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第7話 結構儲かるものですね

腹が減っては戦は出来ぬ、とはよく言ったものだ。

大量に収納してある草や虫を食べる気にはならず、犬っころも俺の倫理観からは食べにくい。

でも腹が減っているのは事実であり、俺の運ポイントは腹の音に合わせて地味に上がっている。

運ポイントが上がっているということは、命の危険性があるということ。

そろそろまともな食事をしないことには、餓死してしまうかも。


何件かの食堂は見つけたが、俺はお金を持っていない。

何とかお金を工面しないと。

そう思っていると、毛皮の絵が描かれている看板を見つけた。

冒険者らしき人達が何かの毛皮を持ち込んでいるところを見ると、毛皮の買取もしてくれるようだ。

俺は路地の陰に移動し、誰もいないことを確認する。

「気配遮断解除」

俺は収納から犬っころを一匹だして、気配遮断結界を解除する。

そして何事もなかったような顔をして、毛皮屋に入った。

「へい、いらっしゃい。おっ、お客さん新顔だね。毛皮を売りに来たのかい?」

「ええ、森で捕まえた犬なんですが買い取ってくれますか?」

「森ってことは魔物かい?状態によるけど買い取るよ。」

「これなんですけど。」

俺は犬っころを引っ張ってカウンターに持って行った。

「ほう、ってこれシルバーウルフじゃねえか!

しかも傷ひとつねえ。いや、この頭の傷が致命傷か。脳を一発で仕留めていやがる。

そして、今狩ってきたばかりのように血まで新鮮だぜ。

これ兄さんが仕留めたのかい?」

「ええ、こんな犬っころでも買って頂けますか?」

「犬っころってお前さん、当り前だよ。こんな上物、この王都広しといえど、ついお目にかかったこたあねえぜ。

良し、20万いや40万ギル出そう。その代わり、また狩れたら必ず俺のところに持ってきてくれよな。」

40万ギルがどのくらいの価値かわからないが、口振りからかなりの高額だと読み取れた。

「わかりました。40万ギルでお願いします。」

「ありがてえ。じゃあこれ40万ギルな。俺の名はスタイロンだ、また頼んだぜ。」

俺は金貨40枚を受け取り、店を出た。

「とりあえずこれで飯は食えそうだ。」

俺は近くの食堂に駆けて行った。




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近頃の冒険者はほんとになって無いぜ。

手間ばっかり掛かって大した売値にならない弱い魔物ばっかり狩って来やがって。

しかも処理の仕方も満足に知らねえから、使えねえ部位が多すぎるんだよ。

俺が毛皮屋を始めた頃はなあ、って昔話を愚痴ってしまうじゃねえか。

さっき来た3人組もホーンラビットを3匹持って来たんだが、毛は焼け焦げが付いている上に刀傷が多いし、肝心の角なんて欠けちまっている。

本来ならこんな傷物買いたくねえんだが、元冒険者の俺としては、後輩の面倒を見る必要もあるし、しょうがないから引き取ってやった。

そしたら言うに事欠いて「安すぎる」だの「ぼったくり」だの悪態ばっかり付きやがる。

ギルマスのホールドに文句の一つも言ってやらねえと気が済まねえぜ。まったく。

キャリーン。

ドアベルが鳴り、ひとりの少年が顔を見せた。

貧弱な体つきに汚い貫頭衣を被ったその少年は魔物を売りたいという。

冒険者にも見えないが、その謙虚な姿勢は、先程の虚勢だけの冒険者よりははるかに好感が持て、話しを聞いてやる気になった。

俺の許可を得た少年は本当にうれしそうな顔を見せ、ドアの外から獲物を引っ張ってきた。

おっ、思ったより大きいぞ。

全貌を現わしたその獲物に俺は動揺を隠せなかった。

シルバーウルフである。

単独でもB級魔物に指定されるこの魔物は単独で狩るには、それほど難しくはない。
ただ群れで行動することがほとんどで、この場合A級魔物、つまり災害級となるのだ。

シルバーウルフの毛皮は人気があり、肉も美味い。血は加工すると滋養強壮の薬として高値で取引される。

ただ、凶暴で瞬発力もあるため、綺麗な状態で持ち込まれることは非常にまれだ。

たいていの場合、コート1枚分の皮を取ろうとすると、10匹以上必要となる。

しかし、持ち込まれたシルバーウルフはまるで生きているように綺麗な姿であった。

以前こんな感じで綺麗な状態のものを見たことがあるが、それはA級魔法師のクスロが氷漬けにして持ってきたものだ。

それでも動きを止めるために付いた細かな傷は残っていた。

しかし、今この少年が持ち込んだそれは、傷が全く見当たらない。凍ってもいないのだ。

そのまま捌けば、全ての毛皮が採れるため通常に納品されるシルバーウルフの15頭分にはなるだろう。

こんなことが可能なのか。

俺は慎重に品定めをする。すると頭の裏側、毛に隠れた部分に5ミリ程度の小さな傷と焼け焦げを見つけた。

つまり極短距離からこの場所をめがけてなんらかの神通力を使ったに違いない。

いや最近じゃ魔法とか言ったな。

一瞬で脳を焼き切ったため、筋肉の硬直も無く、眠っているような感じで死んでいるのだ。

傷口を押してみると血が少し溢れてきた。

その血を救って匂いを嗅いでみる。

まったく臭みがなく、固まってもいない。数分前に狩ったような新鮮さである。

この貧相な少年は少なくとも雷か火とそれと収納の魔法を使いこなせていることになる。

恐るべきことだ。A級魔術師のクスロでさえできるかどうかわからない領域だ。

少年の顔をガン見すると、少年は控えめに引き取って頂けますかと言うじゃねえか。

もしかすると名のある隠遁者の弟子か何かかも知れない。

もしそうであれば常識はなさそうなので、ぼった喰っても気付かないだろう。

でも俺はそんなことはしない。それよりも相場よりも高く買い取って、ウチの専属にしてしまった方が利が大きいだろう。

商人の打算と言われればその通りだが、俺の元冒険者としての感がこの少年の大いなる未来を想像させたのだ。

シルバーウルフ単体で40万ギルは高すぎるかも知れないが、喜んでいる少年の顔を見るとそんなことはどうでもよかった。

「また売りに来ますね。」少年の明るい笑みに心が和み、店を出ていくのを気持ちよく見送った。


....しまった。名前を聞くのを忘れちまった。




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