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第6話~異常事態~

 俺は研究所に降り立った。今は特に大きな騒ぎにはなっていない様子に思えるが、アイシスの潜入はうまくいっているのか、既に制圧されてからかなり時間が経っていて落ち着きを取り戻し始めているのか。
 彼女が出てから一体どれくらいの時間が経ったのかも分からないのでそこからは判断ができず、そして建物外部からも全く伺い知れない。
 周囲の警戒をしながら進んでいく。塀の内部は森の木は全て伐採されているようだが、除草の方はかなり適当で草は生えっぱなしだった。だがこの草の地面が荒れていない所を見ると建物外部での戦闘は起こっていない様子だ。

 外部では能力者や研究所の研究者の姿は見えない。地図に書かれていた渡り廊下の方角を考えるに俺の左手側の建物が研究棟、右手側が居住棟だろう。
 彼女が見つかっているのなら居住棟の警戒は厳重になっていそうだが、どこまで潜入したかにもよるが結局のところ研究棟が重要なので警戒は厚くなるだろう。俺はそう考えておそらく彼女も取ったであろうルート、居住棟から研究棟に渡るルートを取ることに決めた。

 俺は居住棟の入り口が見える位置にある茂みに身を隠して居住棟の様子を窺う。居住棟の入り口には見張りがいない。そしてここからは研究所本来の入り口である正門が見える。門は閉じられており、研究所内部の側には見張りが居ないらしい。
 様子を窺っている時、居住棟内部から2人の男が出てきた。単眼鏡でその男たちを見ると、スキルは筋力強化のスキル。正門の方へ行くところを見るに見張りを交代する為か。正門の脇には詰所らしき建物も建っている。

「おい!なんだこれは!お前、報告に行け!」
「おう!」

 俺はあの2人をやりすごして詰所から交代が出てくるかどうかを窺っていたのだが、詰所のドアを開けた2人は中の様子を見て叫び声を上げた。
 何なのかは分からないが、とにかく異常事態が起きていることは分かる。ここで騒ぎが起これば目がこちらに向いて潜入しやすくはなるかもしれないが、警戒が強化されてしまうか?

 俺は騒ぎを起こさないように奴らを始末してしまう方を選択。出てきた1人の男を俺が居る茂みへスキルで引き寄せ、持ってきていた剣で首を斬り落とした。筋力強化のスキルはまだ持っていないが、前のように暴れられては困る。特にこんな場所で暴れられては誰かに見つかる可能性が高くなる。
 それに筋力強化はもう1人居る。俺は詰所に入って状況を確認している奴の始末とスキル略取を企図し、詰所の方へ素早く移動する。詰所のドアは閉まっている。正面から戦えばフィジカルで完全に劣っている俺に勝ち目は無い。だが先制攻撃が決まればこちらの勝ちだ。

 俺は扉の前に立って、音を立てないようにしながら扉を触る。扉は木製のようだが相当硬そうで、俺の手刀で扉を貫けたとしてもヤツの身体までは届かない可能性が高い。そうなれば先制できても致命傷にはならない。
 やはり直接ヤツの身体をブチ抜いてやるしかない。そうなれば中の奴を外におびき出す必要がある。俺はまず居住棟の窓を確認。今外を見ている者は居ないようだ。今から行うことは明らかに不自然な行動となるので、目撃されないことを祈る。

「おい!おい!居住棟の方に来てくれ!」

 俺は詰所の扉をドンドンと叩きながら中に居る男を呼ぶ。中に居る奴は今異常事態で冷静で居られないはずで、扉を開けて入ってくればいいのにとかそんな思考も吹き飛んでのこのこと出てくるだろう。
 扉を叩いた後は詰所脇に移動してヤツの視界から身を隠して様子を窺う。ガチャリと音が聞こえて、立て付けが悪いのかギィィィという音がこちらまで聞こえてきた。そして男はかなり乱雑に開けたようで扉の取っ手が詰所の外壁にぶつかって大きな音が響いた。

「あ?一体何だってんだ!誰も居ねえじゃねえか。」

 男が地面を踏み鳴らす音といら立ち交じりの声が聞こえる。誰も居ないことを不審に感じている様子だが、男は居住棟の方へ歩き始める。俺は足音を聞いてそれを確認して詰所の脇から顔を出して男の動きを確認しテレポートする。
 普通に移動しても忍び寄れたとは思うが、こちらの方が確実で時間も早い。俺は後ろからヤツの腹を貫く。すぐに始末してもいいがこの男にも聞きたいことがある。麻痺毒を打ち込んだが筋力強化のスキルのお陰かすぐには効かず、男は逃げようとしたものの抵抗は弱々しかった。
 こうして動けなくなった男を引きずって、詰所の中にまで引きずり込んだ。

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