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「この映画、見たことあるか」
天堂はなにも気にしていないという声音でそんなことを聞いてきた。
鈴から手は離してくれなかったけれど。
鈴はそわそわしつつも「いえ」と答える。見たところ、アクションものらしいが、本当に見たことがなかったので。
「そうか。女はこういうもの、好まないか」
「あ、いえ……そう、ですかね……」
確かに女性がよく好むのは、恋愛ものとか、あるいはファンタジーとか……そういうものだろうけれど。
はっきりそう言うのも失礼なのか、なんて思ってしまって、やはり鈴の返事は濁ってしまった。
「なんだ、自分のことじゃないか」
鈴の答えはどれもあいまいになってしまっただろうに、天堂はむしろ目元を緩めたのだった。
「好きなひともいるかと、思いますから」
そんな会話がされる。まったく普通であった。
雇い主の天堂とこんなふうに、密着して見ているのはだいぶ信じられないが、会話内容はとりあえず、普通であった。
鈴は首をひねってしまうような出来事ではあるけれど。
天堂は一体どういうつもりなのだろうか……?
家族や同居人がいないから、話し相手が欲しかったとか?
そんなふうに考えてしまった鈴だったが、それはだいぶ楽観的な考えだったと、数分後に思い知ることになる。
映画はだいぶ進んでいて、多分半分は越しただろうという様子であった。だが鈴はだんだん居心地が悪くなってきた。
なにしろ、映画の中では主人公の男性と、ヒロインの女性が抱き合っていたのだから。恋人未満、という関係なのだが、きっとこのシーンでそれは変わるのだろうと思わされた。
そしてどうも……抱き合うだけでは済まなさそうで。
キスとか。
いや、それ以上のこととか。
起こりそうで、鈴はいたたまれなくなってしまった。
普段ならそう緊張もしないだろうけれど、今は状況が状況である。一番身近な男性に、何故か腰を抱かれてしまって見ている今で、こんな内容。
用を思い出したとかで、おいとましようかな。
でもこんなシーンになったからってそう言うのも、あからさまかも……。
また「慣れてない」とか思われてしまうかも……。
色々頭に巡って、でもその様子で天堂にはしっかり知られてしまったらしい。
くくっと笑う声がして、鈴はぎくりとした。
そちらを見ると、天堂は笑みを浮かべていた。
「この程度で気になるのか」
からかわれた。
そう感じて、鈴は、かっと顔が熱くなるのを感じた。
気になって当たり前だとは言いたい。だけどそんなことを言ったら、きっと、もっとからかわれてしまう。
でもそう見えるくらいなのだから「いえ」とも言えない……。
詰まった鈴に、天堂はもうひとつ、ふっと笑って、そして何故か。
すっと、手がこちらへ伸びてきた。
「映画の内容をなぞるのもいいだろう?」