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「天堂さんは、優しいですね」
 素直な感じた気持ちが、声に出ていた。
 天堂は「そうかね」なんてしれっと言ったけれど。
 自覚がないはずはないけれど、特に意識せずそうしているのだから、彼にとっては特別なことだとは思っていないのだろう。そこがまた、自然な優しさに繋がっているのだろうけれど。
「だが、今のお前には違うぞ」
 不意に、天堂がこちらへ身を乗り出してきた。鈴は、距離を詰められて、違う意味でどきっとしてしまう。
 天堂は、鈴が手にしていたお茶のグラスを取り上げて、テーブルに置いてしまう。それで遮るものは今度こそなにもなくなった。
「え、な、なにが……でしょう」
 どきどきしつつ、鈴は聞く。
 こちらを覗き込んでくる天堂の目は、優しいながらも真剣な色を帯びていたのだから。心の奥まで見られてしまいそうだ、と思う。
「本当にお前はニブいな。もう少し自覚してくれ」
 はぁ、とため息をつかれたけれど、もう知っている。
 これは不満なのではないのだ。
 むしろ、鈴のそういう性質も好いてくれているのだ。
 そういうこと、声や口調からわかる。
 わかってしまうようになった。それが、嬉しい。
「もう、『店に来ていた客の女』じゃないんだからな」
 そして、もっとわかりやすく言ってくれた。
 鈴は違う意味で胸を高鳴らせてしまう。
 そうだ、今はただの『行き会った相手』ではない。優しくする意味だって、まったく違うものになって当然だった。
 鈴がその、『特別扱い』をしてくれているということに思い当たり、嬉しくなったのを悟ったのだろう。
 天堂は満足げに笑って、手を伸ばしてきた。するっと鈴の頬に触れる。
 冷房の中でも、しっかりあたたかな大きな手。
 包まれると安心とどきどきが同時に湧いてきてしまう感触だ。
「こんなもんじゃ済まないから、覚悟しろよ」
 最後に言われたそれは、きっと宣言であった。
 鈴のことを大切にすると。
 特別に扱うと。
 ……天堂の恋人の、1人の女性として。
 すっと近付けられ、触れ合ったくちびる。
 そこからその想いが、しっかりと、濃く、強く伝わってきた。

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