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リセット

「であるならば、バモン。……おい、バモン! しっかりせんか!」

「………………っ!? は、はい!」

「バモン、この時を持ってグラジアス家はフローラ嬢との、一切のわだかまりを全て解消することとする。お前が彼女とどうなりたいかは知らんが、もしフローラ嬢を欲するならば、己が力で射止めてみよ!」

「……はい!」

「え? そ、そんなあっさり?」

チラッとメアラの様子を伺うフローラだったが、メアラは何か考え込んでいて反応がない。そしてゼオルグの威圧も消えていった!

「色々と質問攻めにして済まなかったな、フローラ嬢。もし我々にできることがあれば何でも言ってくれ。できる限りのことはすると約束しよう」

「いやぁ、得には……って、あ! ありました! 一つ!」

「何だ?」

「バモン君とメイリアの色々も解消して上げて下さい!」

「「!?」」

「メイリア嬢? ……ああ、そうか。君はシュトーレン家の」

過去の色々を思い出した長女姉様は、メイリアへと歩み寄っていく。

「メイリア嬢。グラジアス家の監督不行届が原因で怪我を負わせて申し訳なかった」

「あいっ、いいえっ、滅相も、ない、ですっ」

「本来迷惑を掛けたこちらとしては、何時でも貴女を迎える用意がある。……が、今しがたフローラ嬢と話し合って分からされた。男女の事は当事者同士で決めるのが一番だ、とな」

「……っ!」

「もしメイリア嬢がバモンを憎からず思っているなら、どうか貴女方でその思いを育んでいって欲しい」

「は、はい!」

長女姉様は満足そうに頷くと、さらにメイリアとの距離を詰め、その耳元で囁いた。

「(メイリア嬢は脈アリのようだから言うが、アレが欲しければ何時でも言ってくれ。無理矢理にでも娶らせるよってな。暗黙の婚約を無かったことにはしたものの、我等は君を好意的に思っている故)」

「(ボンツ)」

真っ赤になるメイリアだったが、バモンの目に触れないような位置取りで長女姉様が振り返る。

「バモン、お前のしがらみはこれで全て消え去っただろう? もう下らぬ事をグダグダ考えて歩みを止めるのは終わらせ、好きなように恋をしろ!」

「そ、それは即答できかねます!」

「おやおや、さっきの今でまだ仮面をかぶったままか? それで良いのか?」

「ぜ、善処します!」

あ、この答えは多分無理なやつだな。

(別に無理しなくても良いと思うんだけどねー)

と、駄目ン女様が申しております。

(あれ!? ここへ来て、何でまたその呼称が復活するの!?)

「フローラ嬢、我々はゼオルグ殿達と話がある故、ここで失礼する」

「分かりました。ごゆっくりどうぞ」
(正直助かった!)

そして場は自然と保護者ーず、女子ーず、男子ーずに分かれていく。


………
……



そして始まりました、保護者会。

「押しかけて済まなかったな、ゼオルグ殿」

「おいおい、ここは儂の家だぞ? 何故ゼオルグが優先されるのだ」

「すべき話が婚約ともなれば、まずはゼオルグ殿に諮るべきであろう?」

「そうですよ義父上。流石にそれは譲れません」

「ぬぅ」

「しかしフローラ嬢は何と言うか……こう、少し老成していると言うか」

「確かにぃ……ちょぉっとばかり、聞き分けが良すぎるというかぁ、貴族だからこその諦めぇ? みたいなのものがあるわよねぇ。そりゃあ貴族だものぉ、そういう心構えがぁ、あるに越したことはないけどぉ、早過ぎなぁい?」

「そうですね。やはり大病を患ってからでしょうか? 昨春、この家に挨拶に来た時にも感じましたが、フローラに違いないのだけど、ねぇ? 貴方……」

「そうじゃな。学院の始まる前に少しばかり挨拶にきおった時、儂らはもっと引き留めるつもりじゃった。甘やかせろ! とな。しかし、他にも親族に甘えたい子が居るのに私ばかり優遇される訳にはいかない、と断られてしもうたのぉ」

「(ボソッ)『昏睡病』」

「やはり少なからず性格が変わると言うのは、間違いでは無かったようですわね」

「ステラ様、それでも、彼女はフローラに間違いないですわ」

「あら、メアラちゃん。もう元気でたの?」

「げ、元気が無かったわけではありませんわ……。驚き過ぎただけで……。でも流石ステラ様の娘だと、私は感心致しましたわ。あんなに怖い私を何度も見せてしまった後なのに……」

「そうだな。オランジェ女史の話を聞いた後だと、余計にそう感じてしまうな……。
時にゼオルグ殿? 聞いても良いかな?」

「何でしょう?」

「……貴方の話し方に違和感を覚えるのだが、私の気の所為だろうか?」

「はっ、違和感を覚えて当然よ。こやつ、うなされておった娘の病が漸く癒え、さぁ目を覚まさんとした正にその時、飛びかからん勢いで近寄り号泣してな。『暑苦しい』と言われてより『爽やか父様』を演じておるのよ」

「酷いではないですか義父上!?」

「酷くないわい。フローラも言っておったろう? 仮面を被ってるやつは好かんと。お主そのままだと本気で嫌われるぞ?」

「………………」

「そう言えばぁ? 近々別格貴族家の方々がぁ、『昏睡病』の罹患者を集めるとかぁ」

「(コクリ)」

流れをぶった切る3女姉様。すげえ、鉄の心臓だな。そして4女姉様は可愛い。

「ふむ、そこの小っこいのは疫学関係の名家に嫁いだのだったか?」

「(ドヤァ)」

「夫婦仲はどうだ」

「(ポッ)」

「一番上の姉繋がりの縁とは言え、お前達は良い伴侶を持てたようだな。善きかな善きかな。
昏睡病については、もし何か分かればこちらにも情報共有してもらえると有り難いの」

「(ぐっ)」

「うむうむ」

やめろと言われたのに、夫婦仲に言及するお祖父様。爺、後ろ後ろー。母娘ペアの視線が冷え切ってますよー! ……まいっか。
とにかくこうして保護者会は、ガーンとばかりに固まったままのゼオルグを置き去りにして、話が進んでいくのだった。


………
……



一方男子会。

「やぁ、流石色々壊してくれるね、フローラ嬢は」

「ええ、そうですね」

「はっ、妙に嬉しそうだねぇ、君。これで公然と口説けるって感じかい?」

「そんな生易しいものじゃありませんよ。何せまったく気にも留められて居ないのですから」

「頬を緩ませながら言うセリフじゃないねぇ……」

「お互いスタートラインですか」

「え? 同じスタートラインだと思ってるの? 君は自分の立ち位置を分かってないと思うけどなぁ?」

「分かってますよ」

「フローラ嬢のみならず、他のクラスメート達にもあの情け無い姿を晒せるの? って話なんだけど?」

「………………」

バモンは蹲った! マリオの口撃は致命傷を与えたようだ!

「まぁ、君はメイリア嬢の事もあるだろう?」

「……そうですね。良い機会なのでゆっくり考えたいと思います」

「あの子はあの子で競争率が高いと思うけどね」

「ええ、知ってますよ。魅力的なこと位……」

「他の女子にうつつを抜かすくせに?」

「………………」

「君が僕と同じスタートラインに立っているというのは、色々な点でおこがましいと思うのだけどね」

フフン、と笑うマリオにバモンは言い返す言葉を持たなかった。
あれだな。男子会は何時も面白くないな……。


………
……



最後に女子会。

「もう、フローラったら。私を巻き込むなんて……」

「ごめんごめん。でもスッキリしたでしょ?」

「それにしたって強引過ぎるわよ」

「それより驚いたのはバミーの仮面の話」

「確かに驚きましたわ……マリオ様のは分かり易かったですが、バモン様までとは」

「色には出ないことだから……私も知らなかった」

「私だってアレが無ければそうは思わなかったわよ? 皆も蹴ってみれば分かるかも?」

「「「絶対しない」」ですわ」

「えー?」

「なんで疑問が帰ってくるんですの……」

「ミリー、諦めて。フローラだから仕方ない」

「もう……ベティったら酷いー。メイリアー慰めてー」

「えっと、えっと………………(ニッコリ)」

「無言の笑顔が返された! ……もしかして処置なしってこと!?」

「そうは言ってはないよ!? ……ちょっとは思ったけど」

「思われてたぁ!」

「フローラだもん」

「フローラですものね」

「今日は皆の連携が冴えてるね!?」

やーい、仲間外れー。

(外されてないよ!? ……多分)

胸を張って言えんのかい。

(ぐぬぬ……)
「えっと……私と皆の間には、見えない壁があったり?」

「?? 何ですの? それ、ぇえ!?」

いきなり抱きついてきたフローラに、ミリーは避けることが出来なった!

「何なんですのぉ!?」

「ほんとだ、壁はなかった。思う存分くっつける。ぎゅー」

「ふえええ!?」

ミリーは混乱した。
ベティは様子を見ている。メイリアも様子を見ている。
ベティは逃げ出した! メイリアも逃げ出した! しかしフローラに回り込まれてしまった!

「つーかまーえたっ」

「ちょっ……」「またなの!?」

「いえすうぃーどぅー」

問答無用のハーレムクイーン喪女さんだった。……つか、無理やり巻き込んどいてWeはねえだろう。

(てっへぺろー)

オエッ

(流石にそれは酷くない!?)

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