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プンスコミリー

「おなしゃす! フローラ様! 何卒もふもふ様にモフらせてくれるようお口添えを!」

「ベル?」

「何でしょう!?」

「お祖父様にチクる件……」

「決して口に出しません!」

「……は、自分で言うわね」

「……はぇ?」

「言いたければ言っても良いし、言わなくても自分で言うわ」

「え、ま、ちょ、それって……?」

「あんたが私に対するカードは何もないってこと」

「嫌ぁああああ!? ちょ、おまっ、許すまじぇんっ!?」

「がぁっっ!!」

 逆上してフローラに飛び掛かろうとしたベルは、あえなくガイアに虎パンチされるのだった。

(いやいやいや、虎パンチって! 吹っ飛んでったからね!?)
「ちょま、ガイアストップ! 冗談! 冗談だから! ね? ベル!? 生きてる!?」

「……ごふっ。……うえ、へへ、へ。もふも、ふ、様、の、ぱん……(ガクッ)」

「あれぇ? 結構余裕なのぉ?」

「馬鹿言ってないで、すぐに治療しませんと!」

「あ、はい。やります」

 ミリーが発狂しそうだったので、喪女さんはすぐベルを回復させるのだった。回復したベルはぼーっとしていたが、獲物を付け狙う視線で時折ガイアを見つめるのだった。

「やっぱり大丈夫なんじゃないの……?」

「もふもふ……」

「悪化してるだけですわ……。それより、ガイア、さん?」

「がう?」

「……やっぱり言葉は分かりますのね」

「がう」

「貴女が怪我をした理由、分かっておいでですの?」

「がう」

「そう……父の部隊が済みません」

「(ふるふる)」

「許してくれるんですの?」

「がう」

「有難う御座います」

 こうしてエッシャー男爵のしでかした事件は、心無い喪女と、心優しいミリーによって、水に流されるのだった。

(しでかしたって言葉のチョイスが酷いわ。それに、おうこら? 誰が心無いんだ)

 ガイアにセクハラしまくってたじゃん? モラハラも。

(こんにゃろぉ、微妙に否定できねえ!)
「あ、でもガイア? あんたなんで演習に巻き込まれたの?」

「………………」

「動けない理由があったの?」

「がう」

「どんな理由?」

「………………」

「喋れないと無理な位に複雑な事?」

「………………」

「てことは単純だけど伝えにくいのか。何かから逃げてるなら巻き込まれないよね、そもそも動いてるんだし。動けないんだから囚われてた? それとも守ってる?」

「ぐるっ、ぐるっ、がうっ」

「何かを守ってたのね? あんた雌だから子供とか?」

「もふちゃいるど!?」

 何そのワード……。

(どこぞの富豪か? 耳に残るわぁ……)

「ぐるっ」

「違うのね」

「もふちゃろす……」

 何その人の名前みたいなのは……。

(あんたもいちいち反応すんじゃないの。ただでさえ耳に残るのに、二度焼きみたいに言うから頭に残っちゃうでしょうが。つか、どっちも人の名前かよ)
「じゃあ、何か場所でも守ってたの?」

「がうっ」

「遺跡? 場所? お墓?」

「ぐるっ、ぐるっ、がうっ」

「お墓なのね。……ね? 誰か聖獣がお墓守るってお話に心当たりある人居る?」

「「「「「(ふるふる)」」」」」

 ベルや男爵含めて全滅であった。

(うーん、乙女様に調べてもらおうか? ねえノーコン、あんたちょっといって伝えてきてくれない?)

 いやっぷー。

(心のノートにあんたへの折檻を追加しておいたわ)

 え? 何その不穏なノート……。

(まだかなまだかなー。りっくんは、魔王だまだかなー)

 よくそんな古いCM知ってんな?

(え? なんかそういうCMあったの?)

 年齢詐称は良くないと思います。

(してねえよ!?)

「あ、あの!?」

「あによ? ベル、何か用なの?」

「後生ですのでもふもふ様をモフらせて下さい!」

「ガイア、一応紹介しておくわね。こちらの3人は私の親友。余程嫌な事でもない限り、仲良くしてね」

「がうっ」

「あちらがエッシャー男爵。知らぬ事とはいえ、墓を守ってた貴女を怪我させちゃった人だけど、このミリーのお父さんだから許してあげてね」

「がうっ」

「あ、あはは……ありが、とう」

「どうしても腹に据えかねたら腕か足をひとかじり位に抑えてね」

「がうっ」

「ひぅ!?」

「……冗談ですよ?」

「がう〜?」

 喪女さんの真似をして、一緒になって男爵に冗談アピールするガイア。この虎、割とあざと可愛い。

「あ、あはは、はぁ……」

「で、アレは……」

 喪女さんが視線の先に、無駄に期待でキラキラしてるベルを見据える。

「(キラキラキラ)」

「覚えなくて良いわ」

「がうっ」

「フローラ様ぁ!?」

 そしてバッサリ切った。

「あんた本当に侍女として振る舞えるの?」

「がんばります! 何でもします! 靴でもけつのあ……」

「言わせねえよ!? 何言おうとしてんだこらぁ!?」

 残念。言わせたら面白かったのに。

(心のノートにケツバット追加)

 おいこらぁ!? しかも何気にケツ絡みとかやるなぁおい!?

「はぁ、しょうがない。こいつが全然私を敬わない、ダメ過ぎる侍女のベルベッタことベルよ。嫌かも知れないけど、時々モフらせてあげて?」

「フローラ様ぁ!」

「が……がう〜」

「そうねぇ、不安よねぇ? あんたの好き勝手にモフらせたら不安もあるし、ガイアも嫌がるかも知れないから、今日の所はブラッシングだけって事で。良いわよね?」

「大好物で御座います! 何時でも、もふっしんぐできるよう、マイブラシも携帯しております故!」

「うわぁ……」
(もふっしんぐって何さ)

 新語製造機だな……。
 この後、汚れてた頃のガイアが過ごしていた檻のある部屋に戻り、喪女さんが綺麗に檻を水洗いして乾かした。その後、ガイアとベルだけが檻に入って、漸くもふっしんぐタイムがやってきたのだった。

「もふもふ様〜ぁ、も〜ふもふさ〜ま〜」

「ぐるぅ……?」

 珍妙な鼻歌交じりでもふっしんぐするベルに、ガイアは困惑気味だがブラッシング自体は嫌いでは無いようで、何とも言えない表情をしている。

(気の張った状態でマッサージされてもリラックスできない、みたいな? 後でこっそりブラッシングしてあげよう。にしても何処かの風呂屋が幻視できそうな鼻歌ね……)


 ………
 ……
 …


「フローラ」

「ん? なぁに?」

「その……白虎、いえガイアの事、感謝致しますわ」

「いえいえ、良いのよ気にしないでー」

「で・も! ソレとフローラが危ないことをなさるのとは、全くの別問題ですわ!」

(あれぇ?)
「いや、でもね? 私は……」

「フローラは、私が猛獣の檻の中に無防備に入って行ったらどうしますの!?」

「絶対止める」

「それは何故!? ですの!?」

「危ないから」

「もしかしたらフローラの知らない事で、その猛獣には襲われない何か理由があるかも知れませんわ!」

「それでも止める」

「……私の事ならそこまで言い切りますのに、それが自分に置き換わった場合、私達がどのように思うのか少しは思い至ってくださいませ!」

「あー、えっとぉ……御免ね?」

「嫌ですわ! 暫く許しませんわ!」

「ミリー?」

「そ、そんな猫なで声出しても、ゆ、許しませんわ!」

 喪女なでごえ……喪女ナンデ怖えぇ!?

(お前は絶許)
「じゃ、許してもらえるまで、ぎゅーしてる」

「ふにゃああああ!?」

 喪女のおばさんホールドが! 素直で可憐な乙女を襲う!

(てめこのやろ、言い方ぁ!?)

 そしておばさんが他の二人を「おいでおいで」と邪道へと誘う!

(心のノートに毛毟りを追加)

 何処の毛ですか!? もしかしてけ

(頭だよこんちくしょうが!)

 それはそれで鬼か、お前は。

(ノーコンなんて放っといて、一気呵成に)
「ぎゅー」

「ここここんなことくくくくくら……(プシュー)」

「フローラってばもう。そうやって有耶無耶にして逃げようとする」

「悪いけど、今回はミリーを支持するわよ?」

 ベティ・メイリアはミリーを支持した!

「えー?」

「ミリーの言葉、否定できるの? 反省はしてる?」

「え、えーと。済みません。次はもうしないとは約束できないけど、配慮はします」

「(がばっ!)またやる気ですの!?」

 ミリーが再起動!

「え、えーと。私思うより先に行動しちゃうんだよねぇ。だから確約はできない……です」

「むー! フローラの……ばかぁ!」

 ミリーは振り解こうとした! しかし、喪女馬鹿力でピクリともしない!

(それ、もしかしなくても一石二鳥な貶し方してるんじゃないの? あんた……)

「なんて馬鹿力ですの!?」

「ごーめーんーってばー」

「それが謝ってる態度ですの!? ああもう! 離して下さいまし!」

「ミリーったらー」

「はーなーしーてー!」

 なお、この攻防は夕食の時間になるまで続くのだった。

(ミリーが頑固だった)

 一度ついたら離れない。地獄の子泣き婆、喪女である。

(心のノートに顔面打破追加)

 おいぃぃぃ!?

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