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13th:re-encounter

 夕暮れが近づきながらも敷地内はまだ盛況を見せていて、遠目でも人の多さがわかる。

 夢なら早く醒めてほしい。幻なら錯覚だと言ってほしい。目の前にある光景は望み続けた世界だった。夕陽の光が差して見えづらいけど、現在地は俺の通う大学の敷地だ。

 気持ちの整理がつかないままぼうっと歩いていると、道端で棒立ちになりながら泣いている子供を見つけた。

 「どうした?お母さんとはぐれたか?」

 言葉では表さないが、縦に首を振ったそいつを見るなり俺は身を屈めた。

 「お母さん探そう。すぐに見つかるよ」

 か細く「うん」という声を出した少年はひょいと俺の両肩を跨ぐと、少年の足をつかみながら俺は敷地を歩き始めた。屋台ゾーン、展示物ゾーン、音楽のライブ会場はチケット制だから出入口から辺りだけを見回す。歩いているうちに遠くから驚きの声が聞こえ、頭上から「おかあさん!」と少年が前方の女性へ叫ぶ。

 母親のもとで少年を降ろした俺は、無邪気に手を振る少年にバイバイと手を振った。俺にしては珍しい殊勝な心掛けだ。そう思いながら見た時計の針は夕方の五時ちょうどを差している。

 どうしようもなく心臓がばくついて止まらない。心臓の鼓動はどんどん早くなっていって、動揺が収まらない。理由、理由は……そうだ、あの、ロケットの風景。

 近づいた時計台の下に、そこにいてほしい後ろ姿があった。

 「よ……よお」

 恐る恐る声をかけた俺に対して「きみ、誰?」とつんつんして彼女は答えた。人違いなはずがない。ルカであることは疑いようがない。でもこんな冗談は今まで一度もされたことがない。

 もしかして、向こうの世界ってのは俺だけが見た幻だったんだろうか。そもそも出会っていないから変な人と思われているんだろうか。邪推だけが心に広がっていく。

 「あ、いや、まあ、そりゃそうなるよな。ごめん、人違いだ」

 踵《きびす》を返して逃げようとする俺に「なんて」と彼女はくすっと笑った。

 「はじめまして、だね。まえだかなた君」

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