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時の感覚と巨大植物園

 時間の感覚というのは個体によって違ってくる。特に寿命と年齢というのはそれに大きく影響を及ぼす。
 例えば寿命。十年の寿命の個体と百年の寿命の個体が居たとして、その二つの個体の時間の感覚は同じかと言えば違うだろう。単純に言ってしまえば、十倍の感覚の違いがあるということになる。つまり、十年の寿命の個体の一秒は、百年の寿命の個体の十秒に相当すると言える。勿論、そう単純な話ではないだろうが。
 次は年齢もしくは経験。寿命が同じ個体が二人居たとする。片方は十歳で、もう片方はニ十歳。では、この二人は寿命が同じだから時間の感覚が同じかと言えば、これまた違うだろう。二人の間には十年の経験の差があるので、同じ事柄を互いに十歳の時から経験していたとしても、十歳の方は経験が浅いために慌ただしく過ごして時の経過が早く感じ、ニ十歳の方は十歳の個体よりも十年経験を積んでいるので、どのような流れで物事が進むのかをある程度分かるために、時の流れが長く感じるだろう。経験する事柄によってはそれが逆転することもあるだろうが、経験というのは時間の感覚に大きく影響してくるのは間違いない。
 さて、では有限の命と無限の命ではどうだろうか。様々な要素は絡んでくるが、それでも時間の感覚が同じなわけがないだろう。例えば、少し前と言うとどれぐらい前のことだと思うだろうか。数秒前? 数分前? 数時間前? 数日前? 人であれば長くとも数年前が限度であろう。しかし、れいのように悠久を生きるモノにとっては、数百年数千年でも少し前の範疇であったりする。これが、有限の命と無限の命を持つ者の感覚の違いと言えるだろう。





 足下に拡がる大地に視線を落としたれいは、さてどうしようかと考える。
 その大地は少し前からコツコツと拡げていった新しい大地で、最近完成したばかり。なので、今のところ周囲を海で囲んでいる以外には何も無い。それに大地にはれいが侵入防止の結界を張っているので、誰も入ってはこれない。
 そのうえで、どうしようかと考える。今までと同じような感じでもいいのだが、新しい大地は他の大地よりも大きいので、色々と出来そうであった。
「………………とりあえず迷宮は設置しましょう。いや、法則を変えるのも?」
 最近は迷宮の種類も増えた。地下型と言われる従来の迷宮に、塔型という数が少ないながらもハードゥスにも設置してある迷宮。その他に、船型という大型船を模した迷宮や、海型というほとんどが海水に沈んでいる迷宮。それに空型というほとんどを透明な板で構築された上空に浮かんでいる迷宮。それ以外にも炎の迷宮だったり氷の迷宮だったりと、とにかく迷宮にも種類が増えた。
 それらもハードゥスには流れ着いている。全てが全てダンジョンクリエーターが創るというわけでもないようで、現在ではそれすらバリエーション豊かになっていた。
 そういった迷宮を集めてもいいのだが、それでは迷宮大陸の二番煎じになってしまう。かといって、普通に自然や魔物に人などを設置しても、そんなものは既に存在する。魔物だけ、人だけというのもあるし、法則を変えたものもまた存在する。
「………………保護区というのも在りますし……ああ、折角これだけ広いのですから、ここは植物を育てる場所にしましょうか。保護区では植物の方は少々手狭でしたからね」
 植物の楽園としての大陸。そういったものはまだ創ってはいなかった。元々ハードゥスの植物は生長が早いので、繁茂しずぎて困っていたところだった。最初の頃はそのせいで漂着物を集めた一角を拡張させたほどなのだから。
 それに、そうなると一緒に蟲も放てるだろう。蟲と植物はとにかく数が多くて困っていたのだ。周囲を海水で満たしているので、そうそう外には出ないだろう。他の大陸に直通になるような風が吹かないように流れを少し複雑に調節しておけば少しは時間が稼げる。
「………………魔物も少し放っておきますか」
 自然界にはそれぞれ役割があるので、主目的である植物を育てることさえ叶えば他はどうでもいい。言ってしまえば新しい大陸は巨大な植物園のようなもので、中には植物系の魔物も放つ予定だ。
「………………ここに迷宮は不要ですね。完成すればそれだけで迷宮のようなモノですし」
 完成図を頭に思い浮かべたれいは、問題はないだろうと頷いた。もう少し変わった大陸にしたかったような気もするが、あまり凝り過ぎてもおかしな結果になりかねないので丁度いいだろう。
 それに、植物や蟲はとにかく在庫が多すぎて困っていたので、そういう意味でも丁度良かった。
 植物を設置したりと準備を終えた後、大陸から去る時に、いつかおいしい実でも付ける植物が出来ればいいのだがと少し思ったれいであった。

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