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行く末を見守る者

「放置していてよろしいのですか?」
 遥か彼方から赤く燃える街並みを眺めていたれいに、エイビスが問い掛ける。その問いに、れいはどういう意味かとエイビスの方へ顔を向けて首を傾げた。
 普段通りの無表情のれいだが、それを見たエイビスは「何言ってんだこいつ?」とでも思われたと感じたのか、何故だか酷く慌てだす。
 れいは何故エイビスがそんな反応をするのか分からなかったが、とりあえず説明はなさそうだと判断して、質問にそのまま答えることにした。
「………………干渉するつもりはありませんよ」
 別の大陸から飛来した魔物に襲われている街は、そこかしこで火事となり火の勢いを強めていく。魔物も人を襲い喰らっていく。大半の人々は逃げまどうも、中には魔物に立ち向かう者も居るようだ。
「差し出口でした。申し訳ありません」
「………………構いませんよ。貴方に与えている権限を考えれば、その疑問も一定の理解は出来ますので。それにしても、元気ですね」
「はい」
 空を飛び地上を襲う魔物に、それを指揮する魔物。新天地の拠点を築くに当たり、先制して近場で最も厄介そうな街を襲撃してきたようだ。まぁ、侵略の準備をしていることが露見する間近だったのが一番の理由だが。
 それに魔法で音の広がりを操作する手の込みよう。ただ、その魔法の本来の効果である音を消すということが出来ていない辺りが技量の拙さを露呈しているが。実際、街の一部では魔法の効果が破られているようだ。
 人と魔物の戦争とも言えるその光景を眺めながら、れいは特に何かするつもりは一切無かった。別にれいは人の守護神というわけではない。魔物だろうと人だろうと盛衰は世の常として、れいは観賞するばかり。
 エイビスは漂着物である人の案内をしたり人に崇められているからか、その辺りが人寄りになっているようだ。創造した当初は違ったのだが、これもまた個性……いや成長ということなのだろう。
 ただ、それでも勝手に介入するほどの愚か者ではなかったようで、まずは観ていたれいに伺いを立てたというわけだ。
 それに、れいが却下すれば直ぐに従う程度には分を弁えているらしい。エイビスの権限としては、ここまで大事になると介入は越権行為になりかねないのだから。それも、れいの権利が及んでいる領域へのである。
 れいを崇めるエイビスとしては、そこは絶対に超えてはならない場所で、たとえ人が滅びたとしても、れいが否と言えば何があろうとも動かないだろう。
 さて、介入せずに観ているだけというのが決まったとはいえ、まだまだ戦いは中盤戦。奇襲を受けたとはいえ、そこは街として機能している以上、そのまま何も出来ずに滅ぶはずもない。
 兵士達も陣形を整え、魔物に対処していく。飛竜だろうとも、倒せない相手ではないのだ。それに、戦域の外では消火作業も並行して行われている。こちらは住民が中心だ。
 そうして人側の態勢が整っていくなか、魔物側はあと一押しが出来ていない。飛竜の群れも、障害物の多い街中での戦いでは運用が難しかった。
 魔物側にも地上部隊は居るがまだ数が少なく、人側の兵士に圧されてかなり数を減らしているため、今は撤退していた。
 結果として徐々に魔物側が人に圧され始める。一度反撃の狼煙が上がると人側は勢いに乗ってしまい、突撃してきた飛竜すら狩られていく。
 一匹、二匹と飛竜が狩られていき、形勢不利と悟った魔物側は撤退していった。
 実はそのまま攻めていれば後少しで魔物側が勝利していたのだが、一瞬だけ見せた人側の勢いに負けたのだろう。
 損害だって、元々数が少なかった地上部隊はしょうがないとしても、飛竜の損害は飛竜全体で見ればかなり軽微。後は攻め方をもう少し工夫すれば、それ以上の損害はあまり出さなかっただろう。
 とはいえ、結果は結果。魔物と人の戦争は人の辛勝で終わった。ただ街の損害は大きく、襲撃から然程時を置かずに住民はその街を放棄したのであった。

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