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日本刀

 「そうだよ、コンコルドは僕の部下。天使はみんな神の部下みたいなものさ」

 レンは両手を広げ、そう言った。
 しかし、ベルティアは横に首を振っていた。
 
 「でも、私はレンのことを上司とは思っていないけどね」
 「僕もベルティアのことは部下と思っていないよ。犬だと思って……っいったぁ! 悪かった、ベルティアは自由気ままだから、忠誠を尽くす犬じゃないね。怠惰な猫だね」

 ベルティアはレンの足を思いっきり踏みつける。かなり痛かったのか、レンは「っだぁ!」と聞いたこともないような声で叫んでいた。

 ったく、自業自得だな。
 こいつら仲いいのか、悪いんだか。

 俺は思わずため息をつく。

 まぁ、ベルティアとコンじいの上に立つのがレンという関係性は分かった。
 
 でも、なんで神王を倒さないといけないんだ? 
 そこがさっぱり分からない。
 レンも神なら、神王倒しなんて普通なら考えないはずだ。
 まさか、レンは神の王になりたがっているのか?
 
 俺が熟考していると、驚きの連続で気を失いかけていたメミがレンに話しかけていた。
 
 「あの…………レン」
 「なんだい、メミちゃん(・・・)
 「…………その、レンはレンなのですよね?」

 「そうだよ」

 優しくニコリと笑うレン。しかし、その顔は徐々に申し訳なさそうな表情へと変わっていく。

 「でも、もう僕はネルやメミちゃんに見せていたレンではないんだ。メミちゃんの婚約者ではいられないんだ。ごめんね」
 「いえ…………レンが生きていたならいいんです」
 
 メミはそう言って、レンから遠ざかっていく。そして、俺の袖を握り、顔を俯かせていた。

 「お兄様、本当にごめんなさい」
 「いいんだ。俺も悪かった…………それにレンが神で死んでいなかった、なんて誰も考えられるわけない」

 レンはきっとメミの行動も計画に含めていた。メミが俺を強制退学に追いやると分かっていた。

 だから。
 エメラルドの瞳のレンは、あの日途方に暮れた俺の前に、魔石オラクルを渡してきた。それは当然今気づいたこと。
 
 わざわざ女装をして渡すとか…………他の行動もそうだが、なんでそんな回りくどいことをしてきたのか、神王倒し計画の一環でことが分かっても、さっぱり理解できない。
 
 まぁ、突然レンが現れてきて、
 『神王を殺してくれ』
 なんて率直に言ってきても、絶対に断るが。

 とりあえず、今のレンには関わりたくない。
 神王を倒す計画なんて嫌な予感がプンプンする。

 すると、レンの背後に、白いローブを着た者が現れた。
 
 「レン様、そろそろかと」

 フードで顔は見えなかったが、声を聞くなりそいつが誰だかすぐに分かった。
 コンじい…………。
 
 「え? もう? 早いね、もうちょっと遅いかと思ったのだけれど」
 「わしもそう思いましたが、どうやらあやつらと接点があったようですな」

 レンはハァーとため息をつき、肩をすくめる。

 「さすがあの人のお気に入りだけあるというかなんというか。あー、なんかムカつくなー」
 「ここでもういらないおしゃべりしている暇はありませんぞ。今の状況を見られたりすれば今までのことが水の泡ですぞ」
 「はいはい、わかってるよ」
 
 コンじいに軽く返事をすると、レンはこちらに向き直す。そして、ニコリと笑い、手を振ってきた。

 「じゃあ、そういうことだから。ネル、レベル上げ頑張って」
 「そういうことって…………俺は神の王を倒す気なんてないからな! レベル上げはしてしまうかもしれないが、お前の計画に付き合う気は…………おい! どこに行くんだよ!」
 
 3人は光を放ち、そして、消えていった。
 すると、廊下は時間が動き出したかのように、生徒たちで溢れかえっていく。
 
 俺は呆然として立っていた。
 それはメミも同じなようで、通り過ぎていく学生たちは俺たちを奇妙な目で見ていた。

 レンは死んでいなくて、神で…………コンじいとベルティアは天使。
 レンは死んでいない。
 
 その実感が今更湧いてきていて、今にも泣きそうになっていた。
 まぁ、こんな廊下で大泣きできるはずもなく。

 俺はメミに気になっていたことを尋ねることにした。 
 
 「メミ、あの日本刀、見たことあるか?」
 「え? 二ホントウ……ですか?」

 メミは日本刀が分からないのか、キョトンとした表情を浮かべる。

 「レンの腰にあった刀のことだ」 
 「私はあのような刀を見たことありません。あの刀って『二ホントウ』っていう刀なんですね」

 メミは日本刀を知らない…………のか。

 ――――――――だいたい『日本』ってなんだ?

 『日本』とは何のことを指しているんだ?
 なんで俺はあの刀の名前を知っているんだ?

 見たことのない刀なのに。

 俺はただえさえレンたちのことで頭がいっぱいになっていたため、その疑問は放棄し、教室へと戻った。

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