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兄妹はあーじゃないとね

 久しぶりだった。あんなにしゃべって、ふざけて、戦って。
 私、ベルティアは天界に帰りながらそんなことを考えていた。
 隣にいる2人は私と同じようにどこか寂し気な表情。
 
 足元を見ると、先ほどまでいた地上が広がっていた。だんだん遠くなっていく。
 一時沈黙の時間が続くと、レンが口を開いた。
 
 「ベルティア、久しぶりに元ご主人に出会えた感想は?」
 「元気そうで何より……かなー」
 「君は相変わらず上から目線だね」
 「別にいいじゃない。私はあの人に対して、いつもこうだったものの」
 「まぁ、それはいいや…………でも、今は僕についているのだから、多少は言うことを聞いてほしかった。特に今日は」
 「あのね。私、これでもレンの言うことは守っているほうなの。私の上司は本来1人だけ。その人に『レンを守ってくれ』って言われたから、私はあなたについているだけ」

 そう。私の上司はずっと1人。
 今はその人のために動く。
 まぁ、今日は少し遊んじゃったけれど。

 でも、やっと1歩進めれた。やっとよ、あーあ長かった。
 これからも長いんだろうけどさ。
 それでいい。少しずつ少しずつあの時を取り戻すの。
 
 楽しかったあの時を。

 隣をちらりと目をやる。

 「それは分かってるさ…………」

 隣のレンは腰の刀を握りしめ、そう小さく呟いていた。

 「ネルは僕の同僚みたいな人だったから…………」



 ★★★★★★★★

 
 
 学園内にある1件のカフェ。
 そこは平日なら生徒が少ないものの、その日は休日であったため、多くの生徒たちが訪れていた。
 
 訪れていた生徒の一部は彼らにちらりと目を向けていた。 

 「あれって、メミさんと…………」
 「ネル・モナーよね? 兄妹の仲が悪いんじゃなかったかしら?」

 そのカフェテラスの一角では2人の兄妹が向き合って座っていた。
 仲良くお茶をすることなんてなかった2人だが、今では2人の顔には笑顔の花が咲いていた。
 
 俺の前に座るメミは、紅茶を一口飲むと、 

 「お兄様は紅茶がお好きでしたよね」

 と言った。
 確かに前は紅茶が好きだったが、今はどちらかというと…………。
 
 「えーと、今はコーヒーの方が好きだな」
 「えっ? そうなんですか…………好みが変わったのですね。覚えておきますね」
 
 すると、メミはポケットからメモ帳を取り出し、何かを書き始めた。

 なんだそのメモ帳。何をメモってるんだ?
 まさか、俺の好みをメモって…………いい妹だな。
 なら。

 「ついでに、俺の好みのコーヒーはブラックコーヒーってことも覚えておいて。砂糖なし、牛乳なしのやつね」
 
 俺がそう話すと、メミはさらに書き足していく。

 そういや。
 前は紅茶が好きだったけど、いつからコーヒーを飲むようにんなったんだっけ? 

 『この家、コーヒーしかないから、我慢して』

 ――――――――ああ。そうだ、思い出した。
 裏世界に行ってからだ。リコリスの家にはコーヒーしかなかったんだよな、うん。

 すると、頭に直接、声が聞こえてきた。
 その声は俺を呼んでいるわけでもなく、ただただ誰かがしゃべっている声。

 『はい、缶コーヒー。あっつあつよ!』
 『あんがとよ……っておい。カフェオレじゃないか。俺、ブラックが好みなんだけど』

 ???
 意識の遠くの方から聞こえてくる…………誰の声だ? 
 まだ聞こえてくる。
  
 『うっさいわねぇ。買ってもらった身で文句言わないでよ』
 『お前がおごるって言ったんじゃん。好みのやつを選んでもいいじゃん』
 『まぁまぁ、2人とも落ち着いて』

 3人の声が俺の頭の中で響く。
 そして、彼らの笑い声が広がっていた。
 
 周囲にはそんなに笑い転げているやつなんていないのに…………。
 一体誰なんだ?
 
 「お兄様…………お兄様?」
 「あ、ごめん」
 「随分と長い間放心なさっていましたが、どうされました?」

 「いや、どうもないよ。ところでメミ」
 「なんでしょう、お兄様」
 「今度2人でレベル上げしにいくか。中間テストも近いことだし」
 
 そう言うと、メミはぱぁーと目を輝かせ始める。
 
 「なら、私裏世界に行ってみたいです!」
 「え、マジか」
 「はい! マジです!」
 
 ふわりと揺れるメミの髪には、アネモネの花びらをモチーフにした白の髪飾り。
 その飾りはつい最近俺がプレゼントしたもの。
 
 幸せそうな笑みを見せるメミにとても似合っていた。
 
 たとえレンが神で、遠くに行ってしまっても。
 (メミ)がいる。俺の『希望』となってくれる妹がいる。
 
 だから。
 自殺なんてことは考えない。
 この笑顔を守りたい。
 
 そんな俺も自然と笑みを浮かべていた。
 
 
 
 ★★★★★★★★



 一方、リコリスたち4人は服を買おうと、学園内の店へ足を運んでいた。
 いい店はないかと探して歩いていると、アスカはある2人を見つけ、足を止めていた。
 
 「あれってネルと…………メミさん? あの2人が一緒
にお茶している。珍しいこともあるのね」

 ラクリアたちもネルがいるカフェの方を向き、足を止める。

 「え、最近はあの2人、よくお茶をしているみたいだYO」
 「へぇ……そうなの。これもネルが謝りにいったおかげね。本当に誤解が解けてよかった」

 「今度、一緒にお茶したいYO」
 「そうね」
 
 アスカとラクリアは、世界で一番の笑みを浮かべる兄妹を目にし、伝染したように笑顔になっていく。
 リナも黙ってはいたが、微笑みを浮かべていた。

 「兄妹はあーじゃないとね」

 そう呟いたリコリスは空を仰ぎ、ふと自分の兄を思い出していた。

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