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青空

「おっ、ようやく目ぇ覚ましたな!」誰の声だ一体。すげえやかましい……って、イーグかこいつ。

俺はいったい何してたんだっけ。
空は一面雲ひとつない。

あ、そうか、確か四人で大量の人獣を相手にしてて、そしたら……

「よかった、どうやら大丈夫そうですね」この声もだ。すごく丁寧な口調……エッザール、か?
なんか、水の底に自分が沈んでいるみたいで、ぼわんとしたものの聞こえ方しかしない。
そのうち今度は、真っ青な視界の隅に包帯姿の、えっと、イーグとエッザールだったよなお前ら。つーかお前らなんでそんなケガしてるんだ?

「なんらぁ、ここ?」しゃべろうにも舌がもつれてうまく話せない。
とりあえず起きあがろうとする……が、思わず叫んでしまうくらいの激痛。
怪我の痛みじゃない。全身だ、骨から肉から全てが動かすとズキズキと痛む。なんなんだこりゃ。
「わかんねーのか……? ここ馬車の上だぞ」
え、馬車……? 誰のだ?
「マシューネの派遣軍の第二陣ですよ」と、エッザールは言う。つまりはこういうことだ。
マティエが「粘れ」と言ったのは、明け方に派遣軍がこの森に到達する。と、そこまで読んでいたワケだ。派遣軍が助けに来るまでの辛抱……しかし第一陣がほぼ壊滅するほどまでの強さと人海戦術を誇った人獣どもだ。とにかく一匹でもいいから数を減らせ。あとはここに着くはずの第二陣がどうにかしてくれるはず……と。マティエもなかなかの策士なんだな。

だが、まだ頭の中でつじつま合わせができない。
なんだろう、一日中寝てたような、このとろんとした感じは。
「もうすぐ俺たちのリオネングに到着するぞ、そしたらラッシュのかーちゃんにも会えるな」
え……?
「なんだ、かーちゃんって……?」
イーグが唐突に発した言葉。
「え、ラッシュうなされてずっと言ってたじゃないか。かーちゃんって。だから……」
俺がそんなことを!? 見たこともない存在なんかに……。
「てっきり、街でラッシュさんの母さんがずっと待っているのかとばかり……」
エッザールも同様だった。イーグはイーグで悪かったと謝る始末だし。もうわけわからん。
そしてとどめはコレだ。
「でもすごかったよなラッシュ。斧の一振りで一気に周りにいた人獣の奴ら吹っ飛ばしちゃうし」
え、なんなんだそりゃ!?
「ですよね。正直もう私たちなんて必要ないほどの無双っぷりでした。けどその圧倒的な力で残りの人獣はほとんど全滅したようなものですし。マシューネ軍の皆さんも感謝してましたよ」
まてまてまて! お前ら2人で俺に芝居してるんじゃねえだろうな!?
確かに俺は疲れ切って意識を失ったこと、それだけは覚えてる。しかし人獣を全滅させるほど大暴れした記憶も、かーちゃんがいるだなんて記憶もないし!

俺は気を失ってからいったい何をしてたんだ……

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