらくここのギルドに入れてもらえる? とある事情で職が無くなっちゃったの。ラッシュみたいに」

俺を引き合いに出すな。

でもこのタージアって女、前職はどういうことしてたんだ?

「あ、あの、い、以前はデュノ様のラボで働いてました……けど……」
がくりと首を落とした。めちゃくちゃ分かりやすい性格かも知れないな。

「あの方の許嫁……マティエ様が戻られてからは、ラボの方にもほとんど来なくなってしまいまして……あ、いや。ジールお姉様は職を無くしたと言っておりましたけど、正しくは私の方から辞表を出したんです」

あとでジールから聞いたんだが、彼女はルースと二人で毒薬の調合とかの様々な実験やらなにやらをお城の中でやっていたそうだ。

それが通称【ラボ】。

しかし……ここにもあのむっつり酒乱女の被害者がいたなんてな。俺もその一人だが、あいつがここに来たおかげで生活引っ掻き回されっぱなしだ。
そのうちマティエに対する被害者の会でも作れるんじゃないかと思ってしまうくらい。

「し、しかし彼女が我々の仲間に加わるとしてもですね、どういった働き……というか役割を果たしてもらえるのでしょうか?」
憧れのジールを前にして、やや緊張気味のエッザールがトーン高めの声で尋ねた。

「まあ、見ての通り力仕事も戦うのも駄目なんだけどね。でもこの子はルース同様、身体の仕組みや薬学とか植物の効力なんかにはとっても詳しいの。あたしもしばらくはここに居るから、いい仕事があったらバリバリ使ってちょうだい」

「ジ、ジールお姉様がそばに居てくれるのなら大丈夫です。わわっ、わたし頑張ります!」
拳をぎゅっと握りしめて俺たちにアピールしてくれてるのはいいんだが……相変わらず身体の半分はジールの陰に隠れたまんまだった。大丈夫というか、俺たち別にお前なんて食わねーし。

ンで、結局……
俺はジールに請われるがままに彼女を仲間に入れてしまったワケで。

当の責任者であるラザトは相変わらず日中はどこで歩いて呑んでるんだかは分からないが、まあ……おそらく承諾してくれるだろう。

「ごめんね、あの子ちょっとワケありな過去があって……あたしにしか懐いてくれないし、おまけにラッシュみたいに身だしなみも全然なんだけど。そこんとこ含めて仲間に入れてもらえれば」

だから俺を引き合いに出すんじゃねーっての。

「ワケってなんだ? 一応俺もここの責任者だから聞きたいんだが……」
ジールは「先に言っても構わない?」とタージアにまず耳打ち。彼女は彼女ですごく真剣な顔してるが……よほど言いたくない内容なのか、小さくうなづいた。

ここのギルドだけに留めておいて。と一言。
「タージアね……あの子、ルースに見出されるまでは、育ての親に放っぽられてずっと納屋で生活していたの。だから人と接するのもかなり苦手で……だけどあたしたち獣人ならまだ心を開けられるみたいなんだ」
エッザールも俺もぐっと息を飲んだ。
「女の子同士ならってことで、話し相手とかであたしがときどき世話してあげてさ……以来こうやって懐かれちゃって。まあラッシュとチビみたいな間柄のようなものかな?」

だから俺を引き合いに(略

けど、よくルースがこんな日光にすら全然当たってないような女と出会えたな……
どういった理由があったんだか。

ジールが言うことには、ルースのやつが珍しいキノコの採取してた時に、偶然外で植物と会話してた彼女に出会ったらしい。しかもタージアの方はルースをおもちゃだと思ってたんだとか。
「育ての親ってのがもうその時すでに亡くなってて、彼女……その亡骸に寄り添って暮らしてたの。それを目の当たりにしたルースが引き取って、助手として雇ったってワケ」

ずっとジールは俺のこと引き合いに出してたけど、なるほど。チビと初めて会った時と同じだ。あいつも誰かの死体のとこで泣いてたのを俺が見つけたんだし。

「庭に生えてる植物とかに挨拶したり、話しかけたりするけど、それもあの子の普通な日常なの。これ以外にもいろいろ風変わりな行動とか変なことするかも知れないけど、だからといって仲間はずれにしないでね。根は素直な子なんだから」
俺もエッザールも了承した。こういうのって人それぞれだもんな。

と思った途端、彼女はいきなり俺のとこへ来て、唐突にすんすんと身体中の匂いを嗅ぎはじめたし!
「ああっ! す、すいません……けど、ラッシュさん……」
今度は頬を真っ赤に染めてるし……なんなんだこいつ。匂い確かめたと思ったら今度は赤面しやがって。本気でびびった……
ネネルの時といい、俺ってなんかヤバい匂いでもするのかな?
「すごく落ち着く……いい匂いが、します……ね」

「ラッシュ、風呂したのいつ?」ジールが呆れ顔で聞いてきた。
うん、この前大暴れして以来身体中痛くなってたから……えっと……

全然だな。

つーか今度は目にも留まらぬ速さでエッザールのとこへ行って、目いっぱい顔を近づけてボディチェック始めたし!
当のエッザールはというと……彼女を女性と認識してないのか、いたって冷静そのものだ。

「あ、あの……シャウズの方……ですよね」
「ええ、でもそれがなにか……?」
その時、タージアのメガネの奥が一瞬光ったような感じがした。
「いつか……エッザールさんが死んだら、身体を診させてもらっていいでしょうか。……シャウズの人の筋肉とか、骨格とかとっても珍しいので……どんなものか知りたいんです!」

「え……」その言葉にエッザールの身体が固まった。
こいつ些細なことでしょっちゅう失神とかするな。けど死んだら検体させてって言われるのは確かに驚く。

「おとうたん、あのひとだれ?」食堂が賑わってたのが気になったのか、外で遊んでいたチビとフィンが早速こっちに来た。
「ふわ……きゃぁぁぁあ!」タージアは二人の姿を見るや、飛び退くようにジールの後ろにまた隠れてしまった。
「な、なんなんだよあの姉ちゃん……?」そりゃフィンだって不思議がるわ。

「ああ……悪ぃ。あとでゆっくり説明する」

ネネルを追い出したと思ったら今度は小汚い人間恐怖症の女か……
俺とマティエの一件もまだ全然済まないし、当分忙しさには事欠かなくなりそうだな。

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