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フローレンシアの母、ステラ

「それにしても何故メアラ嬢がステラに懐いておるのだ?」

「な、懐いてなんか……」

「あらぁ? 違うのかしら?」

「え、あ、いや……」

「それだと私は悲しいわぁ?」

 ステラが小首を傾げて悲しげな表情を見せると、メアラ嬢が慌てる。

「な、懐いて……そ、そう! 懐いていると言うよりは尊敬しておりますので!」

「尊敬なの?」

「はい!」

「じゃあ私のことは好き?」

「うぁっ……あ、あの……はい」

「うふふ、やっぱりメアラちゃんは可愛いわぁ」

「ふぅうぅ……っ!」

 メアラがどうして良いやらわからない状態に陥った! 混乱か!?

(いや、混乱もするでしょうよ)

(『そうね。確実に懐いているけど、イメージ的にそれを詳らかにしたくないでしょうし……。言い換えた所であのお母様の雰囲気がそれを許すとは思えないわよね』)

「まぁ、何故懐いているかについてだが、」

「ちょ、先生っ!」

「例の襲撃の少し後の話になる。あの時、わずか6歳の女児の起こした凶行に当時の王族は非常に神経質になっていてな。公爵家の剣達によって抑えられたものの、その戦闘力を抑えるには殺す以外の選択肢がない、と判断された。それに異を唱えたのが当時12歳にして公爵家の剣の一員となり、あの任務に当たっていたシンシアだ」

「ほぉ? あの跳ねっ返りか。あれもメアラ嬢に負けず劣らず厄介な質であったろう?」

「だから見捨てられなかったのだろうよ。それこそお咎め覚悟で公爵に直訴したらしくてな。勿論お咎めは無かったが、巡り巡ってコレの身の振り方が私に委ねられることとなった。当時、結婚したてであったこの私にな……!」

 うわぁ、どこへ向けたら良いのか分からない怒りが見えるわぁ……。

(ひぃぃ……)

(『うわぁ、凄いわね』)

「私は慎ましい結婚生活を夢見ていたのだ。ああ、夢だったとも。それをこいつが全てぶち壊してくれたがな?」

「その節は大変お世話になりました」

「嫌味か? まさか結婚間もなく淑女の仮面を剥がされるとは思わなかった。それもこれもお前のせいだ。預けられた当日から寝首を搔きに来るとは誰が思おうか?」

「でもあの大立ち回りのお陰で旦那様はそういう所も込みで惚れたのだと知れたではないですか?」

「……そうだな。非常にできた、私には勿体無い男だと惚れ直したわ。
 その話は良い。それからも隙きあらば命を狙いに来る狂犬を組み伏せるのは実に難儀であったぞ」

「よく言いますよ。捕まえては洒落にならない折檻をされましたもの。絶対仕返ししてやると誓いましたから」

「ちょ、ちょっと待ってぇ?? メアラが淑女教育のために、預けられたぁ、って話は聞いてたけどぉ、そんな血生臭い預けられ方だったのぉ??」

「そうだ。上下関係は刷り込みのレベルで行わせてもらった。でなければこやつは命がなかった故な」

「(ボソッ)複雑」

「そうね……事実を知ったら複雑な思いだわ」

「選択肢は無かった。とはいえ、私達の誰もがメアラに寄り添えなかったのは情け無い限りだな」

「そんな風に思わないで下さいませ、姉様方。ここからステラ様のお話に移るのですわ」

「そんな良い話ではないだろう。こいつはな、ずっと私に歯向かってきたが遂に敵わないと思い始めたらしく、私の夫を狙えば良いのではという下らぬ考えに至ったのだ。当然私は激怒して、それまでとは比べ物にならないレベルの折檻をくれてやったがな」

「「「「「「「………………」」」」」」」

 よく生きてたな。元の折檻がどれ位のレベルかはわからんが。

「それを止めてくれたのがステラ様ですわ」

「うふふ、懐かしいわねぇ」

「こいつが預けられてから2年位か? ステラは子供が生まれて丁度落ち着いた頃だったらしくてな。娘は祖父母に預けてきたステラが、私に会いに来てくれていたのだ。そんな何時もとは違う状況を好機と見たこいつが夫を襲撃したのが全ての始まりだ」

「お父様で慣れていたつもりだったけど、メアラちゃんも色々投げ飛ばしていたわねぇ。先輩は綺麗にいなしていたけど」

「襲撃に失敗したこいつは捕まってたまるかと、あちこちそこら中にあるものを投げつけてきおったわ。机、椅子、本棚、鎧兜……後始末が大変だったと、暫くは使用人共から小言を言われた続けたものだ」

(それ位で済む話じゃないですよね?)

(『論点がおかしいわぁ……』)

 流石メアラとオランジェの組み合わせだな。ぱねえっす。

「とうとう捕まえられた私はすぐさまボコボコにされまして……。狙ったのが旦那様でしたから、怒りの度合いが何時も以上に高くて……四肢の骨をへし折られる所でした」

「おい!」「ちょ!」「んなぁ!?」「(ぷんすこ)」

「それを止めたのが私だったのですわ」

「……ステラがオランジェを止めた? どうやって?」

「身を挺して庇ってくれたのですわ。女の子にそのような苛烈な躾は間違っております、とね」

「何と危ないことを!」

「そうがなるな、ハトラー伯。徒手空拳による護身術に関しては、ステラは私より一枚上手だぞ?」

「……は?」

「ステラの性格上、相手を痛めつけたりする方向で使わないため、攻撃力は皆無だがな」

「(くすくす)よく喧嘩していた先輩を止めましたものねぇ」

「は、初めて聞いたよ……」

「そんな風に力を持たない私でしたから、あの時、命を懸けて私を守ってくれなければ確実に拐われていたでしょう。だからあの時の貴方が、何時もより一層輝いて見えたのは仕方ないことなのですわ」

「ステラ……」

「「「「「「「………………」」」」」」」

(ちょ、こちらのご両親様とはいえ、その甘過ぎる話なんて何の責苦なんでしょうか……)

(『あらやだ、素敵じゃないのぉ』)

 いや、これは皆黙るわな。一部は陶酔してるが。

「ふふ、今の仲も良いようで微笑まし限りだ。話を戻すが、四肢を砕いてやろうとした私を止め……」

「待て!? 砕こうとした!?」

「……私を止めたのはステラであったが」

「無視するなパーリントン夫人!」

「黙っていろ。過去の話であるし、私がこいつを見捨てていれば、こいつの命は既に無いのだから」

「ぬっぐ!」

「理由もなく私を止めることはないステラ故、私も拳を収め、ステラに任せることにした」

「そこで私がメアラちゃんに施したのは、それこそ名目でしか無かった淑女教育ですわ」

「「「「「「「は?」」」」」」」

「最初は凄く反抗的でしたわね。でも下手に反抗したら、私は先輩みたいにはいなせないから怪我をすることが分かって……」

「怪我!? 怪我だと!? お前……」

「お父様? 先輩も仰いましたが過去の話です。それに私が話してるのですわよ?」

「あいや、しかし……」

「お父様?」

「……すまん、続けてくれ」

 鬼将軍を押し切っただと!?

(うちの母様は化物か!?)

(『なんかアンタ達こういう時はノリノリよね』)

「でね、メアラちゃんも私の事は最初から嫌いじゃなかったのかしらね? 怪我をさせるのは良くないって思ってくれたのよね。ゴメンナサイしてからちょっとずつ言う事聞いてくれるようになったわ。
 並行して行っていた淑女教育も、良くできたら褒めて撫ででぎゅってして……恥ずかしがってたけど一度も嫌がらなかったわ。可愛かったわねぇ。私も妹ができたみたいで嬉しくってついつい構い過ぎちゃったかも知れないわ」

「………………」

 メアラが真っ赤になって俯いている!

(お母様がアイギスだったなんて……)

(『アイギス』ってなぁに?)

(絶対防御の盾)

(『言い得て妙だわねぇ、それ』)

「私は何をしていたのだと言う話になってしまったな。まぁメアラには止めてくれる力を持つ者と、諌めてくれる尊敬すべき者が居る、そう分かっただけでも良かったのだと思うぞ」

「そう……か。済まない取り乱したようだ。一連の話も総合してみればオランジェ殿は恩人のようだ。知らぬかったとはいえ暴言を吐いた。済まない。そして改めて礼を言う」

 お姉様ズが揃って頭を下げる。これ超レアなシーンじゃない?

(貴族はみだりに頭を下げるなかれって言うからね。凄いレアだと思うわ)

「私は躾け切れなかった。礼ならステラに言うと良い」

「勿論ステラ殿にも感謝している。ありがとう」

 またお姉様ズがステラに揃って頭を下げる。

「頭をお上げくださいませ、ザルツナー辺境伯夫人。主家の奥方に頭を下げさせたとあっては……」

「いや、ステラ殿。これは主家の夫人としてではなく、一個人として、家族の受けた恩に対する礼と取ってもらいたい」

「そうだの。ステラや、これは非公式の場じゃ。礼を受け取ってやらねば彼女も立つ瀬がないわい」

「お父様まで……。ね? メアラちゃん?」

「はい? 何でしょうか」

 今だステラの胸に抱かれていたメアラがステラと視線を合わせる。

「ステラちゃんはとても愛されてるわねぇ」

「……っ!」

 ボンッ! て音が聞こえそうな勢いで真っ赤になるメアラ。年頃の少女ですねもう。

(そうねぇ、このままで居てくれたら、私はすっごいら……)

「でもフローラには遠慮は要らないからね? 厳しく指導してね?」

「お母様ぁ!?」

「しかと承りました。今以上に居厳しく行かせて頂きます」

「先生ぇ!? 今以上って何!?」

「あら? 早速ですの? フローラ、さん?」

「いえ! 何でも御座いません!」

 グッジョブだよ、メアラ先生! よかったな! フローラ!

(良かぁねぇよ!?)

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