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 「メミ、冷静になって聞いてくれ。あの人…………いや、あいつはレンを殺した張本人だ」
 「え?」

 メミの顔は徐々に戸惑いへと変わっていく。一時銅像のように固まり、動かなくなっていた。
 まぁ、当然の反応といえば当然か。自分の友人がまさか婚約者を殺した犯人だとは思わないだろう。

 「…………お兄様、ご冗談はよしてください。あの方はしかも事件の日は私の一緒にいたんですよ?」
 「だが、あいつは確かに犯人だ」

 すると、メミは俺の方に向いていた見開いた目を、今度は女の方に向けた。

 「ベルティアさん…………ウソですよね? レンを殺しただなんて」
 「さぁねぇ…………フフフ」
 「そ、そんな」

 絶望するメミに対し、ベルティアはニヤリと笑う。奇妙な笑みを見せてきた。

 コイツ、レンがメミの婚約者と分かって、殺して、メミにいい顔を見せていたってことだよな?
 チッ。
 ますます、腹が立ってくる。

 懐から杖を取り出し、構える。そして、かばうようにメミを背中の方にやった。

 「なあにー? 私と遊びたいの?」
 「ちげーよ。俺はお前を殺したいんだよ」

 殺したくて、殺したくて、殺したくて仕方がない。
 
 「へぇ…………私を殺したい…………ねぇ…………」

 何がおかしいのか知らないが、ベルティアはまたフフフと笑っている。

 「言っておくが、6年前の俺と今の俺では全然レベルが違う」
 「知ってる」

 思わず目を見開く。
 その言葉を予期していたかのような白銀髪の女は、不気味にニヤリと口角を上げていたのだ。

 「知ってるわ。あなたのレベル9000を超えているんでしょう?」
 「…………メミに聞いたのか」
 「いいえ、聞いていないわ」

 隣に目をやると、メミは横に首を振った。
 
 「まぁ、別にあなたのレベルがいくらかなんて、私には関係ない話――――――――メミのお兄さん、やるならさっさとかかって来なさい」
 
 ベルティアは手を振り、挑発してくる。完全になめられていた。
 
 大丈夫だ。あの頃とは違う。
 ――――――――レンのためならやれる。

 ベルティアの方に杖先を真っすぐ向ける。
 ここで戦い始めると、校舎を壊してしまう。下手をすれば生徒に被害が及ぶかもしれない。それは絶対に避けたい。

 だったら、こうするしかないよな。 

 「モーメントスポースタ」
 「お兄様!」
 
 考えを悟ったのか、叫ぶメミ。

 俺が唱えた魔法は移動魔法。ベルティアと自分の体が光り気づけば、雲よりも高い青い青い空にいた。
 
 これなら、他の者を心配する必要はない。制御ができなくともきっと誰にも迷惑はかけないはずだ。好き勝手にできる。

 下へと落ちないよう、浮遊魔法を唱える。また、ベルティアの方も同じような魔法を唱えたのか空中に浮かんでいた。

 「お空の上では何もないんだ。好き放題できるだろ」

 それにメミに兄の手によって友人が目の前で殺されるところを見てほしくなかった。
 
 風は地上よりもずっと強く、俺たちの髪を大きく揺らす。

 「俺はお前を殺す。妹がなんと言おうと」
 「メミちゃんの意見は聞かないっていうのね…………フフフ、でもね、あなたに私は殺せない」

 「…………俺はお前を殺す」
 「私は、今のあなたに私を殺せないって言っているんだよ。だって、私は――――――――」

 風向きが変わり、ベルティアの髪が横へとなびく。
 その髪の隙間から見え隠れする彼女の顔はどこか悲しそうな笑みを浮かべていた。

 「この世界の人間(・・・・・・・)ではないからねぇ」

 風の音だけが聞こえる空の上。
 どうせ、コイツの言葉遊び。惑わされるわけにはいかない。

 「お前がこの世界の人間でなかろうと、俺はお前を殺す」

 再び杖をベルティアの方に向け、

 「ソードピストーラ」
 
 唱えると、目の前に緑に光る剣がずらりと横に並ぶ。そして、ベルティアに向かって飛んでいった。

 「あらあら、いつかの私が使った魔法じゃない」
 「お前のお得意の魔法で殺してやるよ」
 「ああ、恐ろしい恐ろしい」

 そう言いながらも、女はフフフと笑みの顔を崩すことはない。完全にバカにしてされている。

 「アンロックスカテナーレ」

 と唱え、ベルティアは魔法を解除。
 パリンと割れるように剣は消えていった。

 やっぱりこれは避けられる。
 それもそうか…………ベルティア自身が使っていた魔法だしな。対策済みだろう。
 
 「レイジャヴェロット」

 俺はかつて放った特大光線よりも大きな光線を放った。一つの方向だけでなくベルティアを囲むように全方向から光線を作り出す。
 
 いくら解除魔法が使えるとはいえ、これはすぐに解除できないだろう。
 だから、俺はこの間に。

 「モーメントスポースタ」

 移動魔法を唱え、やつの頭上に移動する。瞬時に氷の剣を作り、同時に浮遊魔法解除。そして、光線とともにベルティアの方へ落ちていく。

 ちょっと大きい剣を作っちまったけど、これでいい。
 大は小を兼ねるって言うしな!

 「いいわね、いいわね。私も本気を出してみようかしら…………スティングマーレ!」

 女が唱えたのは毒針の海を作り出す魔法。彼女は自分の頭上に大量の毒針を作り出し、その針先を俺の方に向けていた。

 「そのまま私の所に落ちてこれるかしら?」

 目の前に毒針が広がっていても、俺は落ちていく。
 ――――――――俺の幻影は落ちていく。

 「残念、本物の俺はここでした」
 「なっ」

 実際、間違えてこんなところに移動しちまったわけだが。
 代わりに自分の幻影をベルティアの頭上に作り出し、あたかも上から攻めようとする戦法へと変えた。

 幻影を作り出す時、魔法制御ができてよかったぜ。
 
 「じゃあな、ベルティアさん」

 俺は右手に手にしていた氷の剣を彼女の胸にぐさりと刺した。
 ベルティアは吐血し、青い空に血がバラまかれる。

  そのうち、魔法が使えなくなったのか、彼女の体は下へと落ちていく。
 俺は彼女の体を支え、抱き上げる。

 「…………なぁ、まだお前意識があるんだろ?」
 「な、何かしら」

 ベルティアの顔は徐々に青くなっていたが、俺は問いかけた。

 「なんでお前はレンを殺したんだ」
 「な、なんでかしらねぇ…………頼まれたからかしらねぇ」
 
 頼まれた…………? 
 誰かに依頼されてやったというのか? 

 「おい、誰に依頼されたんだ? おい!」

 ベルティアの息はすでに消えていた。
 …………。
 いいんだ。俺が人殺しになったって。別に構わない。

 メミはもしかしたらショックは受けるかもしれないが、どのみちレンを殺した犯人と友人を続ける気はなかったはず。
 
 これでいいんだ。
 俺は少し凝った左肩を回す。

 「瞬間移動魔法はいくらレベルがあっても、やっぱり疲れるな」

 俺は小さく呟き、息絶えた女を見る。
 この女の死体は学園長に引き渡そう。もしかしたら、この女の身元とレンを殺した理由が分かるかもしれない。
 
 ベルティアの死体を持ち、移動魔法メミの所へ戻る。
 すると、メミは背を向けて呆然と立っていた。

 「なんで…………」
 「どうしたんだ? メミ?」
 
 俺が声を掛けると、紺の髪を揺らし、こちらに顔を向けくる。
 
 「お、お兄様、それが…………」

 メミはそう言いながら、横へとずれる。

 すると、彼女の先には1人の少年が立っていた。
 彼は銀の刺繍で装飾された白い軍服をまとい、輝く銀髪を持っていた。腰には日本刀(・・・)がある。






 「レン…………」

 死んでしまったメミの婚約者、そして、俺のかつての親友――――――――レンがそこに立っていた。

 「久しぶりだね、ネル」

 柔らかな笑みを浮かべる彼が生きていた。

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