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第4話~手駒とされし男~

 俺の名前はノイン。今、研究所への道を進んでいる。パーティーは壊滅し、俺自身も傷を負った。その上もうすぐ自分も死ぬかもしれない。何が何だか分からないままあの男にやられた。それは……。

 俺は能力者として魔王を倒すため日々修業に励んでいた。そして最近修業場である亡者の森で仲間たちが消息を絶つことが続出していた。
 そりゃあ少しは死ぬ奴は居たが、亡者の森で命を落とす奴はマヌケと言われる程度のはずなのに最近はやけに多かった。
 だから俺たちは10人のパーティーで亡者の森の調査に入った。隊長はあのいけ好かねえ頭でっかち野郎だったことはムカついたがどうせすぐに終わるだろうと思っていた。だが

「おい!壁が消えたぞ!どうなってる!」

 隊長のフィーアの怒声が飛ぶ。俺がそんなこと分かるわけないだろう。お前の完全記憶とやらの知識で考えろよと言ってやりたい。だが敵の影は見えないし、これは俺の持つスキル引き寄せに似ているかと思った。
 引き寄せのスキルは特に希少性もないものでランクとしては低い。弱くはないが引き寄せるしかできないため応用があまり利かない。同じく筋力強化能力も希少性は低いが純粋に強いのでこちらは良い扱いをされている。

「あっ、ああ?あああああああああああああああッ。てめえ!死にやがれぇ!」

 その筋力強化スキルを持っている男が気でも狂ったのか隣の男を叩き斬った。スキルを使用して筋肉ダルマみてえになったヤツに不意に斬られた男は簡単に真っ二つになった。一体何が起こった?

「おい!何のつもりだ!お前ぇッ!」
「うるせえ!てめえ今殺したはず、死ねェッ!」

 明らかに正気じゃねえ。俺はヤツから距離を取って様子を窺う。奴の背中に短剣が突き刺さっている。一体誰がやった?それで疑心暗鬼になっているのか?いやそんなはずはない。いくらヤツが脳筋とは言っても味方が短剣を突き刺したなどと思わないし、誰もそんな動きはしていない。

「おい!フィーア!指示を出しやがれ!どうすんだ!」

 俺は隊長のフィーアに指示を出せと怒声を飛ばす。普段は慇懃に接しているが今はそんな場合じゃねえし、頭でっかちで今この状態でもロクに指示もしねえ無能野郎に丁寧に接していられない。だが隊長からの指示が来ない。

「てめえ!フィーア!どういうつもりだ!指示を出せェッ!」

 俺はたまらず隊長が居た場所を見る。だがヤツは姿を消していた。野郎……逃げやがった!俺は大声を出し過ぎたため錯乱している脳筋野郎に目を付けられた。

「何でだ!何で死なねえ!死ねやァッ!」
「や、ヤバイ!引き寄せ!」
「あ……。」

 脳筋野郎は剣を振りかざしながら俺に向かって突進してくる。奴の剣は剣先が平らで肉厚な刀身の剣。まさに処刑人といった風情の武器で俺を処刑せんとする。俺は目に入ったパーティーのメンバーを引き寄せてヤツと俺の間に立たせる。
 仲間を犠牲にしちまったが仕方がない。俺さえ生き残ればいいんだ。隊長が居ない、3人が斬られて脳筋野郎はアレだ。もう俺を含めて4人しか残ってねえ……4人?もう1人逃げやがった!俺も逃げた方が良いかと思い始めてきた時

「おい。」
「なんだよ。」
「あれはおそらく幻覚剤か何か打たれてる。俺のスキルは毒手、幻覚の毒も使えるからピンときた。」
「治す方法は?」
「あるにはあるがヤツを押さえなきゃならねえ。仲間に打ったことがねえから麻痺毒の具合が分からん。お前引き寄せだろ?ヤツを引き寄せてくれ。俺が麻痺毒を打ち込む。」
「チッ。やるしかねえか。」
「いつでもいいぞ。ヤレ!」

 生き残りが俺に声を掛ける。コイツのスキルは毒手。俺とヤツの連携で麻痺毒を打ち込む手筈になった。別に殺しちまってもいいんだがヤツは仲間を殺した。幻覚剤を打たれてるんじゃまあ何も覚えちゃいないだろうが、尋問にかこつけて痛めつけてやろうと思った。
 女は上の奴らが独占してロクに回って来やしねえし、廃棄の森で見つけたあの女も今日は探す余裕はねえ。ならせめて邪魔したコイツを痛めつけてやらなきゃ気が済まねえ。

 俺は毒手の男の準備ができたところで引き寄せを使う。いくらヤツが強かろうと俺の引き寄せには抗えない。
 毒手の男は脳筋野郎に手刀を突き刺す。これでヤツは麻痺したはず。だが男の毒の量が足りてねえのかまだ動きやがる。様子を窺っていた残り2人が斬りかかって行ったが脳筋野郎の処刑剣一閃。2人纏めて胴から真っ二つになった。
 そして俺もそれに巻き込まれる。奴の剣が足に当たったのだ。さすがに振り切った後だったので身体を断たれることはなかったが、ヤツの近くに居たせいだ。

 脳筋野郎は身体を大きく振って何かを振り払おうとしている。毒手の男の手刀がまだ突き刺さっており、ヤツから離れていないのだ。おそらくまだ麻痺毒を打ち込み続けている。何事かを喚きながら振り払おうとしているが毒手の男は食いついて離れない。
 だが力の差は明白で遂に毒手の男は振り払われた。そして空中で体勢を変えられないアイツは脳筋野郎に縦から真っ二つにされた。
 これで残るのは俺だけ。だが俺は足を怪我してロクに歩けない。しかし逃げなければ死ぬ。俺は足を引きずりながらヤツから逃げるが俺はすぐに見つかりヤツは突進してくる。

 だがヤツの動きが鈍くなる。そして前のめりに倒れた。これはおそらく毒手の男の麻痺毒が効いたからだ。奴はピクリとも動かない。どうやら毒を入れ過ぎて死んでしまったようだ。まあどちらにしても尋問は無理だ。毒手の男は死んだし俺は足を怪我した。麻痺が治って攻撃されれば間違いなく死ぬだろう。

 俺はとにかく研究所への道を戻ることにした。パーティーは壊滅、俺自身も負傷。これでは調査どころではない。俺は足を引きずりながらゆっくりと道を進む。だがその時俺は背中を刺され、そして何か力が抜ける感覚と共に景色が暗転し、気づいた時には全く違う場所に下ろされていた。

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