2
今日は、十回目の結婚記念日。
工藤亜紀になって、大地の奥さんになって、丸十年。
今までも毎年結婚記念日はお祝いしてきたけれど、今年はやっぱり特別だ。
十年という節目を迎えることが出来た今日は、今までのどの記念日よりもなんだか嬉しかった。
私たちの出会いは、運命的なものを感じるようなドラマティックなものではなかったかもしれない。
どちらかといえば、至って普通にだった。
私“間宮亜紀”と夫である工藤大地が出会ったのは、今から十三年前。
新栄製薬の入社式でだった。
同期入社したのは私と大地以外にも他に十人の男女がいたけれど、思い返してみればあれこそが運命だったのか。
私たちは数ある部署の中でも同じ部署に配属されたことをきっかけに、他の同期たちよりも比較的早く距離が縮まっていったような気がする。
営業部第二課という同性よりも男性が多く、外回りの多い部署に配属されたことが不安だった当時の私は、初対面から気さくに話しかけてくれた大地に助けられる部分がたくさんあった。
初めて交わした言葉は、入社式の後のごく普通の自己紹介。
「工藤大地です、よろしくお願いします」
「間宮亜紀です、こちらこそ、よろしくお願いします」
その時の大地の第一印象は、背が高くてスーツが似合う、とにかくスタイルの良い人、という感じで。
一目見て、何かスポーツをしていたんだろうなと勝手に想像が膨らんだ。
がっしりした肩幅に、服を着ていてもわかる鍛えられた腕。無駄な贅肉など少しもなさそうな身体は男らしくて格好良かった。
「あの…そういえば聞いてみたかったんですけど、工藤君って身長何センチなんですか?」
「え?あ…183センチですけど」
「183!?やっぱりそれくらいあるんですね、ずっと高いなぁと思ってて」
同期として出会い、同じスタートラインに立った私たちは、入社後すぐに始まった新人研修の最中、仕事とは全く無関係な話をコソコソと話していた。
「間宮さんも、結構高くない?何センチあるの?」
「あぁ…私は173です。女のくせにデカイでしょ?ちょっとコンプレックスなんです」
「何でコンプレックスなの?」
「何でって…嫌じゃないですか?大きい女って」
「え?何で嫌なの?俺は好きだけどな、背が高い女の人」
背が高いことが、昔からずっとコンプレックスだった私にとって、大地が返してくれたその言葉はただ素直に嬉しかった。
気を遣って言ってくれただけかもしれない。
そうでも言わないと…と、空気を読むように言葉を選んでくれたのかもしれない。
でも、それでも。
その言葉は、私の胸の中にスーッと溶けるように温かく広がっていった。