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「す、すみません……」
「ビールなんて飲むんだな」
「ええと……た、たまに」
 そこまでは割合、平和だったのだけど、不意に天堂が腕を伸ばしてきた。ぐいっと、鈴の腕を掴んで自分に引き寄せてくる。
「で? あの男に抱かれていたのは酔った勢いか」
 言われたことにぎくりとした。
 誤解されたのだろうか。
 酔った勢い、なんて。そんなわけはない。
「ち、違います! 私がうっかりしてて、転びそうになったからで……」
「そうか。でもほかの男に隙を見せたのには変わりはないな」
 ぐっと天堂の手が、鈴のあごを掴んだ。無理やり視線を合わせられる。
 鈴は天堂のその目を見て、射すくめられたような気持ちになってしまう。
 こんな硬い目、見たことがない。
 あるなら、コトーネで厄介なお客と対峙した、あのときくらい。
 あのときのような視線を自分に向けられている。
 恐ろしさと、それから悲しさがあった。
 本当に、天堂の言うようなこと……浮気のような……そんなことはないのに。
 信じてもらえていない、のだろうか?
 「今日はメシがないんだろう」
 不意に、まったく違うことを言われた。鈴はよくわからなくなりつつも、そういう予定でいたのは確かなので、「はい……」と答えた。
 それにはもっと唐突なことが返ってきたのだった。
「だったらお前を代わりに食わせてもらおう」
 それだけであった。
 鈴がいくら、『どういう意味か』なんて視線をやっても、もう天堂はこちらを向いてはくれなかった。ただ、鈴を抱いて捕まえたまま、前を向いている。
 だいぶ気まずいし、天堂のこの不機嫌に、心臓がざわざわしてたまらない。
 そう遠くはない場所だったのだ。
 30分ほどで高速は降り、高級車は都内の天堂のマンションへ向かって走っていった。

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