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「お前はニブいからな。言い寄られても気付かないとかありそうで困るんだよ」
もう一度、鈴は詰まった。
今度、天堂の声はからかうものではなかったのだから。
もしかして心配というか……これは、少し違うのでは。
鈴の胸がとくとくと高鳴ってくる。思い当たった、嬉しい可能性、に。
その通りのことを、天堂は言ったのだった。
「お前は俺のものなんだからな。よく自覚しておくように」
つまりこれは、天堂の独占欲、なわけだ。
鈴をよそに渡したくない、という。
ほかの男に取られたくない、という。
そんなことを、はっきり言われてしまえば。
嬉しさと恥ずかしさに、鈴の顔はどんどん熱くなっていく。
「は、……はい……」
なんとか答えた。小さな声になってしまったけれど。
そのあとは話も終わったのだけど、天堂の胸に抱きこまれてしまった。
まるで、今からすでに鈴を離すまいとばかりに。
「もうちょっと仕事があるから、大人しくしてろ」なんて言ったのに、鈴を胸に抱えて、タブレットを弄りはじめたのである。
仕事があるなら、あとで呼んでくれたらいいのに、とは思ったけれど、あの話のあとだ。天堂の気持ちもわかる気がした。
それに、こうされているのも心地いい。クーラーで少し冷えていた体が触れ合って、天堂の体のあたたかさがはっきり伝わってくる。
その優しい体温と、とくとくと聞こえてくる鼓動。
胸は高鳴ってしまうけれど、同時にとても安心するものだった。
鈴は力を抜いて、天堂の胸に顔を寄せた。
ふわりと、普段使っているボディーソープの香りがした。風呂上がりなのだから、清潔感溢れる香り。これも心地いい。
さっきの言葉をもう一度、思い返す。
とても嬉しかった。
自分をよそに渡したくない、と言ってくれたことが。
独占欲、あらわにしてくれたことが。
独占欲というのはあまり良くないものだと、鈴は思っていた。
けれどそうでもないのかもしれない、と思い直した。
こうして向けてもらえるのは嫌どころか、嬉しいものだったのだから。
そして、独占したいと思ってもらえている自分は、きっととても幸せなのだ。