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第1章ー2 ソウヤ、ジヨウ、クロー、レイファ 「主役はオレだぜ!」

 第4回大会本選の3日目、18時40分。決勝ゲームの開始20分前になった。
 ソウヤたちがやってきた大型ゲームセンターには、立方体が16台設置されていて、最大4チームが参加できる。
 そして、このゲームセンターでは決勝に2チームが進出し参戦する。
 ソウヤたちのチームと、ウェンハイたちのチームだった。
 彼らはゲーム開始の30分前まで、ゲームセンター近くの広場で立合い演じていた。
 今ソウヤ、クロー、ウェンハイは、3人並べて座らされ、レイファに少々手荒に、しかし完璧な治療をしてもらっている。
 手荒な処置なのは、決勝戦前なのに立合いしたことに対する彼女からのお仕置きだった。
「はい、終わったよ~」
「助かったぞ、レイファ」
 先に治療が終わったクローがレイファに礼をし、ソウヤも素直に言う。
「おお、いつもありがとな。助かるぜ」
「オレまでワリーな」
 ウェンハイが、治療してもらった腕の具合を確認した後、頭を下げる。
「いいよ~。同門の仲間でしょ」
「「「違う!」」」
 3人の声が揃う。
「そうね~。・・・だけど、みんな同門だよね~」
 レイファから甘い声音が奏でられ、柔らかい笑顔で凝視してきた。彼女の瞳の力に対抗できず、3人とも視線を逸らす。
「そうだよね~」
 笑顔の質が、もう一段あがる。
 傍からみれば、可愛い笑顔を向けられているようだろうが、近くに寄れば分かる。笑顔に隠された意味と圧力が・・・。それは有無を言わせぬ、強制力のある意志のこもった笑顔だった。
「「「は・・・い、そうです」」」
 3人とも素直に降参した。
 ウェンハイは、もう一度レイファに礼を言うと、仲間たちの元へと行く。
 ここからは、ウェンハイと敵同士だ。
 さっきまでも敵同士ではあったが・・・。
 ソウヤ、クロー、レイファ、ジヨウの4人は、それぞれゲームの立方体内に入る。
 そこで待機しながら、チーム内通信でゲームの話をする。
『ステージは何処になるのかな~。ウチは小惑星ステージがいいんだよね~。隠れやすいし、ゆっくりできるしね~』
『レイファ。頼むから、真面目に戦ってくれ。今回は勝ちたいんだ』
「大丈夫だ。レイファは後ろでゆっくりしててイイぜ」
『そうとも、前回までの我ではない。任せるが良いぞ』
「クローだけでは、どのチーム相手でもムリだぜ」
『なんだと・・・』
 ソウヤとクローの低レベルの言い争いが始まった。
 2人の醸し出す険悪な雰囲気を無視するようにレイファが口を挟む。
『祝勝会はどこにする~。ウチ、鳳凰楼がいいな~。美味しいし、ゆっくり食べられるしね~』
『鳳凰楼でもいいけど、レイファは話してないで食べるのに集中しろよ。レイファが食べ終わるのを待つのは大変なんだからな』
「イイんじゃないか。レイファはいつも通り愉しく喋って、ゆっくり食べろよ。今夜は祝勝会なんだぜ」
『ふむ、我なら一晩中でも構わんぞ。明日、仕事は休みだからな』
 決勝開始15分前になり、画面に今回のステージ情報が表示された。
 ステージは移動要塞”トリプルアロー”。勝利条件は自チーム以外の敵チーム殲滅と、トリプルアローの占拠となっていた。
 トリプルアローとは、大シラン帝国軍が誇る巨大移動要塞である。
 本体は1辺40キロメートル六角柱で、高さ30キロメートルある。
 六角柱の側面一つおきに、長さ30キロメートルの四角柱、通称“アロー”が取り付けてある。そのアローが六角柱の本体に接している面は、一辺が15キロメートルもある正方形である。
 アローの先端からは、戦艦が電磁カタパルトで高速発艦できるようになっている。
 その他、トリプルアローの解説だけでなくステージの前提やら制限事項やらがドキュメントとして添付されている。開くと膨大かつ詳細で、しかも多岐に亘る情報が載っていた。
 故に、通常プレイヤーが確認するのは、最初の数ページのステージ概要情報ぐらいである。
『ふむ。さて、ジヨウ。どうするのだ?』
 クローの質問に、ワンテンポおいてからジヨウの返答がある。ジヨウはドキュメントを確認しながらの会話しているようで、視線をレンズに向けていない。
『・・・よし、小惑星ステージと同じ戦法を使おう。トリプルアローに張り付いて、レイファが狙撃。クローとソウヤは、迎撃と囮役だ』
『ふむ、前衛は我だけでも構わんぞ』
『狙撃はウチに任せて~』
 レイファは甘い声音にのせて緩やかな口調で答えた。
 だがソウヤから、いつもの返しがなかった。いつもなら「クローは逃げ回ってればイイぜ。敵はオレが片づけてやるからよ」のような暴言に近いセリフを吐く場面だ。
『ソウヤ~? もしかしてケガが痛むの~』
『ならば囮は無理でも、我の盾になるが良いぞ』
『しっかりしろ、ソウヤ。どうしたんだ?』
「ああ・・・」
 反射的に返事をしたが、心ここにあらずのようだ。
 メインディスプレイの表示が3分前となった瞬間、ソウヤの思考を阻害していた靄が晴れた。
 ソウヤが叫ぶ。
「占拠だ、占拠! トリプルアローを真っ先に占拠すんだ!!」
 突然の大声に、三者三様の言い方でソウヤの大声を叱責した後、ジヨウが反論する。
『勝利条件は、敵チームを殲滅して、トリプルアローを占拠することになっている』
「先に占拠しても問題ないぜ」
『占拠しなくてもいいと思うけど~。盾として利用できれば、狙撃できるよ~』
『ほう、なるほど。占拠を先にすべき・・・か。それなら我も賛成しようぞ』
『え~、なんで~』
『占拠できれば、トリプルアローの索敵システムが使えるのだぞ。それに防衛システムの兵装が動けば、敵チームなぞ簡単に殲滅できよう』
『そうか~。その方が楽そうだね~。さすがソウヤ、楽する方法考えるのは得意だよね~』
「レイファ。それ、褒めてんのかよ?」
『えぇ~、心から褒めてるよ~』
 甘く優しい声に、棒読み気味のセリフをのせ、似合わない悪い笑顔をしていては、説得力がまったくなかった。
 着眼点とか勘の良さとかは、誰もが認めるソウヤの長所なのだ。しかし、発揮する場面に問題が多々あり、あまり褒められはしなかった。
 たとえば、課題の解釈を曲解してサボる方法だったりと・・・。
 それぞれがソウヤのアイディアを元に作戦の検討を始めたので、4人に会話がなくなる。
 しばらくして、ソウヤがジヨウに問い掛ける。
「可能か? ジヨウ」
『出来そうだな。トリプルアローの設計図と兵装仕様、システムマニュアルの要点を送る』
 膨大なドキュメントから必要な情報だけを抜き出して作られた12ページの資料が、ジヨウから送られてきた。資料の中にはトリプルアローへの進入経路の情報もある。
 このような芸が細かい仕事は流石だった。
 何ページに記載されているかを伝えられても、そのページから必要箇所を探すのに苦労する。それに、複数ページをゲーム開始後に確認しようにも、システムマニュアルから、すぐには取り出せないだろう。戦闘状態になると尚更である。
 目的に向かって必要な情報を把握する能力、目的を達成するために遂行する行動計画の立案能力、それらをジヨウは兼ね備えている。
 だが、重大な決断するのに慎重がすぎるのが、ロン・ジヨウである。
 そしてジヨウは、今も決断を躊躇しているらしい。
「トリプルアローに行こうぜ、ジヨウ! 行って不利になることはないんだ!!」
『ジヨウにぃ、どうせトリプルアローを盾に使う予定だったんだから、やってもいいよね~』
『・・・よし、第一目標はトリプルアローの占拠だ。次に敵を殲滅する。行くこう。さあ、斬り拓け』
 ソウヤ、クロー、レイファが声を揃えて応じる。
『『「承知!!」』』

 ゲームは公正性を保つため、またチーム戦というゲームの性質上、同一チームの機体は1ヶ所に出現する。そして、どの敵チームからも索敵されない場所からスタートとなる。
 ただ、そのままだと戦闘にならない可能性もある。そこでステージは時間が経過するごとに縮小する仕様になっている。決勝戦は1時間後にステージの縮小が終了し、どの位置からでも敵を索敵可能となる。
 今回の決勝ステージは、巨大移動要塞”トリプルアロー”。
 そしてトリプルアローが、中央に存在する。
 つまりゲーム終了間際の最終決戦場所は、トリプルアローを中心とした宙域になる。
 3チームがゲーム開始とともにトリプルアローを目指し、1チームはステージの端へと向かう。
 ジヨウチームは、ソウヤとクローをツートップに据え、後方にジヨウ、3人から少し離れた上方にスナイパーのレイファという編隊を組んでいる。
 そして、全速力でトリプルアローを目指している。
 ソウヤは左横に視線を送る。
 すると側方のディスプレイには、クロー機・・・アタッカー仕様の人型兵器”ビンシー6”が視界に入る。
 それは武骨で、デザイン性をまったく感じさせないフォルムである。
 身長が約30メートル、両手にレーザービーム銃を持ち、前腕外側の装甲には、飛び出し式のチェーンソーブレードが仕込まれている。背中と脚部はジェット推進装置が装備され、頭部には各種センサーが配備されている。人の各部に箱を被せてランドセルを背負わせ、身長の半分の長さのライフルを両手に持たせるとビンシー6の姿になる。
 クロー機はソウヤと同じ機体、同じ仕様である。つまり宙を翔けるクロー機の姿は、ソウヤ機の姿でもある。
『左前方に敵を発見』
 ジヨウから通信が入った。
 彼の駆る機体の索敵システムに、4機の敵が引っかかったのだ。
 ジヨウはビンシー6の隊長機仕様を選択していた。
 それは、武装よりも生存率と索敵システムを高めた機体で、部隊の指揮を最後まで執るための仕様である。
 ただ、指揮機でない機種の索敵システムでも、攻撃範囲に入る前に敵を捉えることは可能なため、大抵のユーザーは武装重視のアタッカー仕様を好んで使用している。
『あの編隊の組み方は、ウェンハイたちだな』
 全員アタッカーという超攻撃的布陣のウェンハイチームは、4機が背中合わせになり、四方を監視しながら、頭頂へと進むように編隊を組んでいる。
 ビンシー6の角張った武骨なフォルムの4機が固まって飛行している。適度に距離をあけているソウヤたちの編隊とは好対照である。
「やっちまおうぜ、ジヨウ」
『我も賛成だぞ』
 楽するために考えた作戦を台無しにするソウヤとクローの意見だった。
 しかも、ソウヤは作戦の発案者である。
『2人とも血の気が多すぎだろ!』
 ジヨウは怒鳴り、頭痛を覚えたかのように顔を顰めた。
 そこに、レイファからは気楽な声が聴こえてくる。
『落ち着こうよ~。それに、ウチは逃げてもいいと思うよ~』
『レイファは、もう少しやる気をだすんだ』
 ジヨウの苦労は絶えない。
 ジヨウを信用しているからこそ、3人は好き勝手なことを言うし、最終的にはジヨウの決定には従っている。決定にも文句は言うのだが・・・。
『避けるぞ!』
『戦えば倒せるが・・・。しかし、ジヨウがそう言うのなら仕方がない。これは貸しだぞ』
『なんでだ!!』
「鳳凰楼、おごりでいいぜ!」
『だから、なんでだ!』
『仕方ないよ、ジヨウにぃ~。多数決なんだから~』
『それ、意味不明だろ・・・』
 愚痴を零しながらもジヨウは、ソウヤたち3機に短距離機密通信でルートの指示をだしたのだった。

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