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分離

「そんなあー‼」
 置いてけぼりにされた子供たちは逃げる(すべ)が無くなって、片方が絶望を味わい、もう片方はパニックしていた。一方、ヒロは佐野を呪う。
「あのクソババア!」
「なんで、なんで僕たちがこんな目に・・・」
 セイジが涙声で言った。
「め、めそめそしないで」
 とミズナが彼の手を取ってヤワな握手で握った。
 先程語られた佐野亜花里の言い分について、子供の彼らには全くチンプンカンプンであった。何しろ、AI毬の姓は知らない。だが唯一ハッキリ伝わったのは、彼女の怒りと仲間に対する憎悪であった。
 そこで中年の声がヒロの腕輪から響く。
「み、ミズナちゃん、居るか?」
 するとヒロの手首をつかみ、立体画面をこちらに向かせる。
「おじさん⁈ 大丈夫だった?」
「まだ痛いが、そんなことより、すまんミズナちゃん」
「え?」
「君の両親が亡くなったのは・・・本当は知ってたんだ」
「何?」
「君を調べた時に見ちゃったんだ」
「え⁇」
「君にどうしても言えなくて、言える勇気がなくて・・・最後まで言えなくて、悪かった」
 余りにもの罪悪感で、中年の表現力が崩れそうであった。
「そんなことは、どうでもいいーっ」
 と娘が脆弱な声で彼の気持ちを振り払った。なぜなら許しを乞われる時ではない。
「だから、これだけを言って置きたかった」
 自己満足だ。
「もう切るからっ!」
「ミズナちゃ・・・」
 腕輪の立体画面を手で払い除けて、彼女は通話を強制的に終了させる。そして早速KY8000に問う。
「後何分?」
「爆発まで後6分ッス」
「他の脱出ポッドは無いの?」
 体が弱った反面、彼女は冷静を取り戻しつつあった。
「あるけどここから遠いッス」
「は、走るから・・・」
「ヤ、全力疾走しても間に合わないッス。あと・・・」
 と補助AI、娘の頭の天辺から足の先まで確かめると、次のように話す・・・
「見たところ、走る力がほとんど残ってないじゃないッスカネ?」
「お兄さん! お願い、何とかしてよ!」
 と子供一同が彼に懇願する。
「そうッスネェ。強いて言えば、近道が無くもないッス。小柄な君らにしか通れない近道ね」
「早く教えて!」
「下のレベルにまだ脱出してないポッドがあるッス。この換気口に入れば、下まで行けるはずッス」
 すると、無鉄砲なヒロは直ぐに行動に移る。植民の灰色上履きで換気口を何回も強く蹴って、早くも金網を突き破る。
「ほら皆、早く‼」
 と彼が残りの二人を急かせて、先にセイジを中へを通らせる。
「ほらミズナ、ここだぞ」
 次に彼女を通らせる。
 ミズナが窮屈で冷たい風管(ふうかん)を通ってみると、目先に90度で真下に曲がる角が見えてくる。その角を自分の柔らかい関節と柔軟な体で通ると、勢いよく下のレベレまで落ちてしまう。
「あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁー」
 トンと大きな音で風管の金属を響かせて、少女の尻が転落の衝撃を吸収した。そしてセイジの手助けで換気口から出られる。
「はぁ、はぁ、有り難うセイジ」
 お陰で、彼女はパッと目を覚ましていた。
 上の階では・・・
「次はお前ッス。早く行って、爆発まで後4分を切ったッス」
「おお!」
 全員が下の階で集合すると、青年が彼らを急かす。
「時間が無いッス、ポッドはこっちッス」
 長い通路を全力で走ると、ついにポッドに辿(たど)り着く。
「最後のポッドッスヨ。ホログラムはその中に立体できないんで、先にお前ら野郎だけで早く入って、着席ッスヨ」
 救命艇の中では、立体光線を放射する装置は無く、どうやら青年はここまでのようであった。そして男子を先に行かせて、補助AIが彼女のほうへ振り返る。
「ここで説明してあげるッス。ミズナ、君に説明するから、よく聞け」
 青年はなぜか、他の二人よりも、少女のほうが次の任務に適任だと判断した。彼は恐らく、彼女の正体、大人のマリであることを知っていたかもしれない。
「はい」
「中へ入ったら先ずは黄色いボタンで二重扉を閉じるッス。後は赤いボタンのカバーを開けて、ボタンを回しながら強く押してやるッス。カウントダウンの秒読みが始まったら、必ず着席して安全ベルトを締めることッス。分かったッスカ?」
「え、あ、えっと、うーうん!」
 と少女は、勢いよく首を横に振った。明らかに慌てているミズナにもう一度、今度はふざけた口調を止めて、身振り手振りを使ってでも理解させる。
「だからさ、黄色いボタンを押す! そして赤いボタンを、回しながら、押す! 最後に着席と安全ベルト! 分かった⁈」
「はい! 分かりました!」
「爆発まで後3分! 早く行けえええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ‼」
 子供三人がポッドの中に入っていた。少女は先程の説明を小声で繰り返す。
「黄色いボタン、黄色いボタン、あ、これだ!」
 彼女がボタンを押すと内側と外側のドアがバターンと閉まる。
「ミズナちゃん、早く!」
「静かにしろ‼ お前らは席に着け!」
 と少女が元の調子に戻って、邪魔虫の二人を黙らせた。
「赤いボタン、赤いボタン、あ、これだ!」
 彼女がカバーを開く。
「回しながら・・・押すっ!」
 すると、ポッド内の灯りが赤く光り始め、秒読みも開始する。
「緊急脱出まで後十秒、九、八・・・」
「ミズナ! 着席着席!」
「五、四、三・・・」
 少女が着席し終えてベルトもしっかり締める。
「二、一」
 ドーン! と爆発ボルトが一斉に爆破して、ポッドを宇宙船の船体から分離させる。

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