バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第5話~怒りの発露~

「そろそろか……?」
「さあ?」

 地図を持ってくるように指示した男がもうすぐあの場所に戻ってくる頃か?だが時計は持っていないので自分たちの感覚で判断するしかないが、俺もアイシスも正確な時間など分かりようがない。
 だが迎えに行く時間が遅れて死なれでもしたら困るので、俺はテレポーテーションで再びヤツを放置した場所へ飛ぶことにした。

 まだヤツは来ていないようだ。まだ正確な時間までは掴めていないがそろそろ毒を中和してやらないと本当に死んでしまう。ヤツが死のうがどうでもいいが地図は必要だ。俺は茂みに身を隠しながら研究所への道を観察し続けた。
 するとその道を走る人影が見えた。俺は単眼鏡を覗いてみると、見覚えのある顔、そしてスキルが引き寄せ。間違いない。しっかりと戻ってきたようだ。
 だがヤツが仲間を引き連れて戻ってきたかもしれない。俺は注意深くヤツの後ろを観察するが、追いかけてきている者はおらず、何者かが隠れている様子も無い。

「よお。ご苦労さん。」
「い、言われた通りに地図は持ってきた。」
「よし、それじゃあ場所を変えるぞ。」

 相当疲れたのか地面に倒れて動けない様子の男に軽く声を掛ける。服が綺麗になっている。どうやら着替えたらしいが、その新しい服に何者かの血痕が付いている。研究所内で殺しでもやらかしたのか?
 だがちゃんと地図は持ってきたようで、懐から地図を取り出そうとしたが俺はそれを静止し、再び2人でテレポーテーションし、アイシスの元へ戻った。

「それじゃあ地図を出してもらおうか?」
「わ、分かった。これだ。」

 改めて俺は男に地図を出すよう言うと、ヤツは懐から地図を取り出す。俺はそれを受け取って地図の内容を見始める。アイシスも俺の隣に来て一緒に地図を見る。

「なるほど、このような感じになってるのか。」
「な、なあ。早く中和してくれ。死にたくねえよ。」
「分かった分かった。待ってろ。」
「グアアアアアアアアッ。」
「望み通り毒は中和されたはずだ。」

 俺はヤツが持ってきた1枚の地図を見て、新たに得たスキルの完全記憶で全てを記憶していく。そうしていると地図を持ってきたその男が毒の中和を懇願する。
 相当苦しくなってきているようで息が荒くなり始めている。俺は男の懇願を聞いてやることにし、地図をアイシスに渡してヤツに近づいて肩に指を差し込んだ。

「よか……お、おい!身体が動かねえぞ!どういうことだ!」
「お前、地図はこの1つだけか?」
「あ、ああ……。」
「てめえ!俺をナメてんのか?デタラメ抜かしてんじゃねえぞ。」

 俺は毒を中和すると同時に麻痺毒を打ち込んだ。身体を動かせないことに憤慨して激怒する男だが頭に来ているのはこっちだ。俺は確認のために地図は1枚だけかと尋ねる。するとさっきまで怒っていたのに急に大人しくなった。
 随分と分かりやすい男だがそれでも嘘をつく、図太いのか小心者なのかよく分からない男だ。俺は頭に来て恫喝しながらヤツの腹に蹴りを入れる。

「俺はしばらく研究所で暮らしてたがこんな構造じゃなかったはずだ。大嘘言いやがって。」
「あ、あぁ……。」

 俺のスキルは俺が初めて発露させたスキルだった故に検証のため、他の無能者のようにすぐ廃棄されたわけではなかった。そのため研究所の構造を少しは知っていた。だがヤツの持ってきた地図は明らかに違う。これは研究所ではなく住居のようだ。
 俺は何度か男の腹に蹴りを入れると咳き込み始める。その咳は血が混じっており、どうやら内臓のどこかに傷が入ったらしい。

「も、申し訳ありません。じ、時間が無く研究棟を調べられませんでした。」
「知るか!」
「も、もう一度、今度は絶対やりますからァァァァァッ。」

 何度も何度も蹴りを入れてやると観念して任務を遂行できなかったことを白状する男。
 もう一度機会を与えてくれれば次は研究棟の地図を見つけられますと言って必死に命乞いを始めるが、この男の身体は既にボロボロ、俺の使う興奮作用のある毒でも最早誤魔化しきれないほどになっている。
 ヤツが満足に動けるようになるまではしばらくかかるだろうが、それを治るまで待ってやるほどお人よしではないし、手駒はどうせまた来るんだ。別にこの男に拘る必要は無い。

「待たせて悪かったな。あとは好きにして構わない。」
「そう。じゃあ私の好きにさせてもらうから。」
「お、おい!な、何を。や、やめっ。」

 使えなくなった駒はもういらない。ずっとこの男に憎悪の眼差しを向け続けていたアイシスに待たせて悪かったと謝ってから、あとはこの男を好きにしてくれて構わないと男を託した。
 俺の言葉を聞いたアイシスは歓喜と狂気とそして物悲しさも漂わせる目をしながら男の足を持って引きずって行く。

 彼女と出会ってこの方、感情が動いたような様子をほとんど見せていなかったが、こと憎悪の対象に対しては激しく感情が動く。
 彼女は男の足を引きずっている間、まるで壊れたかのように笑い始める。彼女の声は非常に美しい。だが彼女の笑い声は闇の奥底に巣食う魔物のように不気味で底知れない悪意が感じられた。

 男は引きずられている間俺の方に顔を向けていた。この男も彼女の底知れない憎悪を感じている。そして自分の運命を悟っただろう。だが諦めきれず俺に助けを懇願する。しかし俺はヤツを助けてやる気など無い。そして

「お楽しみに~。」

 俺はそう言ってヤツを見送った。

しおり