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第9話 王女様の帰還ですね

広志が去った後、イリヤ王女の護衛を拝命していた王家騎士男副団長のランスは、すぐに動き出していた。



何があったのかは全く分からないが、助かったことは間違いない。

姫様も無事で、怪我もされていないようだ。

林の中から、数人の部下が出てきた。

皆酷い怪我をしている。
20人近くいた部下で、なんとか動けた者は数人だ。

残念ながら騎士団長は無残な亡き骸となっていた。

よく姫様をお守り出来たものだ。

姫様に付いている神様の加護かもしれないな。本当に感謝する。

「さてと。」

ランスは生きている部下達を労う。

幸いなことに、魔法騎士2人と馬が1頭生きていた。

魔法騎士は、魔力を使い切っていたが、数時間もあれば回復して、治療にあたれるはずだ。

「ミロス。疲れているところ悪いが、少し休憩したら馬に乗って王城に走ってくれるか?」

「承知致しました。早速行って参ります。」

息が整うとすぐにミロスは、馬を走らせて王城に向かった。

これで数時間もすれば、救援が来るだろう。

「姫様、しばらくご不自由をお掛けしますが、今しばらくお待ち下さいますよう。」

動揺から立ち直り、馬車の荷物を整理する侍女と談笑出来るくらいにまで、姫様は落ち着いておられる。

まるで、この不可解な現象の一部始終を知っているかのような落ち着きぶりである。

侍女の気丈さも、姫様のおかげかもしれないな。

それから死者を集めたり、炊き出しを食べたりしているうちに、魔法騎士の魔力も回復して、動けるものは総勢10人となった。

シルバーウルフの群れに囲まれてこれだけの生存者がいるのは、奇跡と言うしかないだろう。

一通り作業が終わり、ひと息ついた頃、ミロスが大隊を引き連れて戻って来た。




「姫様よくもご無事で、本当に良うございました。

爺は心配致しましたぞ。

おい、ランス。良く姫様をお守りした。

今回の件、お前は我がストラスト家の誇りじゃ。」



この爺さんは、俺の実の爺さんで、フライス・デ・ストラスト。

先先代の王家騎士団長にして、引退してからも国に大きな影響力を持っている。

ちなみに、イリヤ王女の教育係でもある。

「ランス、ゴルドーは、残念なことだったが、立派に姫様をお守りしたのが唯一の救いじゃのう。

さあ、遺体は後ろの馬車へ。
お前ら、彼等は姫様を、国の宝を命を張ってお守りした英雄達じゃ。丁重にな。

よし、姫様出発致しましょう。

ランス、先頭で露払いだ。」

爺さんの従者が持って来てくれた馬に跨がり、俺は列の先頭に入って、王都までの道を急いだのだった。





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あの方はいったいどちら様だったのでしょうか?

シルバーウルフに襲われ風前の灯であったはずなのに、一瞬であのシルバーウルフの群れを葬ったお方。

姿を見ることは叶いませんでしたが、私達と同じ人間であることは間違いないと思います。

でも、魔法師団長の隠蔽魔法でも見破れる私の鑑定能力でも分からなかったなんて。

今までそんなことは有り得ませんでした。

でもひとつだけ分かっています。

彼の温かく謙虚な物腰は、私をときめかせるのに充分だったということ。

一瞬、私達は目が合ったと思います。
なんとなくですけどね。

だけどその時に私に入ってきた、優しい感じ。

あれだけの功績を挙げながら、なんら求めることなく立ち去ったことからも彼の人柄を感じずにはいられません。

気配から考えて彼は王都に向かったに違いありません。

なんとしても彼を探し出し、御礼を言わなければ。

「姫様出発しましょう。」

フライス爺の掛け声で私達は再び王都に向かって動き出しました。


数時間後、私達は無事に王都に帰って来ました。

未だ見ぬあの方の気配を懸命に探します。

城門をくぐって馬車はゆっくり進みます。

街の皆んなも私達の無事を喜んでくれています。

少し進んだところで、微かにではありますが、あの方の気配がしたような気がしました。

馬車を降りて探しに行きたいところですが、今はどう考えても無理ですね。

あの方が街から去らないことを願って、後日探しにいきましょう。








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