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【逃れる術がない?】

【逃れる術がない?】





 地面に倒れているレイフは、フィトの顔を見つめた。





 無表情の彼、先程の電流の攻撃、家を襲った地震のような衝撃ーーーすべてが結びつく。



「お前···MAかっ!!」



 MAという種族を、レイフは初めて見る。確かに彼が出身だと言っていた惑星レライリスーニャは、MAという種族が住む自治区があると聞いたことがある。



「···そうだ。だからきっと、君の力じゃ俺に適わない」



 フィトは、フードを脱ぎ去った。初めて彼の顔が露わになる。

 銀色の髪を少し伸ばし、三つ編みにしている。紫の瞳は細く、冷たく自分を見つめている。白すぎる肌は、青白く、不健康そうだ。

 白銀の髪に、白い肌はMAという種族で多く見られる特徴だ。あえてフィトは隠していたのだろうーーーMAは戦闘用、軍事用として利用されやすいためだ。



 MAは惑星レライリスーニャの原生生物と地球人を交配させた種族だが、ある特徴がある。MAは、ゼノヴィアシステムに干渉することができるのだ。現時代では子供を作るために母体外で子供を作るのが一般的で、MAは胎児の頃から頭に特殊なチップが植え付けられており、ゼノヴィアシステムの気候システムに干渉し、命令をすることができる。



 雷や炎を起こすこと、重力システムを自在に操れること、地震を起こすこと。ゼノヴィアシステムができることを、その惑星の僅かな範囲内であれば行うことができる。



 魔法が使えると言ったら簡単だが、ようはゼノヴィアシステムを利用して魔法のような現象を起こすことができる種族。



 地球戦争やアクマの起こした戦争で、数が激減していると聞いていたがーーまだ存在したのだ。



 気候を操ることができる種族と、剣で渡り合えるだろうか?



 いくらアクマの剣と言えどーー。



(オレに···できるのか?)



 軍学校で成績も良くないレイフが、軍人としての力を生まれながらにして備えているフィトに太刀打ちできるのか。

 絶望的だと、レイフは思った。



「クォデネンツを渡せ。ガリーナ・ノルシュトレームは連行する」



 フィトが目線をやれば、銃を構えていた軍人の一人が無遠慮にガリーナの肩を掴んだ。地面に崩れ落ちているガリーナはわずかに抵抗しようとする。



(目の前にMA、もう一人はよくわかんねぇツークンフト···銃を構えた軍人)



 この意味がわからない状況を、脱する術が見つからない。例えアクマの剣を所持していても、レイフには何もできない。



(だめなのか···?)



 レイフは絶望的すぎる状況に、吐き気を覚えた。喉元に熱いものがこみ上げ、もう指を動かすことさえだるい。



 せめて、ここに父がいてくれたら、どうにかなっていたのだろうか。



 ガリーナを、守ることができたのだろうか。



「ガリちゃんに触るなよ、ウスノロ共」



 ガリーナに触れようとした軍人の1人が、小さなうめき声をあげると、倒れた。ガリーナは戸惑い、小さく悲鳴を上げる。



 軍人は、銃で撃たれたのだ。急所を外されていたのか殺されてはいないが、痛みに呻いている。





 ーーー誰に、撃たれたのか?その口調を聞いて、レイフはハッとした。



 彼女はずっと、大人しすぎた。母が目の前で壊されたのに、大人しくしていたのは何故なのか?今放たれた言葉で、彼女の気持ちをすぐにレイフは理解できた。



 自分と同じくサクラから産まれたユキは、ずっと無言で居続けるほど、激怒していたのだ。



 ユキは銃口を、フィトに向ける。

 いつものユキの元気さは、消え失せている。強張った顔つきに、吊り上げられている黒い瞳から、相当怒っていることがわかる。



 彼女の銃は、幼い頃に父から譲られたものだ。深い青色の銃の名前は、6JLと呼ばれているものだ。初心者でも触りやすい銃はたくさんあるが、間違いなく6JLは玄人向けだろう。小銃という意味では持ちやすいが、自動補正機能はなく、自分の腕だけで照準を合わせなくてはならない。



 ユキは、そんな銃を幼い頃から使いこなしていた。



「つまんねぇことぐだぐだ喋りやがって···聞いてた耳が腐り落ちるわ」



 普段のユキの様子ではない。しかし弟のレイフにはよくわかる。昔から、ユキはこうだ。

 集中しすぎた時や、怒った時、彼女の口調は荒くなる。



「ハ?なニ、この女」

「気をつけろ。姉の方はトナパ軍でも小隊長を任せられているらしい」

「ハッ?私達はアシスのナンバーワンコンビヨ?田舎の軍人なんかに負けル訳がなイ」



 あきらかに、シャワナは舐めきっているようだった。嘲りの笑みを見せ、威勢よく髪を威嚇するように振り回す。



 硬化した髪に、ユキは銃口を向ける。



「おい!レイフ!ガリちゃんと逃げろ!」

「あ!?」



 ユキの言葉にレイフは苛立ち、つい声を荒げて返事してしまったがーー逃げろだと?



(ガリーナちゃんと逃げる?そんなこと)



「ハッ?させるわけがナイ」



 シャワナは嘲る。

 当たり前である。

 彼女たちは自分たち一家を拘束するつもりなのだ。逃げろとユキが言ったことで、周りの軍人も警戒を強めていた。ユキには警戒しなくてはならないという張り詰めた雰囲気になる。



「だーーーっ!わかんだろ!!コナツだよ!コナツ!」

「ちょっ!!」



 ユキが、自分に向かって銃を撃ってきた。慌てて避けると、青いレーザーが地面を焼く。

 この時代の銃は、銃弾などではない。銃弾などよりもより火力が強いレーザーを搭載している。しかも、6JLは軍支給の銃よりも威力が強い。



(こ、こいつ···避けなかったら当たってた!!)



 ユキはぎろりと自分を睨んでくる。伝われよ馬鹿ーーーと言いたげな目線。



(コナツって···母さんのゴーモか)



 サクラが先程くれた乗車権限と、位置情報を思い出す。ラルが指し示すの、ジャングルの中だった。



 ーーージャングル?



「コナツ?」



 鋭くフィトが反応した。彼は目を瞬かせ、厄介だと言わんばかりに顔を歪ませる。



「コナツが、この惑星トナパにあるのか?」



 フィトは怪訝に言う。彼は、コナツというゴーモの機体を知っているらしい。

 ジャングル、フィトーーその2つと、ユキのいらいらとした鋭い目を見て、レイフはようやく気がついた。





 自分には、まだあれが残されていたのだ。





「ユキ···っ」



 いいのか?と目線を送る。ガリーナの位置を確認しながら、念の為レイフはクォデネンツを握りしめた。



 ニッとユキが笑ったのを見て、レイフは決断した。



 ユキの言うとおり、自分はガリーナを連れて逃げる。ユキ1人を残すとなれば躊躇していたが···そうではないからだ。



「逃がす訳がないだろう!捕えろ!!」



 フィトが叫んだ時、レイフは自らのラルを操作した。

 ーーその時、家の脇に置いてあった檻が壊れ、5匹のペスジェーナが勢いよく飛び出してきた。全長5メートルの大蛇が、突如として現れたように見えた。しかも、その瞬間にユキはレーザー銃でペスジェーナの頭を撃った。



「なっ···」

「なニ!?こいつ···っ」



 フィトとシャワナは動揺し、シャワナに至っては瞬間的に硬化した髪を、ペスジェーナの頭に振り下ろした。がんっという音がし、ペスジェーナも痛みに顔を歪ませるがーーペスジェーナは怒りを覚えたらしい。



 銃で撃たれ、頭も殴りつけられれば、間違いなくペスジェーナの標的は武器を持っているユキやシャワナになる。



 ペスジェーナは大きな威嚇の声をあげる。怒りに満ちた咆哮に、軍人たちはたじろぐ。



「ガリーナちゃん!!」

 レイフはその隙に、ガリーナの手を握り、走り出した。ガリーナは一瞬立ち止まりかける。



「待って!お母さんの部品が···っ!!」



 レイフも、ガリーナの言葉には同感だった。サクラの部品を拾いたい。

 まだ彼女の身体は地面に倒れている。逃げようとしている自分たちは、彼女の亡骸を置いていくというのか。



「···っ!今は、いいからっ!!」



 しかし、命のほうが大事だ。

 せっかくユキがチャンスをくれたのだ。

 無理矢理にレイフはガリーナを引っ張り、サクラの亡骸から引き離す。



「待て!こいつを攻撃するなっ!罠だ!」



 フィトは、ペスジェーナの習性を知っている。ペスジェーナは攻撃されたら仕返しせずにはいられないのだ。シャワナはそんなことを知らず、硬化した髪で戦い、軍人たちもレーザー銃でペスジェーナを攻撃していた。

 フィトが止めようとしても、もう遅い。ペスジェーナは怒りにとぐろを巻き、彼等を威嚇する。





 レイフはガリーナを引っ張り、暗いジャングルの中に飛び込んだ。



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