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第8話~アイシスはどこだ~

 俺は早速あの男から奪った透明化のスキルを使用して扉を開いた。ワザと騒々しく開き、そして音が響くように強めに閉める。そうするとやはり入り口の前に立っていた見張りがこちらを見に来た。
 俺は男を避けて入り口の方へ行き、彼に背を向けたままで透明化を解除して足音を立てた。するとその音に気づいた男はこちらを振り向いて

「おいインウント。うるせえぞ!」

 と俺をあの男と勘違いして苦情を飛ばしてきた。しかし俺は再び透明化スキルを使用してなるべく音を立てずにその場を離れた。後ろから「一体どういうつもりだてめえ!」と怒鳴り声が聞こえてきたがそれを無視して行く。これであの男が彼女の部屋を生きて出たと印象付けることができるだろう。

 俺はまず5階から4階に降りた。ここが居住スペースとしては最上階のようだが、通路には誰も出ていないようだ。4階の個室の中からは声が聞こえるので少なくとも誰かこの階に居るのは間違いないようだが今は特に用はない。

 次は3階に降りる。この階に研究棟への渡り廊下が設けられているはずだ。俺は研究棟がある方向へ歩みを進めた。3階も4階とほとんど変わり映えのしない内装だが4階よりも多少部屋数が増えている。そして当然渡り廊下へ繋がる扉が設けられていた。
 渡り廊下へ通じる扉は両側に2人の能力者が見張り番として立っていた。さすがにここは固めているようだ。透明化スキルは当然すり抜けなどできないので扉を開くしかないが、しっかり閉めている扉が勝手に開いたらどう考えても不自然だ。

 さてどうしたものかと考えを巡らしていた時、ふとアイシスのことを思い出した。彼女もこの居住棟から研究棟へ渡ったのならどうやってここを抜けたのかと。今のところアイシスが見つかった様子はなかった。もし見つかっていたのならもう少し騒がしくても良いはずだ。

 そうとなれば俺は階段を上って4階に戻った。そして3階なら渡り廊下に繋がっているという方向に足を進めるとそこには小さな木製の窓が取り付けられていた。窓は室外の方に押し上げていくように開く物のようだが、窓の下部中央と建物側を繋いで窓を開けっぱなしで固定する棒が無くなってしまっていた。
 そして窓枠の経年変化によって出来た少し尖った部分に衣類の切れ端のような物が残っていた。これは能力者が着ている服のようだ。アイシスは能力者の服を着ることに強い抵抗感を示していたが、潜入となれば話は別で妹のために無理を押して着用したのだろう。こんな所から渡り廊下に降りようとする者など普通ではない。ここに住むものなら普通に扉を通ればいいのだ。そういう訳でおそらくアイシスがここを通ったと考え、俺もこの進路を取ることにした。

 俺は一度後ろを振り向いた。瞬間移動や透明化、筋力強化といった身体に作用するスキルは同時に使用することができないという制約があるようなのだ。筋力強化スキルをしようしたままテレポートしようとした時うまくいかなかった。
 毒手のように先に毒物を生成してから筋力強化して相手に打ち込むという使い方なら一度限りなら使える。当然新たに毒物をスキルで生成するには身体作用系のスキルを解除しなくてはいけないが。
 そして今は透明化スキルを使っている。テレポートするには透明化を一度解除する必要があるため誰も居ないことを確認したかった。
 誰も居ないことを確認してから窓の下を覗き込んでテレポート、渡り廊下側のドアの前に降り立った。そしてすかさず透明化スキルを発動。これで誰にも見られなかったはずだ。

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