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薬神と万能薬

 病気というのはある日突然罹るもので、それが流行り病と化すこともある。
 ハードゥスにもそういった病は多い。いや、様々な世界から色々なモノが流れ着いているので、他の世界よりも多いのかもしれない。
 同様に医学も色々と伝来してはいるが、中にはハードゥス独自の病に変じることもあって中々に対処が難しい。あまりにも酷い場合は、れいが誰かしらを派遣して治療薬などを伝えたりしてはいるが。
 その役目に就くのは、大抵ネメシスかエイビスなので、二人を薬神扱いしている場所は多い。
 そういった経緯があり、薬学だけではなく魔法でもどうにか出来ないかと研究が進み、実はハードゥスでは魔法に関して、戦闘関連よりも医学方面の方が若干発展速度が速い。
 そういうわけで、ネメシスとエイビスは薬神として人々からの信仰が厚い。主座教以外では、ネメシスかエイビスもしくは両方が主神になっていることも多いので、れいとしても二人は重宝している。
 二人にはれいがしっかりと言い含めているので、主神扱いをされていても今のところ目立った騒ぎには発展していない。
 さて、医学が薬や魔法の両面から発展した影響は、迷宮攻略にも及んでいる。そういった医療は病気や怪我や解毒などに対するものなので、迷宮内でも重宝しているらしい。
 需要があって発展もしているだけに、傷薬などの値段はそこそこ安価であった。国からも補助を出すなどして、益々の発展が望まれている。
 そんな状況なので、れいは迷宮の中に薬草が良く出る迷宮を混在させたり、森の中の薬草が多少育ちやすくしたりもしている。もっともそれを知る者は居ないが、それで問題ない。
 後はれいが手を貸さなくとも疫病などを治せるようになれば言うことはないだろう。
「………………」
 れいは手元の薬草を見ながらそう思う。その薬草はとある世界から流れ着いたモノで、少々処分に困っていた。
「………………万病を癒す薬の素。手っ取り早いとは思いますが、そんな都合がいいモノを創造する管理者もどうかと思いますね」
 その薬草だけでそんな都合のいい薬が作れるわけではないが、その根幹を成す重要な素材ではあった。
 それはその世界でも希少品ではあるが、それでもそれは確かに存在していて、もしも栽培方法が確立されてしまったら、医療は確実に死ぬことだろう。なにせ、万病を癒す薬さえあれば全てが解決してしまうのだから。
 そんな都合がいいモノをれいはハードゥスに植えるつもりはない。人々が努力して発展していく姿こそ、れいにとっては価値があるのだから。
「………………しかし、折角流れ着いたモノをこのまま破棄するのは勿体ない気もしますね」
 流れ着いたモノは極力配置するのがれいの方針なので、薬草の処分は躊躇われてしまう。なので少し考えてみると、問題は広まることなので、それさえ防止出来ればそれでいいような気がしてくる。ではどうするかだが。
「………………あまり手は加えたくないですが、万能薬にしておいて、迷宮の奥にでも置いておきましょうか」
 そう考えたが、それがどんな薬か分からなければ意味がない。なのでもう少し手っ取り早くと考えると、ネメシスとエイビスに持たせて各国に持っていかせてもいいかと考える。
「………………しかし、流れ着いた薬草は少数。これでは、人が水薬を入れている標準瓶で五本分ぐらいにしかなりませんね」
 その五本を何処に届けるか、というのが問題になる。主要国の中から五ヵ国選んだとしても、それは争いの種になりかねない。であれば、それはれいの望んだ結果とずれてしまう。
「………………こうなれば、何かあった際に持っていかせられるように、万能薬はしばらく溜めておいた方がよさそうですね」
 しばらく思案したれいは、そうすることにした。今は数は少ないが、また薬草が流れ着いたとしても調合して保管しておけばいいのだから。
「………………水薬ではなく錠剤にしたりして、薬効はそのままに個数を増やしてもいいのですが……それは止めておきましょう」
 れいは別の調剤方法も知っていたが、面倒なので初歩的な万能薬の作り方でいいかと思い直したのだった。

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