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『ほんとに、そういうことなら話してくれたら良かったのにー』
『ごめんごめんってば』
『今日の朝、心臓止まりそうになったんだからね!』
『あのときはありがとう、助かったよ』
 スマホの中に文字がどんどん行き交いしていく。夕食後の鈴は、メッセージアプリで、歩美とやりとりをしていた。
 ランチタイムに、会社から少し離れたカフェに連行されて、一連の事情をすべて話すことになった。
 そこで「実はバイトの雇い主の天堂の家に住まわせてもらっている」と話したのである。
 歩美は「隠さなくてもいいのに」と膨れたし、鈴はそれに関しては謝るしかない。歩美を信用していないようなことだったのだから。いくらこういう事情とはいえ。
 ランチタイムだったのであまり時間がなく、簡単な説明しかできなかったので、今、メッセージが来たのをきっかけに、また話をしていたところ。
『でもさー、こんなに早くキスマークなんてつけてくるとか大胆だね、天堂さん』
 不意に歩美の話題がそんなところに行って、鈴はちょっときょとんとしてしまった。
 こんなに早く?
 住まわせてもらってから……だろうか。確かにまだ半月も経っていないし……。
『早いかな?』
 鈴の返事はそれだけになった。だがそのあと返ってきたことに仰天してしまう。
『早いよ! 付き合ってすぐキスマークつけてくるとか、相当独占欲強いよね』
 ……付き合って???
 鈴は目を丸くしてしまった。
 いや、付き合ってなどいない。歩美に誤解されたようだ。
 鈴はあわあわと『付き合ってないよ!』と返事を入力しようとしたのだけど、打ちかけたところで、手が止まってしまった。
 付き合ってなんていないのは本当だ。
 でも、それなら……どうしてキスなんて?
 歩美の思ったことは当たり前ではないか、キスなんて普通は付き合っていなければしないものなのだから。
 誤解されて当然というか……あれ?
 鈴は続きが入力できなくなってしまう。
 では、付き合ってもいないのなら、天堂はどうしてキスなどしてきて、おまけに痕が残るくらいにしてきたというのか。
 自分でわからなくなってしまったのだ。
 気付くのが遅すぎる、と自分で思ったのだけど、今までは『きっとからかわれているのだろう』と思っていたのだ。
 自分が慣れていない反応をするのがおもしろいからと。
 あのときお風呂で遭遇してしまったときのことから、味を占めたのだろうと。
 でも、本当にからかっているだけなのだろうか?
 だって、鈴が今日、朝、歩美にキスマークのことを指摘されなかったら、会社のひとたちにそのままバレていただろう。天堂はそれで良かったというのだろうか。

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