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動物

 漂着物には様々なモノがある。それでも大半が、それそのものが容量の大きな存在であろう。それ故に、外の世界に溶けてしまう前にハードゥスに到着出来たのだから。
 珍しいものであれば、運が良かったというパターンがある。外の世界では、全ての場所で同じだけ力が周囲に溶けていくわけではない。中には溶けていく量が少ない場所もあり、運が良かったモノはたまたまそういう場所を通ってハードゥスに漂着しているのだった。
 他にも、周囲に同じように流されたモノがあり、そちらから力が流れたことで一時的に周囲の濃度が変わり、難を逃れたという場合もある。
 後は、先程の場合に似ているが、森の中など居て一緒に流された場合か。この場合は、例えば森であれば、森そのものがカプセルとなって、森の中に居て一緒に流された存在が森と一緒に漂着してくることもある。今回はそのパターンであった。
 その世界では、世界の穴に対してほとんど対処出来ていなかったようで、たまたま開いた大きな穴に大規模な森が落ちてしまったらしい。
 そして、外の世界を流れてハードゥスに漂着した。そこまではよかったのだが、今回は何と、森と一緒に動物が多数流れ着いてしまっていた。
 ハードゥスには魔物は存在するが、容量の少ない動物は存在していない。今まで流れてきた森や山などには存在していなかった。森などがカプセルになるといっても、それは確実ではないのだからそれもしょうがない話だろう。
 同様に海でも同じで、魔物化した魚は居ても、普通の魚は存在していない。それが今回、森と一緒に普通の動物が流れ着いたのだった。
「………………さて、どうしたものか」
 それを確認したれいは、どうしたものかと頭を捻る。というのも、動物は魔物と比べて弱すぎるのだ。
「………………他の世界では環境だけではなく、数でもカバーしていたようですね」
 魔物と動物が共存していた世界では、動物はとにかく数が多かった。その分減るのも早かったので、結局は一定数が保たれることになる。
 それに、魔物は人の敵として積極的に狩られていたというのも大きい。おかげで魔物の注意は魔物よりも人に向いていたようだった。
 そういった環境があって初めて動物は生存が出来るのだが、現状では動物の数が少なすぎる。
「………………それに、ハードゥスの環境ではどうせ直ぐに魔物化してしまいますからね」
 ハードゥスは大量の力が通過するのだが、それに動物は長くは耐えられないだろう。そして、耐えられたとしたらそれは魔物化していることになる。
 つまり、動物をハードゥスに放ったところで、食べられるか魔物化するかしか未来がないということだ。
「………………折角ハードゥスでは珍しい動物ですし、何処かに生息域を作ってもいいですね」
 そうして考えたれいだが、力はハードゥス全体に流れ込んでいるので、力が通過していない場所、もしくは少ない場所というのは存在していなかった。
「………………ふむ」
 どうしようかと考えたれいは、動物というハードゥス内では珍しい存在は、漂着物を集めた一角内でのペットのような気がしてくる。
 そう思うと、どうにかして飼えないだろうかとれいは思案していく。
 しばらくそうして思案したところで、一つの答えを導き出す。
「………………結局のところ、ハードゥス内で通過する力に極力影響されないように出来るのは、私以外には存在しないということになりますか」
 とはいえ、れいでも完全に通過する力を防げるわけではない。それでも微量にまで落とせるので、やはりれい以外には不可能だろう。
 そういうわけで、れいは動物を保護してみることにした。そうなると次は飼う場所だろう。
「………………保護区は無理ですし、他の場所となると人や魔物が住んでますからね……かといって既存の森などに放したところで意味がないですし」
 れいがそう考えたところで、一ヵ所だけよさそうな場所を思い出す。
「………………あの巨大建造物を利用すればいいかもしれませんね」
 そう考えたところで、れいは巨大建造物に一瞬で移動する。
「………………さて、後は」
 巨大建造物に力を通過させない強力な結界を張り、力の侵入を阻止する。特に一階部分に限定することで、より強力な結界にしておく。
 次に、島の中に水源を引く。森の中には湧き水を源泉とする川もセットで存在しているので、そちらと接続する予定だ。勿論、魔力が水に溶けすぎないようにするフィルター付きで。
 建物の一階部分のレイアウトを森の設置と動物達の移動がしやすいように変更した後、結界があるとはいえ、何かの拍子に誤って二階に上がらないように、二階へと続く階段は消しておく。海には飛び込まないだろうから、それぐらいでいいだろう。
 そうして準備を終えたところで、一階部分の広い場所に動物ごと森を設置する。川の水源への接続も忘れない。
 建物内の明かりも建物の外とリンクするようにしておけば、気温も問題なさそうだったので後は放置でいいだろう。森ごとなので餌には困らないはずだ。
 その森が流れてきた世界は魔物という存在が居ない場所だったようなので、森の中は穏やかなモノである。鳥の対策に結界の高さをやや高くしておいたが、それでも狭いだろう。巨人用の建物なので高さは在るのだが、鳥相手ではそれでも狭い。
 その辺りは我慢してもらわなければならないが、れいは相手をペット感覚で扱っているので、空間の拡張もやってしまっている。おかげで鳥さえ窮屈ではない空間に仕上がっているから驚きである。
 そうして動物の住まう普通の森が完成した。魔物の住まう森を知っている者からすれば、そこは天国のように穏やかな森になるのだろう。
 ハードゥスではここでしか存在できない動物達だが、元々森の中で一生を過ごすようなので、そこのところも大丈夫そうだった。今後は動物が流れついたらここに放せばいいだろう。もしもそれが魚だった場合は、その時に考えればいい。

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