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ベルの受難

 専攻課程の始まったフローラ達はそれぞれ分かれて授業を受ける事が多くなっていた。そう、フローラはあの変態と過ごす時間が増えたのだ。友達と居るよりずっと……。

(事実なんだけどマジでやめて?)

 ダメよと言われてやめる俺かしら?

(ダメっつってねえ、ヤメロっつってんだ)

 イヤよぉ〜イヤイヤァン。

(あれぇ? どっかで聞いたフレーズだなぁ……てか、止める気ナッシンなのね)

 モチのロンでさぁ。

(……りっくん、早く帰ってこないかなぁ)

 殺意を沸騰させている喪女さんだったが、この場には例の人物が付いてきていた。

「何で私がこんな所に……」

「断もふもふ1ヶ月とかの方が良かったかしら?」

「あんた私を殺す気!?」

「ええ……? それ程なの……?」

 マジで、えぇ……? って奴だな。禁断症状じゃねえの?

(本気でそう思う。私の周りってこんなのばっかりなのかしら?)

 そうかもね。そして今日も今日とて例の変態が……あれ?

(何よ。不安にさせようったっ……あれ?)

 俺達が不思議に思ったのは変態の見た目である。ハトラー邸に乗り込んできた時も先日の訓練時も、髪型は角刈りで後ろ髪が長いっていう、若干パンクな髪型だったのだが……

「あらぁん! (ばさっ)ふ・ろ・お・ら様ぁん☆ この娘が例の子、かしらぁ?」

「ぎゃああああ!? 変態!?」

「あらやだ♪ 本当の事言っちゃってぇ……照れる、わはぁんっ(ビキビキ)」

「ポージングすんじゃねえよ! 変態野郎!」

 わぁ良い反応。しかし俺達はそのドレッドヘアーに目が釘付け。

「あんたその髪どうしたの?」

「んんっふ! どぅお? 似合ってる(ビシッ)かしらぁ?」

「正直どっちでも良いくらい、あんたのキャラがキツイ」

「ああん……もうっ☆ そんなこと言われたら……(ハァハァ)」

「ちょ! フローラ! あんたこんな変態の所に私を連れて来てどうするつもりだったの!?」

「簡単にポロリするその口の罰として、こいつとの地獄のマラソンをやってもらうことにするわ」

「は? ……はぁ!?」

「あ、変態、そいつ逃げたら容赦しなくて良いから」

「分かったわ。ああっつい、抱擁してあげれば良いのねぇん」

「良くねえ!? ヤメロこら! もふもふ以外のお触りはノーセンキューなんだこらぁ!!」

「じゃ、始めるわねぇ。いつも通り緩く追いかける私に捕まったら、抱擁ねぇん!」

「聞・け・よ! ってああ!? 止めろ寄んな近づくなぁ!?」

 こうして地獄のマラソンが始まるのだった。


 ………
 ……
 …


「ぜぇぜぇぜぇぜぇぜぇ……」

「ぜぇはぁぜぇはぁ……」

 真っ青な顔でひっくり返って息を荒げるベルと、慣れてきたのか割と余裕の有りそうな喪女さん。

(ベルが良くやらかした分、ペースがゆっくりだったからね)

 良かったな。そしてベルは……色々やってくれたなぁ。一周割と速いペースで回ってきたと思ったら、変態が反対方向に居るタイミングで演習場から逃げようとしやがった。そして演習場から一歩外に出た瞬間、変態に捕まって大絶叫。そしてガッチリと抱擁されたまま一周、変態の腕の中で回ったのだった。

(凄い悲鳴だったね)

 しかし変態は『あらぁん! 新しい、責・め・ねぇん☆ 斬っ新!』とか言って全く堪えてなかった。

(耳って鍛えようが無いと思うんだけど、どういう構造してんのかしらあの変態)

 そのお陰と言って良いのか何なのかベルは叫ぶのを止めて、色々諦めきった顔で1周引き連れられた。そして1周終わると『うぅっん? なんか諦めちゃってる感じがするわねぇ。走らなくても良いけど、次捕まえたら、ちゅー☆ してあげるわぁん♪』と言われて全力で走り始めたな。3周目でまた捕まって絶叫してたけど。

(あの変態の分厚い唇が、ベルの顔半分を埋めた時には心底同情した)

 流石にか。んでこれ以上エスカレートされて堪るかとばかりに、次捕まった時は喪女さんばりに抵抗してたな。無駄だったけど。

(2度、3度となると、悲鳴も弱々しくなっちゃってたわね。途中騎士の誰かが、悲鳴を気にしてか見に来てたけど、原因がアレと分かると一目散に逃げてったわね)

 ここが誰のためにあてがわれてるか知ってれば、わざわざ見に来るひつようもなかっただろうにね。

(報告しに行ったって線も無くはな……あ)

「サブ。女性の悲鳴が聞こえると報告があり来てみたが、どういう事か?」

「あらぁん? ダリアン様? なぁんでこんな所にぃ?」

「質問を質問で返すな。答えろ、どういう事か?」

 何か厳しい顔したおっさんがやってきた。

(わぁ、皇家直属の親衛隊隊長さんだ)

 知ってるのかライ○ン。

(俺様ディレクの攻略には何回か出てきてるのよ。っつーか、その元ネタは、あそこの変態に似てるのがたくさん出てるからちょっと今はパス)

 そういえば聞いたことがある。皇家は一人一人、独立した部隊を護衛に持つと。

(なんでボイルドエッグに行ったし?)

 いや、物知りキャラっつーと、だいたい濃い方が出てるから対抗?

(何故対抗したし……)

「うっふぅん♪ この娘はね、4大家から口止めされてるようなことを、サラッと口にしちゃうような子らしいのよぉん☆ だからその教育として私に預けられたのぉ。ね? フローラ様」

「ええそうです。ちなみに私と一緒にでなければ連れて来ません」

「……女性の悲鳴が聞こえたというのは?」

「地獄のマラソンでコレに捕まった時のものですね」

 喪女さんがそう言うと、ダリアン隊長はあからさまに嫌そうな顔をした。

(知ってらっしゃるのね)
「なので、ダリアン様が気になさるようなことは何もありません」

「だが万が一があった場合……」

「その時はそこの変態は責任を持って地獄に送ります」

「あはぁっん! なんて熱烈な愛の告白っ♪」

「その妄想に満ちた物言いをやめねえと今すぐ地獄みせんぞてめえ」

「……っ!?」

 おいおい、隊長さんビビらせてどうする。

(別に接点無いしどうでも良い)

 おま……酷い奴だよ全く。そして結局隊長さんは、ヘルプアイを超飛ばしまくるベルを置き去りに、くれぐれも問題だけは起こしてくれるなと、口酸っぱく言うだけで去っていった。ベルの絶望の表情と言ったらもう……。

(ご飯何杯分?)

 3杯は行ける……って何言わせるねん。

(あんたも大概……あいや、元から酷かったわね)

 よせやい。照れるじゃないか。

(あの変態がいるからそのネタは心の底より拒否します。一応聞くけど、あの変態と同じ立ち位置で良いのね?)

 あ、それは勘弁。……くっ、俺としたことがorz

(あんたたまに抜けてるよねぇ)

「……そろそろ何か私に掛けるべき言葉があるんじゃないの?」

「あ、そうね。掛けるべきは水ね」

 ザバァッッ!

「あっ! ぶあぁ! ゲホッゴホ! いきなりなにさらしてくれとんじゃぁ!?」

「え? あの変態の涎つけたままにしておきたかったの? ごめんごめん。今呼ぶから待ってて」

「え!? あ!? ちょ!! 待った!!」

「え? なぁに?」

「いや、涎は要らない……って言うか」

「え? だって涎塗れが可哀想と思ったから水掛けたのに、怒られたわけじゃない?」

「うっぐ……!」

「涎、要るんでしょう? 水、要らなかったんでしょう?」

「……洗い流して頂き有難う御座いました」

「宜しい」

「くっそー……せめてもふもふでもないとやってらんないわ。ん? あれ? もふもふ何処行っ……!?」

「ん? どうしたのベル……って、は?」

 二人の視線の先には、もふもふに超懐かれてる変態の図が……。

「あらぁん? フローラ様はともかく、貴女も復活してたのねぇん☆ ん? なぁに? どぉしたのぉん?」

「も、もふもふ……」

「ああ、この子ぉ? さっき貴女を捕まえた時かしら? 私の頭に飛び移ってきてからそのままになってるわね♪ 何か気に入られちゃったみたい」

「もふもふ! カムバーック!」

「きゅ?」

 何故あそこを気に入ったんだろう?

(今日はドレッドだから居心地良いのかしらね? ……あ、良いこと思いついた)
「ねえ変態、そのもふもふってこの娘のお気に入りなんだけど、あんたに預けることにするわ」

「ぬぁんだとぉぅう!?」

「で、こいつが真面目に訓練受けたら会わせてあげてくれれば良いわ」

「ま、待て、待って!? 何でそんな事しなきゃならないのよ!?」

「あんたが何時まで経っても侍女らしくないのと、いっこうに私の言うこと聞かないからかな?」

「聞く! 聞きます! だからもふもふから離すのだけはどうか!」

「いや、普通に訓練に参加すれば良いだけでしょ?」

「こんな変態に捕まえられたり舐められたりするのはイヤぁ!!」

「ベル?」

「何よ!!」

「罰だっつってんでしょうが! コレは決定事項なの!」

「嫌ぁあああああああ!!」

「面白い娘ねぇん♪ はい☆ もふもふよぉん?」

「きゅっ」

「もっふもーふ!!」

 ……もふもふが何かやばい薬のような存在になってますが?

(……私もコレは何か、まずい気がしなくもない)

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