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「ん……いい香りだ」
 言われて、鈴の顔が違う意味で熱くなった。
 天堂はさっき、夕食前にお風呂に入っていたけれど、鈴はまだなのだ。帰ってから汗拭きシートで一旦軽く拭いたとはいえ、もう夏前なのだから、汗のにおいもしてしまうかもしれないのに、そんなこと。
「ちょ、そんな……っ」
 顔が赤くなっただろう。鈴のその反応を見て、天堂は口のはしを上げる。
 その顔を見て、鈴はやっと理解した。
 自分を恥ずかしがらせたかったのだ。そういう意図だ。
 また引っかかってしまった、と思いつつも、実際、恥ずかしく思うのはどうにもならない。
「なんだか食欲をそそるな」
 その言葉の通りに口を開けられて、その口が触れたのは肩口に。かぷっと噛みつかれる。
「んっ!」
 軽い痛みが肩から起こった。甘嚙み、程度の強さであったけれど、歯型はしっかりついてしまったのではないかと思わされた。
 噛みついたあとには、舌がそこを這う。まるで鈴を本当に食べてしまうようなやりかたであった。
 次にはもう一度、首すじに顔をうずめられ、しかし今度は舌が這うだけでは済まなかった。
 ちゅぅっと強く吸われる。やはり軽い痛みがそこから生まれた。
 首すじ、こんなところを吸われる意味は、鈴にはわからなかった。こういうことをされたのが今までなかったのもあって。
 強く何度か吸われて、鈴の息が上がっていく。そこでやっと、離してもらえた。
「ごちそうさん」
 ぺろ、とくちびるを舐めて、天堂は不意に起き上がった。鈴の上から退く。
 ごちそう、さ、ま……?
 鈴は荒くなった息をつきつつ、ぼんやりその言葉を反すうしていた。
 しかし数秒して、正しい意味が脳に届く。かぁっと顔が熱くなった。
「なっ……、私はご飯じゃありません!」

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