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 ソファに2人で座る。
 あのとき、映画を見たときのことを思い出してしまったのだ。
 また腰を抱いたりされるかもしれない。
 いや、あのときのような、それ以上のことも……。
 しかし内心、首を振った。
 このソファはリビングのものの半分くらいしかない。つまり、押し倒されるスペースなどないわけで。それなら別になにもないだろう。
 思って、鈴は「で、では」なんて言ってしまった。一応、今は自分の持ち物とさせてもらっているものなのに。
 ソファに腰掛けて、自分のぶんのカップを手に取る。濃く煮出したロイヤルミルクティーの薫り高い茶葉の香りが心地良く鼻をくすぐった。
 ひとくち、口に含む。ふわっと、紅茶の濃い味と、まろやかなミルクの味が混ざり合って、とてもおいしくできていた。
「うん、まぁまぁだな」
 天堂もひとくち飲んで、一応彼の中の合格点ではあったようで。そう言ってくれた。
「まぁまぁ、ですか?」
 まぁまぁ、ということは、最高ではないということだろう。
 鈴は何気なくそう言ってから、はっとした。
 そんなこと、当然だったかもしれないのに。
 自分が自己流で淹れたものよりも、ずっとおいしい紅茶。天堂はきっと、高級な喫茶店なんかで飲んでいるはずなのだ。
 それと張り合うようなことを言うなど、図々しかった。
 鈴は恥じ入ったのだけど、天堂はにやっと笑った。
「なんだ? お前のものが最高、とでも言ってほしかったか?」
 明らかにからかう言葉。鈴は肩を縮めて「いえ……」と言うしかない。
 その鈴の様子を見て、天堂はまたおもしろそうに笑うのだった。
「別にいいだろう。家でまで最高級品を飲む必要はない」
 それは褒められているのか微妙な言い方であったが、少なくとも、天堂は『こういうものが良い』と思ってくれているのは確かなのだろう。鈴は、ほっとしてしまった。
 これで良かったのだ。最高級品にはかなわなくても、家庭的なおいしさはあると言ってもらえて……。
 そこで鈴は、はたとした。
 普段の自分の料理からして、そうではないか。
 天堂は外でいくらでもおいしい料理を食べてきているだろうに、鈴にオーダーしてきたのは『家庭的な料理』だったのだ。夜だって、外で高級な食事を済ませて帰ってきたっていいのに。
 ……もしかして、おうちで食べるような『普通のご飯』に、憧れてる、とかなのかな?
 鈴はそう思った。
 言わなかったが。
 口に出すようなことではないだろう。まだそこまで立ち入ったことは。

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