<第3話> 一時帰宅! そして、
目の前には見慣れた自室のパソコン。どうやら日本へ帰還できたようだ。
時計を見ると、午後の2時3分だった。
召喚される前、パソコンの電源を入れようとしたのは午後1時過ぎだったはずだ。
(異世界召喚されたものの、実質1時間程しか異世界にいなかったのか。何か複雑な心境……。)
そんなことを考えていると、ふと自分のいでたちに目が行く。
(今更ながら、ジャージ上下にスリッパ姿って、これじゃ高校生に見下されて当然か?)
平日の真昼間にこの恰好ってことは、引き籠りオジサンとか、底辺無職野郎とか、
そう思われていたんだろうな、とネガティブ思考に陥っていると、ふとタマの姿が見えないことに気づいた。
「タマ? どこですか?」
『タマを呼んだかニャン。』
タマがお返事をしてくれたが姿は見えない。
「タマ、姿が見えないけど、もしかして日本では何か制限とかあるの?」
『お外に出られないだけでその他は問題にゃいニャン。』
「お外って、可視化するって意味?」
『そうニャン。』
「そっか、大きな問題がないようで安心したよ。姿を見られないのは残念だけどね。」
タマの状態確認ができたところで、今後のことを考え、身辺整理をすることにした。
(まずは、仕事、は個人FXトレーダーだから……、何の整理も必要ないな。)
サラリーマン時代なら挨拶やら引継ぎやら、大変だったろう。
仕事の整理は必要なかった。
(それじゃ、税金とか、光熱水費とか……、全て銀行引き落としだから、何の整理も必要ないな。)
(家も持ち家だから、何の整理も必要ないな。)
自宅の保持にも何ら問題なかった。
(それじゃ、後は……、独身で家族いないからそっちの心配もないし……。)
(あれ? 身辺整理、必要なくね?)
今後異世界に生活基盤を置くことになるが、元の日本でやっておく必要のあることは特になかった。
(何だ、基本異世界にいたとしても、特に今まで通りでいいんじゃん。)
(何かあったとしても、【ホームポジション】で一時帰宅すればいいんだし。)
異世界に召喚された中年ボッチの身辺整理は、何もせず終了した。