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危険

「KY8000君? 結果は?」
「メッチャヤベェ、ヤ、マジヤベェ」
「ですから! 結果を言ってくれる?」
 佐野が我慢の限界であった。するとホログラムが苛立(いらだ)っている彼女に逆切れしてしまう。
「オイ、テメェ! なんでウラン原子炉なの⁈ なんで未だにウラン原子炉を最新の宇宙船に搭載してんの⁈ バカなの⁈ ネェ、なんでよ‼」
「どういう話ですか? 原子力エンジンがどうかしたんですか?」
「『どうかしたんですか』ジャネェヨ‼ もう臨界点を突破しちゃったんだよ‼」
「何‼ 何故だ⁈」
「だからさ! 記録によると、数時間前の流星物質衝突の影響で核分裂連鎖反応が狂ちゃって制御が効かなくなった」
 それを聞いて佐野航法士がふらふらする。
「ぜ、絶望的だ」
「だからなんで、なんで2088年の未だにウラン原子炉を使ってんだよ! トリウム原子炉なら爆発しなくて済むのに、トリウムならずっと安全なのに!」
「KY8000、爆発までの時間は?」
 と草木が尋ねた。
「あーあ、爆発まで後27分しかないッス」
 と彼が棒読みでもなく怒った話し方でもない、元通りのチャラ口調に戻った。
「核弾頭の威力までは行かないッスケド、仮に爆発の衝撃をやり過ごしても、さっきの流星で船体が穴だらけジャン? だからさぁ、構造への損傷が更に悪化して真空状態の区域が増えてしまうわけッス。それでもまだ生き残ったヤツがいたなら、しばらく経って放射線が残り生存者をきっと全滅させる。と俺は思うッス」
 佐野はまだショックを受けていて座り込んでいた。一方、草木は希望に(すが)り付く。
「理解した。解決策はあるのか?」
「正直、無いッス。もう少し早く俺を繋げていたなら、緊急炉心冷却装置を何とか作動できたかもしれん。が、今は無理ッスネ」
 それでもいざ絶望的な状況になっても、中年は逆に冷静を保った。
「了解。投棄装置は? 原子力エンジンを丸ごと宇宙に投げ捨てることはできるか?」
「あぁ、いい考えッスネェ。だがね、あいにくそういう装置は無いッス。以外と造船したときケチったもんッスネェ」
「オーケーオーケー・・・よし分かった」
 とまた何かいい考えを思いついたかのような口調で、中年は次のように結論に至る。
「よし! 船を脱出しよう」
「え⁇」
 と一同が驚く。一方AIは賛成する。
「そうッスネェ、それしかないッスネェ」
 中年は佐野を助け起こす。
「佐野さん、船を脱出する他に道はない」
 佐野が溜息(ためいき)をつく。
「船長がここに居てくれさえすれば、きっとこんなことにはならなかった」
 それを聞いて、ミズナは彼女に不安げに一瞥(いちべつ)を送る。一方KY8000が案内役を務める。
「脱出ポッドまで案内してあげるんで、取り敢えず早くここを出るッス」
 佐野が驚く。
「脱出ポッドですか⁇ 大気圏突入シャトルは使わないのですか⁈」
「爆発まで後25分07秒ッスヨ? 真空状態の区域を避けながら格納庫まで辿(たど)り着くのに、約21分15秒の移動時間が予想されるッス。残り3分52秒でシャトルを発進させることは不可能ッス。例えプリフライトを無視して急いで発進しても、爆発範囲から充分に離れることは無理ッス」
 プリフライト・チェックとは飛行前点検のことを指す。
 チャラ口調でそこまで正確な時刻を語られては可笑しく聞こえた。
「何を言ってんですか! シャトルのほうが移動範囲や搭載物資が(はる)か上なのに!」
「そりゃそうッスヨ。揚陸の為のシャトルッスカラネ。でもハッキリ言って、自殺行為ッス。もう計算済みだから、AIの俺を信じてはどうッスカネ?」」
「他の皆は?」
「大丈夫ッス。ちゃんと植民をそれぞれのポッドに案内するから」
 すると、彼がうるさい緊急脱出命令を発令して、人差し指で天井にあるスピーカーを指す。
「ほらね、皆を無事脱出させてやるから、大丈夫ッス」
 と、非常灯の光で赤く染まったホログラムが自身を見せた。
 すると佐野の腕輪が鳴って、ブリッジからの連絡がくる。皆と離れて彼女が応答する。
「こちら佐野、AI毬サーバー管理室にいる」
「こちらブリッジ、佐野、脱出命令を出したのは誰だ⁇ 補助AIは繋げてないのか?」
「田守、ちゃんと繋げたよ。そのAIこそが脱出命令を発令したのよ」
「え⁈ そのAI、また欠陥品なの⁈」
「違う。原子力エンジンが先程臨界点を突破して、もうここを脱出しかないの」
「何と! 大変だ! どうしよう。我々がAIなしじゃここまで盲目だったとはね・・・」
「そうね。だからポッドに乗って他の皆と脱出してくれ。私はこちらの近くのポッドで脱出するので」
「分かった、死ぬんじゃないよ、佐野!」
「うん、田守こそ」
 通信が終わると、佐野が皆と合流してAIに道を案内させる。
「じゃ、早く行きましょう」
「一番近い脱出ポッドはこっちッス!」
 と、ホログラムは走り出す。

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